群馬の山奥に引っ越しして就職して結婚して、念願のグランドピアノを手に入れた。約30年まえのことだ。
住んでいる貸家には入れられないので、土地を借りてプレハブ建てて電気を引いて、そこにピアノを置いた。
常時 除湿機を動かしていたけれども、それでも湿度が高くて、ピアノの状態が安定するまでしばらくかかった。
実家で弾いていたのはアップライトピアノだったので、グランドピアノの幅広い表現力はとても気持ちよかった。
仕事を辞めて子どもを産んでストレスマックスなときも、まだ小さい子どもをプレハブに連れてきてお絵描きでもさせておいて、横目で見ながらピアノを弾いてストレスを解消できた。
しかし、プレハブは自宅から少し離れたところで水道もトイレもなく、夏は暑いし冬は寒い。段々おっくうになってきた。
子どもたちが別宅から学校に通うようになって、わたしも別宅と自宅の二重生活で、ピアノどころではなくなってしまった。
そうこうしているうちにプレハブの除湿機が壊れてしまったが、そのときにはちょうど良い代替品を見つけられず、困ったなあと思いつつもそのまま放置してしまった。
やっと子どもたちが別宅を離れたと思うと今度はわたしの病気が発覚して、世間はコロナ禍で、自宅で演奏できる楽器を模索するようになった。
そんなこんなでチェンバロを自宅に置くようになって、レッスンも受けて、ピアノを弾くフォームからチェンバロを弾くフォームに改造したら、もうわたしはピアノは弾けないと思うようになった。
ピアノは音が大きくて耳が疲れるし 腕の重さを指にのせるのも疲れるし、病み上がりにはキツイ。リビングルームにあって気軽に弾けて耳にも優しいチェンバロの方が、いまのわたしは弾いていて楽しいです。
それで、ピアノを手放すことにした。
グランドピアノ、楽しい時間をありがとう。
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ピアノをプレハブに届けてもらったときは、若い男性2人が来た。
なんだかプロレスをしている人たちのように見えた。
紐を掛けた350kgのピアノを2人で持ち上げるなんて凄い。
30年経って、買い取りに来たのは男性3人だった。
日本人がリーダーで、ベトナムから来た若い男性が2人だ。
ベトナム人男性も1人は日本語が堪能で、もう1人はまだ見習いなのか堪能な方からリーダーの指示を翻訳してもらっていた。
リーダーはとても丁寧に部下に説明していた。日本語が堪能なベトナム人男性が見習いにベトナム語で説明するとき、まだ見習いだから、とわざわざわたしにことわったのも印象的だ。
リーダー、気を遣うなあ。
買い取りに来たトラックはクレーンとテールゲートリフターがついていて、クレーンはとても長く伸びるタイプだし、張り出して踏ん張る足(アウトリガー)も4本もある。
30年まえに来たユニックはもっと小さかった。
30年の時間に感じ入るなあ