≪手を動かさねばっ!≫

日常で手を使うことや思ったこと。染織やお菓子作りがメインでしたが、病を得て休んでいます。最近は音楽ネタが多し。

長谷川英祐『働かないアリに意義がある』

2018-04-17 08:54:27 | 本 (ネタバレ嫌い)


アマゾンへリンク → 長谷川英祐『働かないアリに意義がある』

謂わずと知れた名著である。 2010年末の出版だ。
生物学好きと一応のたまっているわたしが今ごろ読んでいたりするんである。すみません。
知るは一時の恥、知らぬは一生の恥、ってことで、今更でも読むほうが全然良いんである。

副題には「社会性昆虫の最新知見に学ぶ、集団と個の快適な関係」とある。


読んで、うおおお! と言ってしまった。
研究の話でも高いレベルを一般向けに興味深く述べているし、それを他のレベルに例えたり置き換えてみたりするのも鋭く且つオリジナリティに富んでいる。
生物学にそれほど明るくなくとも一般教養として読むと断然よい、という生物学系の本はいくつかあるが、この本は必須だ。
ほんと、なんで今まで読まなかったんでしょうね!?自分のバカバカ!

アリというのは実にたくさん種類があって、無関心に見るとみんな一緒に見えるそれらはちゃんと違う。詳しく調べるとあっと驚くような遺伝的な特徴があったりする。
血尿が出て点滴を受けながらするような凄まじい研究によってそれらが少しずつ明らかになってきたことを、ずいぶんさらりと述べてある。
そこに著者の矜持を感じる。
自然の不思議、センスオブワンダーっていうんですか、読んでいてドキドキする。

そちらの方はさほど食指が動かない人でも、身近な事柄に例えられた方には共感できるのではなかろうか。
一緒に働いている仲間によく動く人とそうでない人がいて、余裕のないときなどにあまり動かない人に対して何らかの感情が動く、という経験はあると思う。
アリの社会でもよく働く個体とそうでない個体が同じ巣にいるらしい。そして、全員がキリキリ働く集団より働かないアリもいる集団の方が上手くいくらしい!
生物学の研究としてそういう説が出てきたわけで、ふんわりした話ではない。どういう研究でそう至ったのかは本を読んでください。
アリの研究で分かったことがどの程度人間社会に応用できるのか、ということもしっかり折り込んだ議論をしているので説得力がある。生物学の研究者の社会というメタ発言もおもしろい。

2ヶ月ほどまえに、嘘をつかないピノキオもしくは働かないキリギリスであることを カミングアウト したわたしとしては、働かないアリの存在意義を認めてくれるこの本はとても心強くしてくれた。
なぜ生物多様性は必要なのか、という根拠を。

進化の議論をするとき、自然選択による適応、が重要な指標になるのだが、そもそもその「適応」の定義が定まっていないのではないか?という話にハッとした。
次の世代が増えれば適応したことになるのか?もっと先の世代で増えることはどう解釈するのか?
 情けは人の為ならず
という文言を思い出した。これは最近身近に感じたことだったのだ。
そりゃ人は自分が得したいと思っているだろう。それを公言して憚らない人もいて、まあそうなんだけどあからさまで目に余るっていうのかお付き合いを敬遠してしまったりする。
この例だと、短期では得をするかもしれないが、長期では避けられてしまうことで損をして、期間が長いほど損が嵩む、という考え方もできる。
さて、どちらが「適応」したのか?
そういう人に対して今までは、なんかイヤな感じの人だな、くらいに思っていたのだが、なるほどこれはひとつの個性だ、と思うことができた。短期的に得を求めるタイプとそうでないタイプと。
もちろん感情面ではちょっと避けたい気持ちは変わらないけれど、そういう出し抜く生き方というのは生物学的にはもうある意味まっとうな戦略なんであって、仕方ない。わたしも大損をしないようせいぜい気をつけるしかないな。

といういう風にどこかしら自分に引きつけて読むこともできます。
素晴らしい著作だ。
新書らしい体裁というのか、この表紙はちょっと、と思ったら、今はもっとかわいい文庫が出てた。 → 

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ロバート・A・バートン『確信する脳「知っている」とはどういうことか』

2018-04-06 11:24:17 | 本 (ネタバレ嫌い)


なるほど、面白いところに目をつけた。

それは、「確信」。


それは「感覚」であって、
結び付くものが曖昧であっても関係ないらしい。
読んでいて腑に落ちた。

その人!ここまで名前が出てきているんだけれど思い出せないっ!
っていうのはこの感覚のせいで、
本当に覚えているかどうかはまた別なんだそうだ。

確信が先にある、っていうのは
最近ネットを見ていてときどき思うことではあった。
ある記事に対して賛成する人と反対する人、もう真っ向から
対立して、お互いの意見を自分の内側に入れて咀嚼することが
ないように見える。
それは情報を集めて賛成するか反対するかゆっくり決めよう、
という態度ではなくて、まずどちらにつくか決めて
反対意見を攻撃する材料をいろいろ集める、という態度。
ディベートみたい!? (己を棚に上げてます)

これはどうも ヒトの面倒な性質のひとつかもしれない、と
なんとなく思ってはいたが、この「確信」のなせる業だ、
と解釈すれば分かりやすい気がする。

やっかいだね

己の確信が思い込みにすぎない、という衝撃。
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
 ああなんにもあてにならない
思わず口から出てしまった。
ヒトの理想をぶっ壊して限界がごく近いことを示されるとねぇ。


これはネタバレではあるけれど、この本は
いかにヒトは不確実で思い込みの激しい思考をするか、
ということを畳みかけ、
ヒトは思い込むことで安心感を得る、みたいなはなしになり、
それでも不確実性を受け入れるべきだ、というようなことを述べた一冊である。
それをどのような例、道筋で1冊の量を述べたかを味わえばよい、
と思うのである。

だからこそ、終章に近い245ページで

科学と宗教の対話の最終的な目的は、個人の希望や意味感をできるだけ広げ、間違った 個人の姿勢や社会政策の悪影響をできるだけ抑えることにある。

とあるのに強い違和感を持った。
何をもって「間違った」と確信できるのだろう?


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ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』

2017-12-11 08:43:48 | 本 (ネタバレ嫌い)


アップしそびれているが、人類の先史に関する本をいくつか読んだ。
人類ってどのようにできたんでしょう? っていう興味は尽きないもので。

その中で、この本はかなりインパクトが強かった。
不都合な真実 てんこ盛り!
もう泣きたくなるようだよ、ヒトってほんと酷い生き物だな。

この本は 先史、有史時代の区別なく 善悪の区別なくトータルな視点で
フラットに描いている(ように思える)ところに特徴があると思う。
たとえば農耕が始まったことで良くなったこと悪くなったことは比較するけれど、
だから農耕は悪だ、とかそういう話にはもっていかない、というようなことだ。
とはいえ、ふだん巧妙に目を逸らしているところをきっぱり書かれるとショックではある。

そもそもサピエンスが元々備えている性質はどういうものなのか、というと、
狩猟採集スタイルで、ゴリラというよりは多分にチンパンジー的なんである。
遺伝的には狩猟採集からさほど変化していないのに
現代社会スタイルで生きていかなければならないという生き辛さ、というのがなんだかねぇ。
かといって、逆戻りできるのか? っていうと無理だし。

話が進んで大航海時代がどうして始まったのかというくだりはワクワクした。

もう読んでいて悲しくなることが多いのだが、でももちろん全部否定しているわけではない。
こんなに酷い有様に見えるようなことでも
以前に比べればこんなに良くなったこともある、という記述もある。
厭世的な気分になっても何も解決しないんだな。

あることを説明しようとするとき著者は比喩を使うのだが、
その引き合いに出すものにあっと思わされるところも多かった。
なるほど、そのように捉えなおすことができるのか! と。
頭のいい人なんですね。 (それってユダヤ的!?)


情報過多で社会情勢はよくなっていくように見えないこのご時世、
無駄に嘆くばかりでなく心を平静に保てるように、
あえて泣きたくなるようなこの本を読む、というのはいかがでしょう?


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椎名 誠 『 武装島田倉庫 』

2017-03-07 08:59:22 | 本 (ネタバレ嫌い)



椎名氏というと紀行エッセイのイメージが強いと思うが、膨大な著作のなかには優れたSFもいくつかあるのだ。

1990年には立て続けに
3月に集英社から『アド・バード』、9月に講談社から『水域』、12月に新潮社から『武装島田倉庫』が
出ている。

その頃はわたしはハヤカワと創元推理ばかりチェックしていて、
この3冊には全く気づいていなかった!
その当時、椎名氏といえば『さらば国分寺書店のオババ』としか覚えていなかった。
ああ、なんともったいないことをしたのか。

椎名氏がSFも書くと知ったのは、数年前に『銀天公社の偽月』をひょんなことで手に入れたときだ。
これにはぶったまげた。
それですぐにあれもこれも手に入れるか、というとそういうわけでもなく、
有り体にいえば、ブックオフで見つけたときに手に入れる、というところ。
なんていうんでしょうか、ハンティングの楽しみがこたえられない、っていうのか。
アマゾンマーケットプレイスがあるし、本は逃げない、と思っちゃっていて。


ネタバレ嫌い、と標榜しているからといって、いきさつばかり述べているのはイカン。
少しだけ内容についてもあげてみよう。

椎名氏のSFの大きな特徴は、独特な命名だ。
もうこの 武装島田倉庫 という熟語だけで椎名氏の世界に引きずり込まれる。
倉庫が武装する、っていうのはどういうことなんだろう? って。
妙に昭和っぽい漢字は、ブレードランナー等のサイバーパンクがもっと地に足がついたイメージ。
思い巡らせてみれば、椎名氏のSFは山のようにあるサイバーパンクに繋がる気もしてくるが、
明らかなのは、それらを圧倒して凌駕するリアリティー。
サイバーパンクに出てくる日本趣味は趣味にすぎないが、
椎名氏のSF世界は血が繋がっている感じで、
泥臭さとか脂染みた手触りとか立ち姿とか汗臭さとかがムンムンと漂ってくる。
言葉一つ一つの思起させるイメージが力強い。
その世界でしたたかに生きている登場人物の生々しさがとても魅力的だ。

一言でいえば、濃い。


まだ読んでいない椎名氏のSFはあと数冊あるので、楽しみにしている。


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奥泉 光 『 ビビビ・ビ・バップ 』

2017-01-28 10:50:17 | 本 (ネタバレ嫌い)


奥泉 光 『ビビビ・ビ・バップ』  ← 出版元にあるこの本のページへリンク

子供に薦められた。
表紙は一目でエリック・ドルフィー、題名ももろジャズ。絵はSF風味。
子供よ、わたしのことをよく分かっておる。
分厚いが、受けて立とうじゃないの。

実は最近いよいよ老眼が読書生活に障害を及ぼすようになってきてしまって、
こりゃあかん、観念して老眼鏡を作りに行くか
というタイミングでこの本をドサッと渡されたんである。

けっきょくこの本は老眼鏡ではほとんど読まず(出来上がるまえに読んでしまった)、
裸眼で読んでしまった。

諦めて老眼鏡を作る、という心境の変化だけで読めるのが我ながらおかしい。
小腹が空いたタイミングでスーパーに行ったとき、
食材のついでにちょっとだけお菓子を買うと、
そこでなんだか気持ちが満足してしまうのか
食べるまえに空腹がなんとなくおさまってしまっている、ということと似ている。
脳はせっかちだな。


で、本である。

奥泉氏のは初めて読んだ。
推理小説家なんだそうだが、この本はそういう香りは少なくて、
はっちゃけまくっている。
SFなんだもの、設定は未来なんだが、
そこから懐古趣味を発揮して新宿ピットインなんかが出てきてしまう。

ともかく文章が楽しい。
構成も凝らされて、でもむやみに複雑にして読者を困らせるようなこともなく、
伏線も引っぱってきやすいように親切設計だし、
ジャズのみならず落語まで読者サービスたっぷりで、
つまりバランスよく高得点で、この分厚さを飽きずに読めてしまった。

たいそう気に入りました。
ああでも、J.J.ジョンソンをのせるなら、カーティス・フラーものせて欲しかったな!


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