聞いてみれば、むりのない話でした。むりがないだけに、賊の計画が、じつに機敏に、しかも用意周到におこなわれたことを、おどろかないではいられませんでした。
It was reasonable enough. Being easonable means that the thief's scheme was surprisingly quick and well-prepared.
もう、うたがうところはありません。ここに立っている野蛮人みたいな、みにくい顔の男は、怪盗でもなんでもなかったのです。つまらないひとりのコックにすぎなかったのです。そのつまらないコックをつかまえるために十数名の警官が、あの大さわぎを演じたのかと思うと、係長も四人の警官も、あまりのことに、ただ、ぼうぜんと顔を見あわせるほかはありませんでした。
There is no doubt. This savage ugly guy was not the thief at all. Just a ordinary cook he was. More than ten policemen made havoc to catch an ordinary cook. All the policemen were stunned and could do nothing but stared each other.
「それから、警部さん、主人があなたにおわたししてくれといって、こんなものを書いていったんですが。」
"By the way, Chief, my boss wrote this to give you."
コックの虎吉が、十徳の胸をひらいて、もみくちゃになった一枚の紙きれを取りだし、係長の前にさしだしました。
The cook Torakichi pulled a wrinkled sheet of paper from his clothe and gave it to the chief.
中村係長は、ひったくるようにそれを受けとると、しわをのばして、すばやく読みくだしましたが、読みながら、係長の顔は、憤怒のあまり、紫色にかわったかと見えました。
The chief Nakamura snatched it, smoothed out the crease, read it. As he was reading his face went purple with rage.
そこには、つぎのようなばかにしきった文言が書きつけてあったのです。