きみの靴の中の砂

作家は旅の途上にいなくてはならない





 ロラン・バルト(Roland Barthes、1915年11月12日 - 1980年3月26日)は、『彼自身によるロラン・バルト(Roland Barthes par Roland Barthes, 1975)』の一項『幻想としての作家』(110頁)でこんなことを書いている。

 『将来、自分は作家になるんだ』という幻想を抱いて青春を過ごす若者は、恐らくもう一人もいないのではないか。

 画家や音楽家になろうとする者に技術や生き方の手本となる芸術家が必要なのと同様、文章を書く者にとっても、それに値する作家が不可欠であるとバルトは言う。しかし、そういう手本となる作家が今や同時代にはいないとバルトは嘆くのである。作家としての仕事ぶりや態度、例えばポケットに手帳を入れて、頭で文を考えながら歩くといった、あの流儀を、いったい誰から習えばいいのかと気にかける。

 バルトには、そういう役割を担った同時代の作家としてアンドレ・ジッドがいたと打ち明ける ----- 1939年のある日、リュテシア食堂の奥まったテーブルで、梨を食べながら本を読んでいるジッドを見たことがあると。その経験から、『気に入った名作を読みながらロシアからコンゴまで旅して、食堂車で料理を待ちながら、手帳に何か書き付けるジッド』を幻想し、その幻想に強制され、バルトはジッドになりたいと願ったという。

                   ***

 現代作家を見渡すと、その生き方をも模倣したくなるような、いかにも創作家らしい特異な生活を送る人が少なくなった。昔に比べて、作家も大分こぢんまりと家庭的になったのだろう。

 作家は旅の途上にいなくてはならないと言ったのは誰だったか。

 寺山修司は、『書を捨てよ、街に出よう』と書いた。
 Joe Buckは、故郷に何もかもを残し、その日、ニューヨークへ旅立った。




【Harry Nilsson / Everybody's Talkin'】


 

最新の画像もっと見る

最近の「これくしょん」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事