柞刈 湯葉『未来職安』 ← アマゾンへリンク
2018年に単行本として出たものの文庫化。ここがとても重要な昨今。つまり、コロナ以前、BC(Before Corona)とでもいおうか。ちなみにあとがきはコロナで一変した世界について触れてあります。
さてこの本がどんなお話かというと、カバー後ろの紹介では
「日本人は働かない99パーセントの〈消費者〉と働く1パーセントの〈生産者〉に分かれた。これは史上最高に楽しい近未来の話である。自動運転タクシー、警察ロボ、配達渡し鳥など、物事はほとんど自動化され、国民は厚生福祉省から支給される生活基本金で十分に暮らせる。だが、それでも働きたいという「ワケあり消費者」が、今日も職安に仕事を求めてやってくる。謎の経営者・大塚さんと若き女性事務員・目黒さんが奇想天外な発想で職を斡旋する、近未来型お仕事小説!」
とある。 「!」はなくてもいいんじゃないか?
政府よ、金持ちに金をばらまくような政策じゃなくて、一般庶民にこそ一時給付金をどんどん出してちょうだいよ、生活保護を受けやすくしましょうよ、という COVID-19 の気分のときにベーシックインカム社会のお話はタイムリーでもあり、世界中を困らせる感染症なしという話はうーむという気分でもあり、それにも関わらずほらやっぱりベーシックインカムだよ、と思った次第。
肺がんの診断により 手術 を受け現在も抗がん剤を飲んでいる身なのだが、大手を振ってぷらぷらしちゃっているわけですよ。夫がこころよくそうさせてくれているのに感謝しきりだ。それで思うに、何かしら社会と関わらずに人は生きていけないけれど、世の人がみな朝から晩まで働くだけが正規の社会との関わり方じゃなくてもいいでしょう?そうじゃなくてもやっていける社会っていいんじゃないの?ということです。
グータラ者の戯言とは思うけれど、でも実際問題 体力的に厳しい人とか精神的に厳しい人とか沢山いる。そういう人たちがどうも肩身の狭い思いをいちいちさせられるというのは得心がゆかんのですよ。朝から晩まで働くように人の遺伝子はインプットされてない。不適合者を大勢輩出する社会は辛い。辛くない人たちだって何時なんどき事故や病気や何か不可抗力でそちら側に行かざるを得ない可能性は常にある、って忘れてるんじゃないの?
と熱く語ったところでこの本です。ベーシックインカムを導入した社会ってどんな感じなんでしょう? という思考実験をしてみようと思っても、雲を掴むようで想像力が足りないと思う人は多いと思う。そこら辺を得意な方に任せるとこの本が出来たりするわけです。
グータラなわたしは肯定されたようで嬉しかった。
この本から何を読み取るかはその人次第、鏡のようではあるけれど、わたしは楽しく読めました。