きみの靴の中の砂

誰でも考え付きそうな





 日曜日の昼下がり、食器棚の前に脚立を立て、
「いよいよ白菜が旬よ」とイチ子が新聞紙にくるんだ土鍋を食器棚の上からおろしながら言う。

「今夜、鍋なの?」とぼく。
「そうよ、白菜と豚肉のお鍋」
「それって、ちゃんとした名前があるんだよね?」
「さあ、『豚肉と白菜の蒸し煮』とか『豚肉の白菜鍋』とかいうのかしら...」
「もちろん味付けは違うけど、中国や韓国にもそんな鍋があるよね」
「まぁ、手近に豚肉と白菜があれば、誰でも考え付きそうな鍋よね」
「それって、お酒と水と白菜から出る水分だけで煮るんでしょ? 学校の後輩に奥多摩の蔵元の息子がいて、そんな鍋を杜氏さん達がまかないで食べるって聞いたことがあるよ」

「これから寒くなればなる程、白菜は、どんどん美味しくなるからね」と言いながら、イチ子が土鍋をくるんでいた新聞紙をはずすと、キッチンに古新聞紙独特の乾いた紙のかさつくた音がした。
 ぼくは脚立を片付けながら、さて、今夜は何を飲もうかと、早くも考え始めていた ----- 残ったスープに好みの味を付けて、それで又もう一杯飲むのもいいな、などと思いながら...。




【Natalie Williams & Soul Family / Heatwave】


 

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