ようやく笑いをこらえ、しばらく雑談するうちに電車は池袋へ到着。
ここまで来れば会場までは徒歩2分、時間も予定どおりだ。
出口だけ間違えないようにと注意深く案内板に目を配りながら駅を出る。
と、うっすらと雪化粧したブルーグリーンの屋根が見えた。
「あれ、ホテルのチャペルやない?わー近い近い!着いた着いた!よかったあ~~」
早足で横断歩道を渡り、エントランスをくぐる。
チェックインにはまだ早いので、事前に新婦から連絡があったとおり着替え室へと向かう。
エレベーターの扉が開くと同時に、そこかしこでスーツやドレスに身を包んだ人々の
楽しげに談笑している姿が目に入った。
日取りがよいのか、今日はづな達が出席するほかにも何組かの披露宴が執り行われるらしい。
後に聞いた話によると実に7組のカップルが、あの日喜びの宴を催していたとのこと。
さあ、リハーサルまであまり時間もない。づなとなこ、かことりこの二手に分かれて
着替え室に入り、トランクからワンピースをひっぱり出す。
と、手洗いから戻ってきたなこが勢いよくカーテンを開けたかと思うと
「しょこがおった!!ちょっとあたし写真撮ってくる!!」
と昨日買ったばかりだというデジカメを手に慌てて出て行った。
え!!あたしも撮りたい!!
しかしさすがに今のこの半裸の状態で出ていくわけにもいくまい。
ただでさえ万事において動作が鈍いうえに大きくなってきたおなかを抱えては
スピーディに動くこともままならず、とりあえず着替えを続行することにする。
「超きれいだった~~!!」
うらやましいぜ・・
満足げに帰ってきたなこも手早くスーツ姿になり、まずは余興のリハーサル時間が
迫っている彼女から、かこに髪をセットしてもらう。
ロングヘアを上品にくるりと巻くと、颯爽と着替え室を後にした。
続いてふわりとセットしてもらったづなも、この後とあるリハーサルを控えている。
今回、新郎新婦が選んだホテルメトロポリタンのウエディングには、
「約束の花」という人前式がある。
7人のプレゼンターがバラの花を手にメッセージを読み上げ、その花でリングピローを
飾ってゆくというもの。
わくわくしながら会場へ向かうと、扉の向こうからリハ真っ最中のなこの歌声が聞こえてきた。
本番までは何を歌うか内緒にしたいから当然教えないし、聞こえたらばれるから
リハでは別の曲を歌うと言っていたが果たして本当なのだろうか。
だとすると今聴こえてくるこの歌は違う歌ということか。
というかそれってリハの意味なくね?と笑いながら話したものだが、これいかに。
なこの歌声と見事なハーモニーを奏でているのは、前日に東京入りしている愛媛からの友人で
自身のピアノ教室を営んでいるりお(仮名)。その演奏たるやさすがである。
そっと扉を押して滑り込み、しばし二人の織り成す音に酔う。
やがて時間も差し迫ってきたところで交代となり、プレゼンターの面々が会場へ入ってくる。
両家のご両親とご兄弟に新郎の上司、友人という顔ぶれだが、
新婦しょこの母上の顔を見た途端に涙がこみあげてきた。
おばちゃん!
づなちゃん!
駆け寄って手を取り合い、お祝いの言葉を述べようとするも胸がつまってしまい
かろうじておめでとうございますとだけ告げたが、もう何と言ってよいものやら。
涙を隠すように、この髪ね、かこちゃんに切ってもらったんよ~とおばちゃんが笑顔を見せる。
かわいい!似合う!とづなも負けじと笑顔で応える。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/ef/67a9b47fdc18a5567d82b22ae63951d2.jpg)
~言いたいことならたくさんあるのに、なぜかひとつも言葉にならない~
昔そんな歌があったなとふと思い出す。おばちゃん、本当におめでとう。
ここまで来れば会場までは徒歩2分、時間も予定どおりだ。
出口だけ間違えないようにと注意深く案内板に目を配りながら駅を出る。
と、うっすらと雪化粧したブルーグリーンの屋根が見えた。
「あれ、ホテルのチャペルやない?わー近い近い!着いた着いた!よかったあ~~」
早足で横断歩道を渡り、エントランスをくぐる。
チェックインにはまだ早いので、事前に新婦から連絡があったとおり着替え室へと向かう。
エレベーターの扉が開くと同時に、そこかしこでスーツやドレスに身を包んだ人々の
楽しげに談笑している姿が目に入った。
日取りがよいのか、今日はづな達が出席するほかにも何組かの披露宴が執り行われるらしい。
後に聞いた話によると実に7組のカップルが、あの日喜びの宴を催していたとのこと。
さあ、リハーサルまであまり時間もない。づなとなこ、かことりこの二手に分かれて
着替え室に入り、トランクからワンピースをひっぱり出す。
と、手洗いから戻ってきたなこが勢いよくカーテンを開けたかと思うと
「しょこがおった!!ちょっとあたし写真撮ってくる!!」
と昨日買ったばかりだというデジカメを手に慌てて出て行った。
え!!あたしも撮りたい!!
しかしさすがに今のこの半裸の状態で出ていくわけにもいくまい。
ただでさえ万事において動作が鈍いうえに大きくなってきたおなかを抱えては
スピーディに動くこともままならず、とりあえず着替えを続行することにする。
「超きれいだった~~!!」
うらやましいぜ・・
満足げに帰ってきたなこも手早くスーツ姿になり、まずは余興のリハーサル時間が
迫っている彼女から、かこに髪をセットしてもらう。
ロングヘアを上品にくるりと巻くと、颯爽と着替え室を後にした。
続いてふわりとセットしてもらったづなも、この後とあるリハーサルを控えている。
今回、新郎新婦が選んだホテルメトロポリタンのウエディングには、
「約束の花」という人前式がある。
7人のプレゼンターがバラの花を手にメッセージを読み上げ、その花でリングピローを
飾ってゆくというもの。
わくわくしながら会場へ向かうと、扉の向こうからリハ真っ最中のなこの歌声が聞こえてきた。
本番までは何を歌うか内緒にしたいから当然教えないし、聞こえたらばれるから
リハでは別の曲を歌うと言っていたが果たして本当なのだろうか。
だとすると今聴こえてくるこの歌は違う歌ということか。
というかそれってリハの意味なくね?と笑いながら話したものだが、これいかに。
なこの歌声と見事なハーモニーを奏でているのは、前日に東京入りしている愛媛からの友人で
自身のピアノ教室を営んでいるりお(仮名)。その演奏たるやさすがである。
そっと扉を押して滑り込み、しばし二人の織り成す音に酔う。
やがて時間も差し迫ってきたところで交代となり、プレゼンターの面々が会場へ入ってくる。
両家のご両親とご兄弟に新郎の上司、友人という顔ぶれだが、
新婦しょこの母上の顔を見た途端に涙がこみあげてきた。
おばちゃん!
づなちゃん!
駆け寄って手を取り合い、お祝いの言葉を述べようとするも胸がつまってしまい
かろうじておめでとうございますとだけ告げたが、もう何と言ってよいものやら。
涙を隠すように、この髪ね、かこちゃんに切ってもらったんよ~とおばちゃんが笑顔を見せる。
かわいい!似合う!とづなも負けじと笑顔で応える。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/20/ef/67a9b47fdc18a5567d82b22ae63951d2.jpg)
~言いたいことならたくさんあるのに、なぜかひとつも言葉にならない~
昔そんな歌があったなとふと思い出す。おばちゃん、本当におめでとう。
前の日にお母さんに『今までありがとう』ってドラマみたいに言うんだろーなぁーって思ってたけど、普通に回転寿司行ってスーパー銭湯行って、家でお母さんは大好きな嵐の番組観て爆笑しよって、私はバタバタ荷造りして…『じゃ、明日早いし寝よ寝よ』みたいな。
当日は夢のように時間が過ぎるしな~
みんなそう?
さっきから壁をいくつか隔てた場所から聞こえる声に耳を傾けている。
その声は今日の日を喜んでいる母や義母、親しい親族から発せられるものだが、その中で気になる言葉がしょこの耳をダンボにさせた。
『ネクタイがないんよ』
『ええ?!忘れたん?』
『いや、持ってないんよ』
その声の主はしょこの弟。トホホである。
直ぐ様、新郎が衣装室から借りてきてことなきをえたようだが、この出来事をきっかけに、しょこは自分のアドレナリンがどんどん分泌されているのを感じた。何事もなく無事に披露宴が終わりますように…ここ何ヵ月かこの日のために時間を費やしてきた。新郎と喧嘩もいっぱいした。遠くから来てくれる人達もたくさんいる。やりとげなくては…!
『緊張されてます?』
メイクやヘアセットを同時にされているので、人形のようにされるがままでいるしょこに優しい笑顔で若いメイクさんが話しかける。
『いえ、興奮してきました』
意外な言葉が返ってきたからだろう。若いメイクさんは苦笑いを浮かべてブラシをいっそう手際よく動かした。
しょこ自身も意外だった。緊張や切ない気持ちに包まれ、このウェディングドレスを着ると思っていた。
実際はこのかたいビスチェが鎧のように思え、まるで宿命の相手と、一戦交える前の戦士のように『よっしゃ』と小さく呟いて、椅子から立ち上がった。
あたしもそのあたりの記憶がないので過去メールを見たけど
入籍日のものが残ってなくて、前後から察するに
「明日市役所行く前に会社寄るけん、婚姻届にお母さんの名前書いて」
っていうやりとりはしたらしい。
完全にタイミング逃したなあ。
あるのにね、言いたいこと。
「いやかわいー、その服!」
「この花ここにつけたら変?」
「手首に巻くやつ忘れてきたんよ~!」
「のー、ここって禁煙?」
池袋のホテルの一室に飛び交う、故郷の大洲弁。
地元からの出席者は総勢10名を越えるらしい。
「はいできた!次誰ー!?」
美容師であるかこはてきぱきと立ち回り、次から次へと友人達のセットを仕上げていく。
自身もロングヘアである彼女に、あんたはどうするん?と聞くも、あたし?カチューシャつけて終わり!と勇ましい。
そうは見えぬが天然パーマ、ここに極まれりといった感である。
間もなく始まるパーティーへと向けて弥が上にも皆のテンションは高まる。
姿はまだ見えないが、すぐ近くでは花嫁衣裳に包まれたしょこがスタンバっている。
なんだか不思議な感じだ。こんな日をこんなところで迎えるなんて。
ぼんやりと思っていると不意にまた涙が浮かんできそうになり、これは何の涙なんだろうと
また不思議な気持ちになる。
だが幸せであることには間違いない。
よし、行くか!
しょこという姫を迎えにあがる親衛隊の如く、皆は着替室をあとにした。