58号線沿いのリゾートホテル。
暑さのせいか、さすがに客足も遠のいた昼下がりのプールサイドでのことだ。
大王椰子の陰の下、ノースリーブのブラウスを涼しげに着こなし、少しばかり痩せて謎めいた女(テーブルに腰掛けている)がひとり、初老のウエイターを呼んで飲み物を注文している。
グリーンのキャンヴァスの日除けの下に設えた移動式のバーカウンター。遠目でバーテンダーの手元を追えば、作っているのはミントジュレップかモヒートか...。
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ほかに何する様子もなくカクテルを飲み終え、ひと息ついた女が、急に背筋を伸ばし、何か思い出したような仕草を見せたのは、その日最初の西風が吹く頃...。
おもむろに席を立ったその人が、逆光線の中を広い歩幅で遠ざかる。
それは夏の蜃気楼か。
もし、それが蜃気楼ではないというなら、彼女の去ったあとには、曰くありげなオリエンタル・パルファムなど香っているかもしれない。