不思議活性

一冊の本 チャタレイ夫人の恋人 3



     3

 森番、メラーズは、いつも一人で自分の殻に閉じこもったような・・・、それでいて、世間というものをちゃんと見つめられる、控えめな人間であるようです。

(彼は三十七、八歳に見えた。彼女はうしろから彼が見ていることを感じながら森の中へ歩み去った。彼女は彼のためにすっかりおちつきを失って、自分でもどうしょうもないのだった。
 そして、彼も、家の中へはいりながら考えていた。
「いい人だ。それにまたほんとうの女だ!あの人は自分で自分のよさがわかっていない」
 彼女は彼をどういう男かと考えていた。彼は少しも森番らしくなかった。また労働者じみたところが少しもなかった。ただこの地方の住民と共通なものは何かもっていたが、だがまた何か普通と違うところがあった。
「あの森番のメラーズは変な人間ですわね」彼女はクリフォドに言った。「なんだか紳士みたいじゃありませんか」
「そうかね?」クリフォドが言った。
「あれはまったく善いやつだと僕は思っている。だが僕はあれのことはほとんど知らないのだ。あれは去年軍隊から退いたばかりだ。まだ一年とたっていない。それまではたしかインドにいたのだと思う。インドで、あれはなにかうまいことをやったらしいのだ。将校の従卒かなにかになって、昇進したものらしい。そういうふうにして立身するやつはあるものだよ。だがそれはなんにもなりゃしない。除隊すればまた昔の地位に落ちてしまうだけなんだから」)

     * * * * * * 

(彼はあの女のことを考えた。もしも彼が彼女を自分の両腕に暖かく抱き、二人で毛布にくるまって眠るならば、彼は自分の持っているもの、これから持てるかもしれぬものすべてを投げ出していいとおもった。)

(彼女は彼の顔を不安げにながめた。彼女は彼と一緒にいると気がおちついた。なにか、彼には肉体的にほとばしり出るものがある。幸福にたいする女性の生き生きした本能で、すぐとそれを受け入れた。≪私はこの人さえいれば幸福だ!≫ヴェニスの太陽をもってしても、こののびのびしたところの暖かさを、彼女の心に与えることはできなかった。)

いつしか、コニイとメラーズはお互いになくてはならない存在になっていたのです。

(「あの、私に赤ちゃんができるのよ」
 表情が彼の顔から、彼のからだ全体から、さっと失われた。彼は暗くなった眼で彼女を見つめた。何か黒い形の精霊が彼女を見つめているように思われた。)

 しかし、森番のメラーズにも、疎遠になった別れた妻がいるのです。メラーズとコニイは、お互いが正式に結ばれるのを待ちながら・・・・、物語の終わりは、メラーズの独白によって結ばれています。

(「クリフォド卿のことは大丈夫です。彼の方からなにも言ってこなくっても大丈夫です。彼はあなたにたいしては全然なにもできないのです。待っていれば、彼はやがてあなたをほうり出すために離婚しようと考えてきます。そしてもし彼がそうしなかったら、僕らは彼に近づかないようにするだけのことです。しかし、彼はするにちがいありません」
「僕らの大きな部分は共に生きているのです。僕らはそこに身を寄せて早く再会できるように、はからいましょう。トム・ジョンズはすこしうなだれた姿で、しかし希望に満ちてジェイン夫人におやすみなさいを言っています」

              オールド・ヒーナア グランジ農場にて )


・小説『チャタレイ夫人の恋人』を簡単に紹介しましたが、文庫本で四百八十ページにもわたる物語です。小説ではありますが、チャタレイ夫人コニイの生き方に、ブログで紹介した『ブーベの恋人』のマーラと同じく、一途な姿に共感する私です。そして、この二つの物語に私は、主人公の悩みや苦悩とともに、また、生きることの喜びを思うのです・・・・。 




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