モルデン沸石
菱沸石を包むように針状モルデン沸石が無数に突出している。
左右10ミリほどの画面。
河津海岸に「菖蒲沢」と呼ばれる入り江がある。
その岩場で産出している。
ガラスのような透明感があるも、とても脆いので、指先で触れると崩れ落ちてしまう。
採集しても、持って帰るのに苦労する。
沸石はあまり着色しないので、派手さはないのだが、造形が面白い。
モルデン沸石
菱沸石を包むように針状モルデン沸石が無数に突出している。
左右10ミリほどの画面。
河津海岸に「菖蒲沢」と呼ばれる入り江がある。
その岩場で産出している。
ガラスのような透明感があるも、とても脆いので、指先で触れると崩れ落ちてしまう。
採集しても、持って帰るのに苦労する。
沸石はあまり着色しないので、派手さはないのだが、造形が面白い。
沸石は石の隙間に咲く花と譬えられる。
とても美しい。
先に紹介したモルデン沸石の先端に輝沸石が生じたものだが、背景を変えると、また見え方が違って綺麗だ。
背景のキラキラも輝沸石。
河津浜の海岸と言えば多種類の沸石で有名。
写真は極めて細い針状の沸石に、さらに小さな輝沸石が付いている。
画面幅は数ミリほど。
この近辺では、同様のモルデン沸石の先端にリボン状の微細な水晶が付いているのも観察される。
自然美に感謝。
沸石は結晶が層状に重なって成長することがある。
特に束沸石はその傾向が強いため、層間での反射や屈折、回折などで虹が生まれる。
菱沸石は、結晶内部に小さな割れが生ずる。
その隙間でにじが生じる。
いずれも天然の虹である。
束沸石
菱沸石
河津海岸の沸石だが・・・。
横浜でアミメニシキヘビの捕り物が話題になっていた。
伊豆の特殊な動物園IZooから専門家が応援にきて捜索していたそうだ。
さて、IZooは、かつて「亀族館」とかなんとかいう名称で、特殊な爬虫類を飼っていたはず。
ずいぶん前に入館したことがある
その動物園から、今回横浜まで専門家が来るくらいだから、今でも蛇を飼っているのであろう。
なぜこのような話題を持ち出したのかというと、IZooの周囲の林の中には大きな蛇が生息しているからなのである。
何年か前のことになる。
IZoo(まだ亀族館と言っていたかもしれない)の背後の海岸は昔から沸石の産地として有名であり、沸石好きの筆者は、時々訪れていた。
とある冬の事、海岸に出るためにIZooのすぐ脇の細道(まっすぐに海岸に出られる)を下っていると、足元の排水路の中を腕の太さぐらいの蛇がズズッと音を立てて逃げてゆく状況に遭遇してしまった。
蛇嫌いの筆者は動けなくなった。もう、この道は通れない。どうしたらいいんだ。
でも、このまま帰るのも惜しい。
考えた末、近くにあった竹を適度な寸法に切って、足元の草を払いながら海岸に出た。
返りも、同じ道を同様にして戻ったのだが、記憶がなくなるほどに生きた心地がしなかった。
大きな蛇がいるところを歩きたくはないのだが、沸石産地へは行きたい。
棒切れで足元を払いながら歩けば、まあ安全であろうと考え、再度来る時のために棒きれを道の入り口辺りに残しておいた。
何か月か後、再度沸石採集に訪れた時、入口に1メートルくらいの竹の棒が数本おいてあることに気付いた。以前はなかった。
どうやらこの海岸を訪れる皆さんも、大きな蛇に遭遇しているのだということを改めて知った。
しかも、とりあえず棒きれが有効であり、皆さんも同じように考えたのだろうことも。
この海岸へは沸石採取だけでなく釣り人もよく来るらしい。
そこで、今回の話題だ。
IZooの蛇扱いの専門家が横浜に来るのであれば、自らのIZooのまわりに生息している大きな蛇を捕獲すべきであろう。
あの足元を這っていた大きな蛇はIZooから逃げ出した蛇ではないのか。
伊豆は暖かいところであり、冬でも蛇は冬眠しないのだ。
だから、ここしばらくは蛇と遭遇するのが嫌で、隣の海岸から遠回りで産地へ行っている。
そこで、IZoo背後の河津海岸で採集した沸石を紹介する。
ダキャルディ沸石
輝沸石
モルデン沸石
二酸化マンガン鉱 MnO2
方解石 CaCO3
中国
方解石の成長過程で一時的にマンガン成分の急増があり、方解石の結晶表面に小さな球状に成長したものの、後の方解石の成長で閉じ込められてしまった。一般的なインクルージョン標本の成長過程だが、二酸化マンガンの晶出以降において方解石の結晶成長面が変化していることに注意したい。
方解石の結晶形態は多様である。理科の観察や実験などで目にする方解石の破片は、長方形の箱を押しつぶしたような菱面体に囲まれた形態だが、実際にそのような形で産出することは希。本書のような釘頭状、犬牙状、六角柱状、陣笠状などで、さらに微斜面が生じて形態による判断ができないことが多い。この標本の初期段階の結晶形態は鈍角になる三角錐の頂点だが、その稜線を横切る形で新たな結晶面が生じて次に紹介するコバルトカルサイトと同じ六角柱状に近い形となっている。
二酸化マンガン鉱 MnO2
コバルトカルサイト
コバルトカルサイト(少量のコバルトを含む方解石)に含まれる黒褐色の微小鉱物。
コバルトを含むことによってピンクに発色している。
結晶の中央部に黒い染み状の包有物(二酸化マンガン鉱)がみられる。
岩塩 NaCl Halite ハロゲン化鉱物 等軸晶系
Intrepid Potash East Mine, Carlsbad Potash District, Eddy Co., New Mexico, USA
岩塩の着色は、赤鉄鉱などの不純物の他、カラーセンターと呼ばれる結晶構造に生じた欠陥部において光の吸収があることが原因。この岩塩は鮮やかな青色を呈している。着色部分が層状に見えることから、沈殿結晶してゆく過程で、放射線などの影響を繰り返し受けたものと思われる。誰もが経験するであろう、青色岩塩が水に溶けるとどのような色になるのであろうか、理由は知っていても実際に確認してみたいという心境。たぶん、多くの着色岩塩が水に溶かされているのであろう。
結晶塊の中に、小さな六面体の空隙がある。結晶してゆく最中で取り残された部分、即ち負晶である。空隙には液体が残っている。この状態から想像すると塩化ナトリウムの飽和水溶液であろう。ごく小さな気泡も閉じ込められている。
この標本では、面白いことに、負晶のある周囲のみ着色していないのが観察される。負晶に閉じ込められている鉱液が浸潤し、結晶構造の欠陥部分が補修されたのであろうか。あるいは無色となっている部分で、溶解と再結晶が繰り返されたことも考えられる。
角閃石類 Amphibole 珪酸塩鉱物
苦土橄欖石 Forsterite 珪酸塩鉱物 直方晶系
Spat Gali, Kaghan Valley, Mansehra, Pakistan
苦土橄欖石Mg2[SiO4]のC軸と平行に成長する細い柱状の角閃石類。苦土橄欖石の結晶表面に放射状に広がっているのは気泡。苦土橄欖石は玄武岩などMgに富む火山岩の構成鉱物として産出することが多く、我が国では秋田県一の目潟のように粒状結晶の集合からなる橄欖石団塊が知られている。
ハワイ島の海岸には橄欖石による緑色の砂浜がある。橄欖石砂という点では我が国の海岸でも緑っぽい色の砂が縞を成しているところがある。橄欖石は珍しいものではないが、色鮮やかで綺麗な結晶は宝石として扱われ、ペリドット、オリビンの呼称がある。何も入っていない透明な結晶が好まれるようだが、筆者のような変わりもの好きは、何か不明なものが混じっている、ちょっと見栄えの悪い結晶に目が行ってしまう。角閃石類も橄欖石類も、ほぼ同じ組成からなっている。このようなインクルージョンは、成長の過程で環境が大きく異なったのだろう。
ライティングによって表情が変わる。インクルージョンしている他の鉱物の種類が多ければ多彩な表情を示す。写真の楽しみはそこを探り出すところにある。
水晶 Quartz SiO2 酸化鉱物 三方晶系
Yongchun Co., Quanzhou Prefecture, Fujian Province, China
針のような水晶を内包する蛍石。蛍石の表面に同様の水晶が結晶していたなら、おそらく採集過程で失われてしまうであろう。結晶内に包有されているために綺麗な状態で遺されている。
実はこの標本を見つけた時、無色透明な細い結晶の先端部が斜めにカットされたような形態から石膏のインクルージョンと見間違えた。そのような繊細な水晶である。複数の紫色六面体蛍石を、ごく薄い石英の板状構造が横断するように成長しており、その表面に微細な水晶が生じている。初期成長の形状が八面体であったことを示している。自然の力に感謝したくなる結晶内風景である。
水晶 Quartz SiO2 酸化鉱物 三方晶系
Xiefang Mine, Ganzhou Prefecture, Jiangxi Province, China
蛍石の六面体結晶の内部に、六面体と八面体の集形結晶がある。即ち、成長によって八面体の結晶面がなくなった結晶である。その内部の結晶面に微細な米粒状の水晶がパラパラと付いている。蛍石の総体は淡い緑色で、内部の累帯構造に伴って紫の筋と斑、微細な流体(鉱液と気泡)が所々に見える。
この鉱山では黄色い重晶石を伴う蛍石も産出している。
水晶 Quartz SiO2 酸化鉱物 三方晶系
Xianghualing Mine, Chenzhou Prefecture, Hunan Province, China
六面体蛍石に閉じ込められた水晶。
水晶と同様にインクルージョン蛍石も多い。
派手な色彩の物質が入っている蛍石であれば分かり易いし、見つけやすいのだが、このように無色透明の水晶のインクルージョンは入手した後に見つけることが多い。
とかく、てにいれるとそれで満足してしまう傾向にあるが、良く観察すると、思わぬ発見があったりする。
そこまで楽しみたいところだ。
黄銅鉱Chalcopyrite CuFeS2 硫化鉱物 正方晶系
Minerva No. 1 Mine, Hardin Co., Illinois, USA
六面体蛍石に包有されている黄銅鉱。蛍石の表面には方解石が点在している。写真でも方解石の先端が蛍石を貫いているように見えるが、方解石は蛍石の後の晶出であり、成長が阻まれている状態。
これらの鉱物の組み合わせは比較的多い。また魅力的な結晶空間を見せてくれる。
紫外線
通常光
オイル Oil 紫外線による蛍光
Elmwood mine, Smith Co., Tennessee, USA
アメリカ大陸の中央部には、石灰岩や苦灰石、蛍石を脈石鉱物とし、方鉛鉱や閃亜鉛鉱を産出する低温熱水性鉱床が点在している。地質環境が石油を含む堆積盆地であることから、石油を包有する蛍石が多く産出している。蛍石の場合、結晶の表面近傍に、結晶面と垂直方向に細く伸びた石油の包有が多く、色合いは黄色から茶褐色のタール質の場合もある。微細な石油は肉眼では分かり難いが、紫外線によって鮮やかに蛍光することから、星空のような微細な輝きを見ることができる。蛍石に特徴的な累帯構造に沿って内包する石油があれば、蛍石の中に鮮やかな黄色の結晶が浮かび上がる。結晶内に包有される気体や液体は、母体の成長に伴って伸長することが多い。
赤鉄鉱 hematite Fe2O3 酸化鉱物 三方晶系
Kuichoutong, Hunan, China
鏡鉄鉱と呼ばれるような金属光沢をもつ鉱物と同じ鉱物であるとは思えないのがこの真っ赤な赤鉄鉱である。もちろん鏡鉄鉱も、条痕板に摺りつけるなど、微細な粉末にすると赤色を呈する。即ち、ここにあるのは微粉末状鏡鉄鉱の球状集合物。この鉱物は古くから辰砂と共に赤色顔料として重宝されてきた歴史がある。赤鉄鉱は良く見かける鉱物だが、ここまで鮮やかだと嬉しくなる。初期にできた水晶の上に赤鉄鉱が沈着し、再び水晶が成長したため、赤鉄鉱のファントム(内包水晶)となっている。水晶の表面に出ていたらおそらくこのような鮮やかな状態を保ちえない。水晶の中に閉じ込められていたが故の美しさである。
苦土電気石NaMg3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4 珪酸塩鉱物 三方晶系 山梨県甲州市竹森
山梨県竹森の苦土電気石を含む水晶は、秋野の枯れススキを思わせる色合いから、ススキ入り水晶と呼ばれて頗る有名である。特に逆光での観察では、細針状の苦土電気石が金色に輝いて美しい。ブラジル産ルチルインクルージョン水晶にもあるように、水晶の表面から内部に向かって放射状に広がる苦土電気石の結晶が観察されることがある。もちろん水晶の内部だけでなく水晶から突き出した六角細柱状の苦土電気石や、細い電気石が集合して太くなった結晶があり、眺めは壮観である。因みに竹森では、割れ目に自然硫黄を包有した水晶も産出している。