子育てのカギは「自己肯定感」。
親子のパートナーシップを築きましょう
子育てが「カプセル」状態に陥っている。
最近の子育てを見ていて気になるのは、親子の「密室化」が進み、それぞれの家庭が「カプセル子育て」をしているような状況になっていることです。昔は近所に世話焼きのおばあちゃんがいて、「あんた、そんな格好じゃ冷えちゃうよ」とか、「早くおうち帰んなさいよ」というように声をかけてくれ、地域ぐるみで子どもを育てるようなところがありました。10年ほど前には、3〜5人くらいでママ友が集まるサークルが盛んで、身近に相談できる人がいたものです。ところが、今では近所付き合いはほとんど見られなくなり、ママ友のサークルも全盛期の勢いは失った感があります。
僕はラジオやテレビ、新聞、雑誌など、さまざまなところで子育ての悩み相談を受けていますが、身近に相談する人がいればすぐに解決するような悩みが本当に多い。個々の家庭や親子がみんなカプセル状態になって抱え込んでしまっているような印象を受けます。人間関係が外に開くのではなく、内にこもってしまった結果、親子の密室化が進んでしまっています。そうした「閉じた状況」の中では、子育てに一生懸命になるがゆえに「子どもを思いどおりに育てたい」、「いい子に育てたい」などの欲求が重なり、子どもを追いつめてしまうケースが生じやすいのです。行政と連携した保育支援施設やサービス、あるいは子育てをするママのためのサロンなども全国にあります。そうしたところを積極的に利用するなどして、育児の悩みや負担を抱え込まないようにする工夫が必要です。
親子ともに必要なのが「自己肯定感」
世界的に見て、日本人は大人も含めて「自己肯定感」が極めて低い状況にあります。「ありのままの自分でいいんだ」という自己肯定感が欠如していると、子育てはなかなかよい方向に向かいませんし、よい親子関係も築けません。
子どもが自立した大人へ成長していくうえで、自己肯定感はなくてはならないものです。そのために最も重要なのは、子どもに「自己決定」をさせること。例えば、朝、子どもと外出するときに、夕方から雨が降るという天気予報だったとします。子どもがお気に入りのいつもの運動靴を履こうとしたら、ママはつい「長靴にしなさい」と頭ごなしに言ってしまうかもしれません。そこを、あえて「夕方から雨が降ってくるらしいんだけど、どうする?」と、子どもに決定権を与えるのです。そうすれば、雨が降ったら、子どもが自ら長靴を選んだ場合には「これでよかった」と、自己肯定感がグンと高まります。たとえ運動靴を選んだ場合でも、自分が選択した結果なので、自分で責任を取る感覚が身につきます。
こうした自己決定をする経験を重ねることで、たくましい自立した人間へと成長を遂げていくのです。自立の土台にあるのは、自己肯定感なのです。ところが日本では、あるがままの子どもを親が認めることや、自分のことを自分で好きになる、認めていくという子ども観、子育て観が浸透していない。僕はそのことを非常に危惧しています。
子どもを自立へと導くために望ましいのは、親子が対等な「パートナーシップ」の関係を築くこと。親が子どもの目線になって一緒に考え、子どもの心に寄り添い、子どもの自己決定を尊重する。そうすれば、子どもの考えていることや気持ちが見えてきますし、子どもも自己肯定感が高まり、自立心も育ってきます。
自分が主体となって子育て本を選ぶ
子どもには、2歳くらいから「イヤイヤ期」に入ったり、4〜5歳くらいから言語の理解力や表現力がグンと伸びたりと、発達段階がいくつもあります。育児についても、それぞれに合わせた対応のしかたのポイントがあり、そうした知識を子育て本から得るのも大切なことです。そうすることで、親の自己肯定感を高めることにもつながります。
近年、育児はママだけでなく、パパも行うのが当たり前になってきています。ただし、乳幼児期の育児においては、やはりママが子どもに接触することが圧倒的に多いのも事実です。この時期のパパの役割としてはママを支えることが重要になります。仕事で夜遅くなってしまった場合でも、「今日はどうだった?」とか、「大変だったね」と声をかけたり、労ったり、話を聞くだけでもママの精神的な負担はずいぶんと軽くなります。台所の洗いものや部屋の片づけなどを行うのもよいですが、ママのやり方がある場合が多いので、どのようにするかを聞きながら行うとよいでしょう。ママとパパがコミュニケーションを取りながら、力を合わせて育児を楽しめるとよいですね。
そして、パパにもぜひ、子育て本を読んでほしいですね。育児に追われるママは、子育て本を読む時間が取れないことも。パパが代わりに読み、正しい知識を得たり、活用したりしてみましょう。今や数えきれないほどの子育て本がありますからどの本を選べばいいのか迷ってしまいそうですが、読むことで自分の心が落ち着きそうな本を選ぶとよいと思います。
育児にパーフェクトはありません。どんなに頑張っても、うまくいかないことや、失敗してしまうことは出てきます。そんなときには、素直に「ごめんね」と言えるママやパパになれるといいですね。
以上。教育評論家 尾木ママ
朝日新聞&紀伊国屋書店共同企画 子育て本特集 より。