koshiのお部屋2

万年三歳児koshiの駄文のコーナーです。

ローマの松

2008年11月20日 23時48分19秒 | 音楽

これまた名曲である。
19世紀中期に,フランスの作曲家エクトル・ベルリオーズ(1803-1869)が確立した近代管弦楽法は,後進の多くの作曲家たちに少なからぬ影響を与え,19世紀後半から20世紀にかけて,オーケストラの編成は膨れあがり,その効果を最大限に発揮させる作曲家の登場となる。
ロシア5人組の1人であるニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844-1908)と,その弟子であるイゴール・ストラヴィンスキー(ソ:1891-1971),そして当曲の作曲者であるオットリーノ・レスピーギ(伊:1879-1936)がそれに当たる。


曲は,以下の4部から成る。
4楽章構成の古典的な交響曲を思わせるが,切れ目無く演奏されるのと自由な形式で書かれているので(ソナタとかロンドではなく),作曲者が愛したローマの風物の1つである松を手がかりにした,古代への追想といった標題音楽と考えられ,「交響詩」という呼称が最も相応しいと言えよう。


第1部 ボルゲーゼ荘の松
ローマ市内中央部に位置するボルゲーゼ庭園の松林で,子どもたちが無邪気に遊んでいる。
輪になって踊ったり,兵隊さんごっこをしたり。
けたたましい賑やかさをブラスのハイトーンと各種金属打楽器が彩る。
猶,ボルゲーゼ庭園とは,17世紀にボルゲーゼ公によって作られた,森や池・噴水などがある広大な公園らしいが,ボルゲーゼ家と,バレンシア出身の貴族ボルジア家を混同して,「ボルジア荘の松」と書かれた表記が時々見られるので要注意である。


第2部 カタコンブの松
カタコンブとは,高校の世界史の教科書にも載っているローマの地下墓所で(カタコーム,カタコンベとも),キリスト教が迫害に遭った時代,教徒たちはここに籠もって密かに祈りを捧げた。
その悲嘆な聖歌が,厳かで重厚に奏でられ,ローマの悲史を浮き彫りにする。
カタコンブの入り口には,低く枝を垂らす松の幹が有るのだろうか・・・。


第3部 ジャニコロの松
昼は,ローマ市内を一望できる南西部のジャニコロの丘に生える松。
折からの満月に照らされ,幻想的な雰囲気を醸出させる。
そよ風が大気を揺すり,遠くでは夜鶯(ナイチンゲール)が鳴く。
幽玄にして静寂な,実に魅力的な楽曲。


第4部 アッピア街道の松
BC312年にアッピア・クラウディアによって開かれたアッピア街道は,ローマ市内からカプアに至る極めて重要な幹線である。
霧深い夜明け,圧倒的な強勢を誇った古代ローマ帝国の軍団が次第に近づいてくる。
映画「スパルタクス」のラストシーンに見られるように,アッピア街道沿線には巨大な松が街路樹のように聳える。
高らかに吹奏されるトランペットが昇りゆく太陽を示すかのように響き渡り,市内の中央広場に程近いカピトールの丘を目指して凱旋する軍団への幻想が,骨太なタッチで描かれ,最後は強烈な全奏で締めくくられる。


所謂レスピーギの「ローマ三部作」の中では,最も各部のバランスがよい曲と思う。
勿論,「ローマの噴水」の第1部「夜明けのジュリアの谷の噴水」の静寂感や,第2部の「朝のトリトンの噴水」に於ける神々の踊りの描写,後年の「ローマの祭」第1曲「チェルチェンシス」での暴君ネロがコロッセオで,キリスト教徒たちをライオンに喰わせたという殺戮ショーの場面や,終曲「主顕祭」での豪壮にして強烈な民族舞曲サルタレロのフィーバーも魅力的だが,構成感と各部のコントラストの鮮やかさに於いて,「松」は圧倒的に「噴水」と「祭」凌ぐと思う。


・・・ということで,眠いにもかかわらず何故こんな長大且つ冗漫にして濃厚なエントリを・・・と思われようが,次の日曜に迫った本番のメインがこの曲だからである。
4年ぶりに演奏となる。
全曲通しだと4度目。
終曲「アッピア街道の松」だけだと,多分演奏回数は10回を超えるもしれない。
最後の最後で,ついつい頭に血が上り,
「大きすぎ」
とか,
「良い音で」
とか,指揮者の不興を買いがちなので(楽器の性能さえ良ければ,鳴り響くブラスの全奏以上の音量が出せる筈だ),十分注意したい・・・。

 

CD棚の「ローマ三部作」を数えてみたら,デュトワ~モントリオール響ムーティ~フィラデルフィア管(作曲者もこのオケを作曲の2年後1926年に指揮している)といった定評のあるところに加え,バティス~ロイヤルフィル(「主顕祭」のサルタレロは絶叫している)とかスヴェトラーノフ~ソヴィエト国立放送響(アッピア街道を進軍するのは,古代ローマ帝国軍ではなく赤軍の重戦車隊か) といった際物もあった。
「松」だけだと,ケンペ~ロイヤルフィルが格調高く,色彩的にも鮮やかだった・・・(数年で廃盤か・・・)。


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