
大阪府の職員らは詳しいだろうが、ヤクザの刺青にはいくつか種類がある。一般的には「観音様」「竜や虎」「錦鯉」が思い浮かぶが、その中でもボス級は「観音様」を入れるとか。「竜や虎」は武闘派で「錦鯉」はインテリやくざが多い、とか言われる。ウソかホントかはしらない。
ずいぶん前、ヤクザの愚痴に付き合ったことがある。その御仁の背中には「錦鯉」があったから、頭を使ってシノギをするタイプのお兄さんだ。服装は悪い意味でお洒落だった。Vシネマの画面から飛び出してきたようなセンス、銭勘定が得意で口達者だった。しかしながらそこは本職、ヤルときはヤルわけだ。そもそも「暴力」はヤクザの基本スキルである。そして、私が聞いたのは久しぶりに人を殴った、という愚痴だった。
しょうもないトラブルがあった。それで相手に連絡した。その相手はようやく、そこで自分が誰に何をしたのかを認識して凍りついた。それでも、その兄さんは相手が10万円ほど包んで土下座でもすれば「もういいよ、次から気をつけてな」と言うつもりだった。しかし、そのトラブルの発端となった「若い衆」が使えない、と嘆く。
その兄さんは、いわゆる「兄貴分」だ。簡単に言うと相手さんはその「若い衆」と揉めた際、少々舐めたことを口走った。その兄さんの名も知りながら、それがどうした、呼んで来い、みたいにトチ狂ったわけだ。よく聞く話だが、コレ、実はかなり怖いことだ。
一度ならいくらか包んで「知りませんでした」と謝ればなんとかなるかもしれないが、二度目は覚悟した方がいい。腹を空かせた肉食獣を相手に挑発して、そうそう何度も許してもらえないのと同じだ。老婆心ながら、ヤクザ相手に「殺される覚悟・殺す覚悟」もなく「呼んで来い」「だからどした」はかなり危険だと言っておく。相手はそういう生き物だ。
その使えない若い衆は、相手を呼び出した際、やらねばならないことがあった。それは「(相手を)見た瞬間に殴りかかる」だ。私もまったく同意した。なにをやっとるんだ、その若いのは、と同情したモノだ。それをしなければ大事になる。つまり、軽い被害で済ませられなくなる。軟着陸できないのだ。
あろうことか、その若い衆はニヤニヤしながら「さあ、どうすんだ」と威張ったと言う。私はヤクザの世界にまで「ゆとり」が蔓延っているのかと愕然とした。それじゃあ喧嘩に親を連れてきた餓鬼だ。兄さんは情けない顔で続けた。「ンでそれ、オレが行ってゲンコツするの? 舐めんなよ、とか言って」。私はもう、一緒に溜息を吐くしかなかった。
正解は先ず、飛びかかる。それで相手の鼻でも折る。そしてその血塗れの相手に対し、鬼の形相のまま「殺す」を言う。兄さんはタバコでも吸いながら遠くを見る。それで若い衆が相手を正座させる。それから耳を取るか、指を折ると告げる。そこで兄さんが動く。
「まあ、もうやめとき」
兄さんはさっとブランド物のハンカチを出す。「血ぃ出てるがな」かなんか言う。若い衆は収まらない。「兄貴、こいつもう、殺りましょうや」とか言う。相手はオシッコ出る。
懐から封筒を出して土下座する。それでお仕舞いだ。兄さんは帰りの車の中、御手間かけさせました、とか言う若い衆から差し出された封筒の中身を見て、ふっと息を拭き入れてからポンと返す。そして自分の財布から数万円抜き出し、若い衆に渡して言う。
「それは返したり。ンでから、これで一緒に飯でも食うて来いや」
兄さんは私に言う。「これやろ、普通は」。
その通りである。若干ベタではあるが、こうすることによって兄さんはまた、影響力が増す。器量を見せておく必要があるのだ。つまるところ、それが兄さんの「シゴト」である。そうしておけば、なんかあった際、その馬鹿も使える。
兄さんはなんと、仕方がないから「自分で殴った」と嘆いていた。本職がヤルなら加減はナシだ。手を抜いたら舐められる。舐められたら生きていけない。だから相手は顎が砕けた。それを見てビビった若い衆が「死んでまいますやん」と止めたのだと言って、また、情けない顔で下を向いた。
もちろん、そんなことで本当に殺すわけにはいかない。しかし、中途半端で許すわけにもいかない。だから若い衆に暴れてほしい、それを自分が止めてお仕舞いにしたい。結果は逆だった。自分が若い衆に止められて取り乱す。これじゃあ「仁義なき戦い」の大友勝利だ。こんな恥ずかしいことはなかった、と兄さんは極道界の将来を憂いていた。
しかし、日本にはまだ、例えばNHKがある。ここの親分はかっちょよろしかった。
2004年に幹部プロデューサーの公金不正支出がバレた。さすがに大騒ぎになる。みなさまからの受信料だけではなく、公金もちゃんと使われていなかったとなれば、いくら当時の会長、海老沢勝二氏でも国会に呼ばれた。証人喚問だ。
これをNHKは「放送権の行使」として中継しなかった。するもしないも、誰にとやかく言われる覚えはない、という宣言だった。だから「文藝春秋」が取材に行った。すると、海老沢会長だけではなく、広報の社員らも7~8人がきた。
海老沢会長は穏やかなモノだ。小声でぼそぼそ、なにかを言う。記者の質問が核心に迫れば「もういいんじゃないですか」「その質問は失礼ではないですか」と取り巻きがやる。海老沢会長は「まあまあ」と宥める。すると、広報社員らはさっと下がる。しかし、記者も子供の使いではない。NHKみたいに「ポルポト独占インタビュー」として「好きな食べ物はなんですか?」とやっておれば、普通はジャーナリズムとして死ぬ。だから海老沢会長が不機嫌になろうとも仕方がない。
しかし、また「失礼じゃないか!」と怒声が飛ぶ。すごい剣幕で立ちあがろうとする。それをまた、海老沢会長がすっと手をかざす。取り巻きはぴたりと止める。<彼らは口を閉じると、揃って体を椅子に戻したのだった>(文藝春秋・2004年11月号)。
まるでよく出来たヤクザだが、この連中がテレビで「振り込め詐欺の呼称が変わりました」とかやる。NHKの受信料の支払い方法が変わるのかと思ったら、なんでも「母さん助けて詐欺」に変わりましたとか。ふうん、と思っていたら「送りつけ詐欺にも注意しましょう」と続く。まさに噴飯モノだ。
我々は毎月毎月、私たちは日本の公共放送です、と頼みもしないのに毒電波を送りつけてくる連中を知っている。それから当然、みてるんだろ?みたんだろが、と凄んで受信料を支払わせる悪徳詐欺を知っている。
もう恐ろしくて、勘弁してください、と頼んでも許してくれない。国民の義務だろが、ワンセグテレビはあるんだろ?ん?と帰ってくれない。こっちは大変な思いで番組作ってんの、わかる?それを受信してるんだろ?じゃあ、払うもん払わんとなぁ?と巻きあげていく。それでも拒否すると民事でやられる。最後の手段として「テレビは捨てました」を言ってもカーナビは?廃棄処分を証明する書面は?とくる。悪辣極まる「送りつけ詐欺」だ。
途方に暮れながら送られてきたモノをみると、ここは日本なのに中国がどうしたばっかり。「中国のASEANへの発言力が注目されます」「アフリカがいま、中国の援助によって立ちがろうとしてます」「ヨーロッパが中国に注目」とか、どこの世界をクローズアップしたのかわからないのを送る。再放送のドラマも韓国ばっかり。興味を引くためには「韓国の歴史講座」もやる。そんなの、どこの「みなさま」が望んでいるというのか。
また、普通の日本人なら通常の生活空間において「ハングル」なんか必要ないのに「ハングル教室」を何度もやる。一日数回は「あにょはせよ」と言わなければ気が済まない。
それでも反応がないと、いま日本でハングルが流行ってます、と嘘までやって年寄りを騙す。怪しげな日本の若者を登場させて、ハングルのほうが可愛い、ハングルのほうが伝わりやすい、と言わせて、ハングルの画面を映す携帯を見せる。
だからハングル教室に行きましょう、と不気味なアナウンサーが言うと、次の番組になる。ほっとしていると「今日の料理は豚キムチです」。歌番組なら今里新地のホステスみたいなのが歌って踊る。トーク番組なら「今日のゲストは韓国で大人気のあのグループです!」。討論番組だと安心すれば姜尚中に崔洋一、日本人を見つけたら藤原帰一とか香山リカ。
なにが悲しくて朝から晩まで日本の悪口ばかり送りつけられねばならないのか、と思いながらも受信料は盗られ続けるから、今日も明日も視聴者は悔し涙で枕を濡らす。
警視庁は「振り込め詐欺」の名称を変えるなら「送りつけ詐欺」も同じく変えたらどうか。もちろん、これも公募する。ならば「母さん助けて」みたいな語呂の悪いのではなく、もっとすっきりとした良いのがたくさん送られてくる。例えばアルファベット3文字とか。
ずいぶん前、ヤクザの愚痴に付き合ったことがある。その御仁の背中には「錦鯉」があったから、頭を使ってシノギをするタイプのお兄さんだ。服装は悪い意味でお洒落だった。Vシネマの画面から飛び出してきたようなセンス、銭勘定が得意で口達者だった。しかしながらそこは本職、ヤルときはヤルわけだ。そもそも「暴力」はヤクザの基本スキルである。そして、私が聞いたのは久しぶりに人を殴った、という愚痴だった。
しょうもないトラブルがあった。それで相手に連絡した。その相手はようやく、そこで自分が誰に何をしたのかを認識して凍りついた。それでも、その兄さんは相手が10万円ほど包んで土下座でもすれば「もういいよ、次から気をつけてな」と言うつもりだった。しかし、そのトラブルの発端となった「若い衆」が使えない、と嘆く。
その兄さんは、いわゆる「兄貴分」だ。簡単に言うと相手さんはその「若い衆」と揉めた際、少々舐めたことを口走った。その兄さんの名も知りながら、それがどうした、呼んで来い、みたいにトチ狂ったわけだ。よく聞く話だが、コレ、実はかなり怖いことだ。
一度ならいくらか包んで「知りませんでした」と謝ればなんとかなるかもしれないが、二度目は覚悟した方がいい。腹を空かせた肉食獣を相手に挑発して、そうそう何度も許してもらえないのと同じだ。老婆心ながら、ヤクザ相手に「殺される覚悟・殺す覚悟」もなく「呼んで来い」「だからどした」はかなり危険だと言っておく。相手はそういう生き物だ。
その使えない若い衆は、相手を呼び出した際、やらねばならないことがあった。それは「(相手を)見た瞬間に殴りかかる」だ。私もまったく同意した。なにをやっとるんだ、その若いのは、と同情したモノだ。それをしなければ大事になる。つまり、軽い被害で済ませられなくなる。軟着陸できないのだ。
あろうことか、その若い衆はニヤニヤしながら「さあ、どうすんだ」と威張ったと言う。私はヤクザの世界にまで「ゆとり」が蔓延っているのかと愕然とした。それじゃあ喧嘩に親を連れてきた餓鬼だ。兄さんは情けない顔で続けた。「ンでそれ、オレが行ってゲンコツするの? 舐めんなよ、とか言って」。私はもう、一緒に溜息を吐くしかなかった。
正解は先ず、飛びかかる。それで相手の鼻でも折る。そしてその血塗れの相手に対し、鬼の形相のまま「殺す」を言う。兄さんはタバコでも吸いながら遠くを見る。それで若い衆が相手を正座させる。それから耳を取るか、指を折ると告げる。そこで兄さんが動く。
「まあ、もうやめとき」
兄さんはさっとブランド物のハンカチを出す。「血ぃ出てるがな」かなんか言う。若い衆は収まらない。「兄貴、こいつもう、殺りましょうや」とか言う。相手はオシッコ出る。
懐から封筒を出して土下座する。それでお仕舞いだ。兄さんは帰りの車の中、御手間かけさせました、とか言う若い衆から差し出された封筒の中身を見て、ふっと息を拭き入れてからポンと返す。そして自分の財布から数万円抜き出し、若い衆に渡して言う。
「それは返したり。ンでから、これで一緒に飯でも食うて来いや」
兄さんは私に言う。「これやろ、普通は」。
その通りである。若干ベタではあるが、こうすることによって兄さんはまた、影響力が増す。器量を見せておく必要があるのだ。つまるところ、それが兄さんの「シゴト」である。そうしておけば、なんかあった際、その馬鹿も使える。
兄さんはなんと、仕方がないから「自分で殴った」と嘆いていた。本職がヤルなら加減はナシだ。手を抜いたら舐められる。舐められたら生きていけない。だから相手は顎が砕けた。それを見てビビった若い衆が「死んでまいますやん」と止めたのだと言って、また、情けない顔で下を向いた。
もちろん、そんなことで本当に殺すわけにはいかない。しかし、中途半端で許すわけにもいかない。だから若い衆に暴れてほしい、それを自分が止めてお仕舞いにしたい。結果は逆だった。自分が若い衆に止められて取り乱す。これじゃあ「仁義なき戦い」の大友勝利だ。こんな恥ずかしいことはなかった、と兄さんは極道界の将来を憂いていた。
しかし、日本にはまだ、例えばNHKがある。ここの親分はかっちょよろしかった。
2004年に幹部プロデューサーの公金不正支出がバレた。さすがに大騒ぎになる。みなさまからの受信料だけではなく、公金もちゃんと使われていなかったとなれば、いくら当時の会長、海老沢勝二氏でも国会に呼ばれた。証人喚問だ。
これをNHKは「放送権の行使」として中継しなかった。するもしないも、誰にとやかく言われる覚えはない、という宣言だった。だから「文藝春秋」が取材に行った。すると、海老沢会長だけではなく、広報の社員らも7~8人がきた。
海老沢会長は穏やかなモノだ。小声でぼそぼそ、なにかを言う。記者の質問が核心に迫れば「もういいんじゃないですか」「その質問は失礼ではないですか」と取り巻きがやる。海老沢会長は「まあまあ」と宥める。すると、広報社員らはさっと下がる。しかし、記者も子供の使いではない。NHKみたいに「ポルポト独占インタビュー」として「好きな食べ物はなんですか?」とやっておれば、普通はジャーナリズムとして死ぬ。だから海老沢会長が不機嫌になろうとも仕方がない。
しかし、また「失礼じゃないか!」と怒声が飛ぶ。すごい剣幕で立ちあがろうとする。それをまた、海老沢会長がすっと手をかざす。取り巻きはぴたりと止める。<彼らは口を閉じると、揃って体を椅子に戻したのだった>(文藝春秋・2004年11月号)。
まるでよく出来たヤクザだが、この連中がテレビで「振り込め詐欺の呼称が変わりました」とかやる。NHKの受信料の支払い方法が変わるのかと思ったら、なんでも「母さん助けて詐欺」に変わりましたとか。ふうん、と思っていたら「送りつけ詐欺にも注意しましょう」と続く。まさに噴飯モノだ。
我々は毎月毎月、私たちは日本の公共放送です、と頼みもしないのに毒電波を送りつけてくる連中を知っている。それから当然、みてるんだろ?みたんだろが、と凄んで受信料を支払わせる悪徳詐欺を知っている。
もう恐ろしくて、勘弁してください、と頼んでも許してくれない。国民の義務だろが、ワンセグテレビはあるんだろ?ん?と帰ってくれない。こっちは大変な思いで番組作ってんの、わかる?それを受信してるんだろ?じゃあ、払うもん払わんとなぁ?と巻きあげていく。それでも拒否すると民事でやられる。最後の手段として「テレビは捨てました」を言ってもカーナビは?廃棄処分を証明する書面は?とくる。悪辣極まる「送りつけ詐欺」だ。
途方に暮れながら送られてきたモノをみると、ここは日本なのに中国がどうしたばっかり。「中国のASEANへの発言力が注目されます」「アフリカがいま、中国の援助によって立ちがろうとしてます」「ヨーロッパが中国に注目」とか、どこの世界をクローズアップしたのかわからないのを送る。再放送のドラマも韓国ばっかり。興味を引くためには「韓国の歴史講座」もやる。そんなの、どこの「みなさま」が望んでいるというのか。
また、普通の日本人なら通常の生活空間において「ハングル」なんか必要ないのに「ハングル教室」を何度もやる。一日数回は「あにょはせよ」と言わなければ気が済まない。
それでも反応がないと、いま日本でハングルが流行ってます、と嘘までやって年寄りを騙す。怪しげな日本の若者を登場させて、ハングルのほうが可愛い、ハングルのほうが伝わりやすい、と言わせて、ハングルの画面を映す携帯を見せる。
だからハングル教室に行きましょう、と不気味なアナウンサーが言うと、次の番組になる。ほっとしていると「今日の料理は豚キムチです」。歌番組なら今里新地のホステスみたいなのが歌って踊る。トーク番組なら「今日のゲストは韓国で大人気のあのグループです!」。討論番組だと安心すれば姜尚中に崔洋一、日本人を見つけたら藤原帰一とか香山リカ。
なにが悲しくて朝から晩まで日本の悪口ばかり送りつけられねばならないのか、と思いながらも受信料は盗られ続けるから、今日も明日も視聴者は悔し涙で枕を濡らす。
警視庁は「振り込め詐欺」の名称を変えるなら「送りつけ詐欺」も同じく変えたらどうか。もちろん、これも公募する。ならば「母さん助けて」みたいな語呂の悪いのではなく、もっとすっきりとした良いのがたくさん送られてくる。例えばアルファベット3文字とか。
