第三十二首
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山川に 風のかけたる しがらみは
流れもあへぬ 紅葉なりけり
春道列樹
(?-920) 身分が低く、詳しい経歴は不明。壱岐守に任命されたが、赴任する前に没したという。
部位 四季(秋) 出典 古今集
主題
山川にしがらみのように散りたまった紅葉の美しさ
歌意
山あいを流れる川に風が作ったしがらみ(川の流れをせき止める柵)は、よく見ると流れることができないでたまっている紅葉の葉であったのだなあ。
山川に風がかけたしがらみとは、どのようなものかと思っていたら、今ここの谷川に、流れきらないでせきとめるばかりに落ちかかる紅葉であったよ。
自問自答の形で理知的に作りあげている。『古今集』と『後撰集』にたった五首しか取られていない列樹を百人の中に加えたのは、まず人を選んだというより、歌を選んだといえよう。
志賀の山越(京都の北白川から、比叡山と如意嶽との間を通って、近江の大津の方へ抜ける山道)で、眼前の光景を見ての歌であるが、自問自答の形で理知的に作りあげている。
『古今集』に三首。『後撰集』に二首。