江ノ島着。一応来たってことでサクサク帰る。
みんな普通に傘さして歩いてるし。そんな天気に自転車でバカみたいに80kmも。寒いの、走りにくいの言いながら、なに一つ楽しくないなんて言いながら、なんだか自分で自分がわからないよ、今日は、ほんと。
おまけに大勢の人たちが楽しそうに帰っていく様を見て、ああ、そう言えば江ノ島に一人で来たのは生まれて初めてだな、なんて妙な寂寞感抱いちゃうし。
最寄りの小田急片瀬江ノ島駅は混んでそうだし、だいたい新宿直通の特急はあと2時間近く来ないし。
仕方がないので、JRの辻堂まで134号線を走る。
いつの間にかこの通りにラブホテルが林立していた。昔はこんなんじゃなかった。
しかし、今日ほどラブホテルに入りたくなった日はないだろう。雨に濡れ、寒さに震える身に、ラブホテルの決して上品ではないがキラキラした明るさはやけに暖かなもののように感じられた。跳ね上げた泥水に汚れ、冷え切った身体が風呂を欲していた。
きっとそこにはビジネスホテルでは味わえない、大きくてそして泡が出たりなんかするすてきな浴槽が待っているに違いない。
江ノ島に一人で来たことがこんなに辛いことだなんて。
辻堂の海岸から江ノ島を眺める。寒くて寒くて目的地まで走るので精一杯で海も見ていなかったけれど、ここで海と離れてしまうので。
しかし、帰りの湘南新宿ラインのグリーン車でぼくは一人の女性と出会う。ぼくたちはたちまち曳かれ合い、彼女が大崎で降りる際、携帯の番号とアドレスを交換する。
今回の自転車旅は、ここにきてようやく報われることになる。
まあ、このくらいのことがなきゃ、家で寝てた方がましだったわけで、で、まあ、湘南新宿ラインはオリエント急行でもなければシベリア超特急でもないわけで、恋なんてそんな手数のかかることはなかなか容易に起こりようがなく、したがって、結局ぼくはそんな妄想もむなしく、家で寝ていた方がましだった休日を過ごすことになったのだ。