イリアーデの言霊

  ★心に浮かぶ想いのピースのひとかけら★

GENE[ゲーン](5) 官能の妖精イリ

2007年03月30日 07時48分26秒 | 小説

 他よりも過ぎた文明や突出した科学力を望んでいなくても有している事がまるで“悪”であるかのように、そんなくだらない理由結託した身勝手すぎる国々の暴挙により、後のチャンシャン王妃…二形(両性具有)の主人公イリ・イン・ラーチョオ祖国である天空帝国を失いました。鎖国する事情があるのだろうと思い遣らずに、傲慢な態度だと一方的に憤懣を溜め続けた末に、同盟を結んで滅ぼさないと矛先が自分たちに向くからという保身の為に、チャンシャン王国、そしてセルゲ・ロッサは、チーイン王朝最後の皇太子ラカ・チーイン・チーイン狂っているとも知らずに彼の虚像を真に受け、隷属したという自覚もなく、そうなっていました。

 そして、チーイン王朝真・天空帝国を名乗り天空帝国を滅ぼし、血族の片割れであるラーチョオ王朝を皆殺しにしました。300人以上いる皇族の末席に過ぎない、一般市民(コモン)と変わらぬ生活を過ごしていたラーチョオの名を冠する”イリは、13歳の時、愛する科学者の両親処刑され、〈太(タ)大陸〉の北東側の〈嵐の海〉にある天空帝国だった島に残された民たちは皆殺しにされ、両親を失ったイリは、チーイン王朝の手先である自由同盟の先の盟主フィアルドの己の欲望を兼ねた人身売買で、他の皇族や天人の血を引く市井の民と共に奴隷として売られた事で皮肉にも生き残ったのです。

 ラーチョオ王朝光油を独占していると難癖をつけて国土は壊滅皇族から市井の民に至るまで人身売買で奴隷として売り飛ばされたイリを含めた一部を除き殲滅…皆殺しにする、という虐殺を行ったチーイン王朝加担したチャンシャン王国セルゲ・ロッサは現実には同盟を結んだことで植民地化を受け入れるのを自ら承知した、という事に13年も経った今更になって気付くなんて、遅すぎるぞタワケどもが  イリの愛する男がチャンシャンを愛する国王ヤンアーチェでなければ、チャンシャンが滅んだところで、私の心は少しも痛まない  自業自得だからです  共和制の恩恵に浴した飾り物の分際で、チーイン王朝に身売りし公王家による〈海下(カイカ)大陸〉の独裁を実現させたセルゲ公国なんか滅んだ方が良かった。イリにとってのエルネスト・ヤーゴ・レイダー公に比べればセルゲ公王に生きる資格はありません ましてや、バルトの手駒になり得る存在となるディトリスがいたせいで、イリフィアルド親父同様にロクデナシのバルトに捨てられたのだから

 天空帝国の人々皇族から市井の民に至るまで、そして後にセルゲ公王家を唆し攻め滅ぼしたイリ第2の祖国《ロッサ共和国》の人々も、その全てをラカの人体実験のモルモットに提供していたフィアルドの悪行を…自分とは逆にラカの手先だったと知りながらも諌める事を怠っていた愚かなバルトは、その父と同類ゆえに“凌辱処理の人形”と看做していた己を自覚しただけマシなロクデナシでした。イリの心に生きる意欲を…愛の炎を燃やして欲しい、と本気で願ったのでしょうが、自分に対する想いが上辺だけのものだとイリの無意識が…その本能が悟っていたからこそ何の変容もなかった。生半可な想いなど無能なのだと遂に悟れなかったバルトに世界を救えるはずがない…背負える筈がないのです その行動が示すようにバルトの世界に対する感情も“広く浅く”なのですから

 望まぬ情交も含まれるけれど、長きに渡る男遍歴の中でデイトリット・ファーハンネイト・ドワウス・セルゲ(享年22歳)“優しい想い出”となってイリの心の中にいられるだけ、至福と思って貰わないとイリ可哀想です。何故なら、第3巻『紅蓮の稲妻』の「1 国葬」での初対面で、「そうかこんなところに……この者はロッサの貴族、エルネスト・ヤーゴ・レイダーの愛人のイリに違いありません。卑怯にもレイダーは戦前に配下の者に財を分け与えて逃がし、みずからは歴史的価値のある〈千本針の城〉を焼いて自害した大罪人です。この者はレイダーと共に死んだとされておりましたが、よもや異国の情けにすがって生き長らえていたとは……この者を引き渡していただけるのですね?そのために殿下はこちらで待てとおっしゃられたんですね」(P.40~42)などと、あろうとかレイダー公大罪人と罵倒イリセルゲの父王に重く処罰して貰おうと思っていたのですから。しかし、官能の妖精イリに溺れ虜になりました。無理もありませんね 亡きレイダー公《理想の愛妾》とすべく調教し、文化文明の誉れ高きロッサ共和国の最高の教育を施し、夜のレッスンも欠かさずにイリ磨き上げたのですから

 第7巻『螺旋運命』の「2 デナルドン・ファミリー」イリ、なぜ自分があの男に狙われているのか、心当たりはないのか?」「やはりお前もアイツは俺を狙っていると思うんだな、バルト」唇を結び、イリは青ざめた頬を伏せる。愚鈍なふりができても、気づかないふりをしてみても、現実は変わらない“アイツ”と最初に会ったときから不安を感じていた。それは無垢だった自分に性技を仕込んだレイダー公に感じた畏怖ともまた、まるで異なる感覚だった。なにか嫌な予感、うすら寒い恐怖を感じる。あの美貌の裏側にある目に見えないなにかが、形をなさない恐怖を発しているのは間違いない。”(P.82~83)とあるように、チャンシャン後進国の野蛮人と陰口をたたかれて屈辱を感じているようですが、本当の事を言われているだけの、近代国家からは程遠い蛮族に違いありませんね。国政改革の道具として、散々、利用した挙げ句に切り捨てたホークァンでさえ、まだ自由同盟を介して入手したチーイン王朝の皇女だという偽情報にあるワラウル・ドーテ・チーイン諜報・暗殺を司る〈影〉である事も、その〈影〉の存在自体を知らなかったド阿呆ですから。

 流石は後宮に召し抱えても権勢欲とは無縁の女だとヤンアーチェ太鼓判を押しただけの事はあるヨンジャです  イリヤンアーチェの絆の深さをよく理解していますね、『螺旋運命』の「4 青春の終わり」ヤンアーチェはヤカテー神のうつし身なのだ。イリをなくせばヤカテー神は狂うだろう。それはチャンシャンの崩壊を意味している”(P.143)イリの存在の重要性リンゴビエニィの次に准ずるとはいえイリヤンアーチェの理解者ですね



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