
血族婚を繰り返し“先祖返り”ゆえに天人の末裔の特徴である、光の加減で青銀の輝きを帯びるブルー・ブラックの髪と銀の漣のような銀灰の煌めきを宿す黒真珠の瞳、男でもなく女でもなく、そのどちらでもある完全な二形の肉体を有する《GENE[ゲーン]》シリーズの主人公イリ・イン・ラーチョオは、科学者でもある金髪碧眼の父母の許にラーチョオ王朝の末席として生を受けました。
イリが13歳の時、ラーチョオ王朝が2千年前に袂を分かったチーイン王朝とその三下に成り下がった三国同盟の他2国(チャンシャン王国、セルゲ・ロッサ共和国)に侵略&殲滅され、太大陸の近くの《嵐の海》にあった天空帝国の焼き払われ、辛うじて助ったと思ったのもつかの間で民も1人残らず皆殺しにされた後の島は真・天空帝国を名乗るチーイン王朝により植民地化されました。
知的資源となる事を拒んだ両親を〈旧・三国同盟〉によって処刑されたイリは〈旧・三国同盟〉の締結に暗躍した自由同盟の人身売買でエルネスト・ヤーゴ・レイダー公爵に性奴として身請けされました。レイダー公の居城〈千本針の城〉に迎えられ、〈理想の愛妾〉として育て上げるべく〈王蘭の間〉を与えられ調教されました。そして、公の理想どおりに…いえ、それ以上に素晴らしい存在となり、誰よりも深く公の寵愛を受け、〈第1位の愛妾〉として君臨しました。
ところが、その3年後に《真・天空帝国》に唆された“無駄にプライドの高い”セルゲ公王家に戦争を仕掛けられ、敬愛する養父レイダー公を失った16歳のイリは、流れついたチャンシャン王国の後宮で先の国王ユンヤミンの寵妃として…ユンヤミンの死後はタオホンに囲われながらも己の“女性器”を無用な肉体的欠陥だと思い、己に“それ”がある事にさえ嫌悪を抱き恥辱の象徴として忌み嫌っていました。山藍紫姫子先生の(株)宙(おおぞら)出版『イリス‐ 虹の麗人‐』の「Ⅱ」で“イリスは自分のなかの女を嫌悪してきたのだ。それを晒してみせるというのはどうにも耐えられないことなのだ。意識のうえでは、男として生きてきたのだから。男として、必死にやってきたというのに……。”と、己の肉体の“女”を嫌悪していた両性具有の主人公イリス・ネルロードのように。
但し、《GENE[ゲーン]》シリーズの二形(両性具有)の2人には生殖能力がなくヤンアーチェとの愛により卵巣から卵子が発生したイリは後にヤンアーチェの正妃となり王子を出産して次の世代を残す事が出来ましたが、既に狂っていたラカは“愛”を知る事は無く生殖能力を得る事はありませんでしたが、それを除いても決定的に異なる点は、山藍先生の描く両性具有とは、子宮のない不完全なタイプ(チバガイギー社の資料を参考 by 山藍先生)で、生殖能力の有無以前の問題です。
真・天空帝国が滅び、ロナン連邦が樹立され、チャンシャン王国・ロナン連邦・セルゲ公国の新三国同盟の調印式が行われた後にイリの許を訪れたヤンアーチェは不機嫌の塊でした。チャンシャンにいれば金髪銀髪赤毛のトリオ(金髪=ミハイル、銀髪=サーシャ、赤毛=リンゴ)に“何故、イリを連れ返らないのか ”と責められ、ビエニィには泣きつかれ
、と散々なのに、肝心のイリは調印が済むまではと沈黙を守ったままなのですから当然ですね。しかし、この完結巻でのバルトとホークァンの関係は逆転していました。バルトは世界の命運を背負っているヤンアーチェが“たった1人の人間の為に動くなど”とイリを切り捨て、ホークァンが“言うな!”とヤンアーチェを行かせた狂気の沙汰(今迄のホークァンの悪行のせいで正気の言葉とは信じがたい)でバルトを沈黙させたのは珍しいシーンでした。しかも、ミハイルまでもがイリを見捨てる言葉を、口走っていますが、これは明らかに五百香ノエルの明白なミスですね。
五百香ノエルはチャンシャン軍を全軍投入して真・天空帝国を倒せたとしても、“イリを盾にされた時、祖国をイリ一人の為に犠牲にするなんてバカげている!”と兵士たちがそう考えるに違いないから、真・天空帝国諸共にイリを滅ぼすだろう、とミハイルに言わせたかったのでしょうが、“世界がイリ一人の為に犠牲になる必要はないんだ”という言葉ではミハイルが“世界”如きの為にイリを犠牲にしても構わない、と見捨てる言葉を吐いたかのような、誤った印象を読者に与えてしまいます。真のミハイルは“死んでもイリを見捨てる言動とは無縁”の、見返りをイリの想いよりも優先させてしまうサーシャとは異なり、無限に“無償の愛”をイリに捧げる男ですから。
ところで、ホークァンに血迷って感心してしまったのもつかの間、“昔から、一国が突出した軍事力や資源を占有してはいけないという事さ”という愚かな持論を振り翳したのは相変わらずなので、呆れました。その愚考ゆえに“富を占有した”という言いがかりでしかない、理由にならない理由で、イリと同様に人身売買で離散した人々を除くラーチョオ王朝とその民を皆殺しにして国土を焼き捨てる、という許されざる大罪を犯したのですから。
本来ならば、チーイン王朝最後の皇太子ラカ・チーイン・チーインに尻尾を振っていた手先のフィアルドは勿論、フィアルドに騙されていた自由同盟の面々、他の“右ならえ右”をやらかしたチャンシャン王国、セルゲ・ロッサ共和国も皆殺しの報復を受けたって文句を言えません 投票によりロナン連邦の大統領に就任したジャコー・セリオンもその1人です
何故かと言うと真・天空帝国としてのチーイン王朝の罪はセリオンが最初の仕事として謝罪すべきなのに、彼らに滅ぼされた真に“天人の罪”を自覚するラーチョオ王朝の生き残りであるイリにチーイン王朝の罪
を謝罪させ、幽閉したからです。
画像は、宙(おおぞら)出版より復活した山藍先生の両性具有3部作(1つだけ性転換手術による人為的な両性具有あり)の1つである『イリス‐虹の麗人‐』です。但し、主人公のイリスは両親や兄姉に拒絶され、トラウマを抱えていたとはいえ、慢性ヒステリー&被害妄想の塊です