第七十三首
高砂の をのへの桜 咲きにけり
外山のかすみ 立たずもあらなむ
前中納言匡房
大江匡房 (1041-1111) 匡衡・赤染衛門の曾孫。博学で白河院に重用された。数多くの著書を残す。
部位 四季(春) 出典 後拾遺集
主題
はるかな山の峰に咲く桜への愛着
歌意
遠くの高い山の頂きに山桜が美しく咲いたなあ。近いところの山の霞よ、どうか立たないでおくれ。あの美しい山桜が見えなくなってしまうから。
「立たずもあらなむ」 あってほしい。「なむ」は、あつらえ望む意をあらわす終助詞。
歌合の歌題を儒者が出すという風潮を作ったのも匡房の影響ともいえるし、歌題が詩題と交錯し、院政期の和歌に、漢詩の清新なよみぶりを注入したことも注意されよう。
若くして、蔵人・左衛門権佐・右少弁を兼ね、三事兼帯の才名を得、碩学として異例の昇進をした。家集に『江師集』。『後拾遺集』以下に百十四首入集。