空華 ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。私のブログFC2[永遠平和とアートを夢見る」と「猫のさまよう宝塔の道」もよろしく。

銀河アンドロメダの猫の夢 19 [迷宮の黄色いカフェ]

2018-11-22 10:17:31 | 文化

駅前に大きな案内図がある。

駅を中心に三方に大きな道路が郊外の方に延びていたが、我々はどこの道を行くか迷った。

確かに、道行く人々は地球の人間よりも小柄な感じがするが、顔は宇宙辞書にあったように、猫科の顔と地球人類の顔をミックスしたような人が多いような気がする。

案内図からは、どちらのコースを行っても、奇妙な道に出る。案内図にも迷宮と書いてあるのを不思議に思って、吾輩、寅坊は見たのだが、確かに、碁盤の目のような整然とした道ではなく、逆である。たいそう、入り組んで、道がくねくねと曲っている。時に、道が途中で途切れている所もある。そして、突然のように、別の迷宮街がある。Z迷宮街、W迷宮街、X迷宮街、N迷宮街という文字がやけに目についた。

「号外。号外」という大きな声が背後からした。ふと、振り返ると、若く逞しい男が「号外だよ。地球のピケテイがついに『二十一世紀の資本論』を著した。わが国では、虎族と猫族の経済格差は開く一方、これもピケテイの理論によって、説明できるという内容だよ」

我々は号外を受け取った。

中身は虎族が国の富の半分を独占している。これは以前から、ヒョウ族などからも不満が出ている話だった。

「ふうん。ここでも大きな経済格差が問題になっているのか」と吾輩は驚きで、ため息をついた。

 

 白い花が咲いている樹木の横の案内図の近くで、吟遊詩人は歌うように、言った。

「大きな経済格差はいけませんよ。」

そう言うと、彼はヴァイオリンをかきならした。ふと、帽子をかぶったビジネスマン風の男が立ち止った。黄色い髭をはやした大きな黄色い顔で、まるで虎と人をミックスしたような奇妙な顔立ちであるが、優しい目に知的な光が輝いていた。

詩人は手を休めると、又歌うように言った。「人間、生きていることは生かされているのです」

吾輩、寅坊は自分の呼吸を思った。息を吸う、吐く。これだけのことがなかったら、吾輩は確実に死ぬ。空気に生かされているのだ。この惑星は空気が綺麗。おいしい。素晴らしいことだ。吟遊詩人は違ったイメージで言っているのに、吾輩の頭には、奇妙なことばかり、浮かぶ。

そばに立っていたひょろりと背の高いリス族の若者が小さな顔を赤らめて、「それで、続きは? 」と言った。

詩人は微笑して、その青年に語るように、さらに続けた。「多くの人の手によって、自分は生かされているのです。どんな金持ちも自分一人で、生きていくことは出来ないのです。

トリクルダウン効果【高所得者が豊かになれば低所得者にも富がしたたり落ちる】なんていう経済感覚は庶民をなめているエセエリートの発想ですよ。謙虚に考えれば、多くの庶民の助けによって、大金持ちになったのではないでしょうか」

ビジネスマン風の男とリス族の若者は大きな拍手をして、急ぐように立ち去った。その少し前から、立ち止って、買い物かごを手に持った猫のような顔をした小母さんがやはり拍手しながら、詩人の言うことに耳を傾けていた。横に十七才ぐらいの女の子が目をキラキラさせながら、詩人を見ていた。

猫族の女の子で、深紅と青と黄色のまざった民族衣装を着て、妖精のような感じだった。

詩人は「君の瞳の奥に何がある ? 」と歌うように言った。

「え」と少女は丸い目をさらに丸くして好奇心を輝かして、詩人を見た。

「あなたは音楽をやるの」

「うん、詩作もね」

「何か、良い詩が出来ましたか」

「 小麦粉が降りかかるよ町の家の窓に

並木道の緑に小麦粉の白いふっくらとしたあったかさがつもるよ

春の衣装を着た町のいのちの流れ

嬉しさと憂鬱な思いで ジャムのぬられたパンを食べ、コーヒーを飲む

美しい空の青さに酔いしれて春の風を心に感ずるよ

 

さわさわと吹く風の音楽と共に

春は小麦粉をまきちらして 町の中を歩いていくよ

夕闇の中に映る町の影よ

どこからともなく永遠の町から町へ

幸福の吐息が聞こえてくるよ

ああ 永久に墓石の上にとどまる風のため息

緑の梢にさざめく青い羽根の小鳥の夢のような声

庭に咲くコスモスの花それによりかかる白い腕

人の歩く道は軽やかで歌のようだ ああ町の真紅のばら    」

 

しばらく沈黙があった。そのドミーという女の子は寂しそうに言った。

「あたしの家は貧乏よ。森の中に住んで、父はきこりをしているわ。

お金持ちになるには物凄い努力がいるって、父はよく言っているわ」

 

詩人はにっこり笑い、「努力だけではね。例えば、地球では、三菱をつくった岩崎弥太郎。土佐藩の貧乏武士でした。明治維新という社会の転換があり、彼は土佐藩出身という有利な立場を利用して、大財閥になったのです。もし明治維新という多くの人の動きがなかったら、彼がいくら才覚があっても、もとの貧乏から脱せなかったでしよう。

ピケティの言うように、大きな経済格差をなくさなくては、国民の幸せは得られないのです」

そんな風な少し長い話も、詩人の言葉は、吾輩の耳には、歌っているように聞こえた。

吾輩は猫であるから、虎族が多くの富を得ているという号外には強い関心を持った。この惑星で起きていることは、ピケテイの指摘するように、あの青い懐かしい地球でも起きている。

 

 やがて、我々は買い物があるらしいドミーとも別れて、Z迷宮街への道を選んで、歩いていた。いつの間に、空に魔ドリが飛んでいた。「久しぶりだな。この惑星にも魔ドリがいるらしい。」とハルリラが言った。吾輩もハルリラと一緒に、素早く走るように飛ぶ数羽の魔ドリを見て、ドキリとした。ふと、気が付くと、吟遊詩人は囚人服になっていた。そして、我々の歩く前方に、緑の目をした美人の知路がいた。魔界の娘とは思えないほど、魅力的だった。

「あら、川霧さん、お久しぶりね。この惑星でも、お会いできるとはうれしいわ」と知路は微笑して、吟遊詩人に挨拶した。「囚人服を脱ぐために、あたしの笛は吹きましょうか。あなたのヴァイオリンも今度は、うまくいかないと思うわ。免疫がつくられたと思う。あたしの笛は大丈夫よ。どう。吹きましょうか。あなたを助けたいの」

横から、ハルリラが「知路の世話にはなりたくないな。」と大きな声で言った。

知路は顔を真っ青にした。そして、一瞬にして、消えた。

さらに我々は歩いた。ゴッホの「黄色い家」のような黄色い壁のカフェに出会った。そばの小さな庭には百合の花が咲き、さわやかな日差しが当たって、そこら中が宝石のように輝いていた。店の入口の横にある高い樹木の上から、何の花だろうか、赤い美しい花が空を浮かぶ小舟のように、舞い降りてきた。中に入ると、マリアのような女性を表現した透けたステンドグラスからも先程の日差しが入り、テーブルの上に光の小さな海をつくっていた。

 

我々はそこに座り、そこで、コーヒーを飲んでいると、一人の小柄な中年の男がやってきた。口ひげをはやし、穏やかな表情をしている。

「ここに座ってもいいですか」

「どうぞ」と吾輩は言う。吾輩は彼を見た時、何か懐かしいような感じがしたのだ。そう、猫の匂いがする。丸い小さめの顔は人の顔だが、どこかに猫の顔立ちが混じっている。

「お宅は銀河鉄道の客人ですか」と彼は聞いた。

「はい」

「私は特にお宅に興味を持つのですが、猫族ではありませんか」

「ええ、確かにその通りです」と吾輩は何か嬉しいような気持ちでそう言った。

しかし、ネコールというこの男は厳しい顔をしながら、「気をつけた方がいいですぞ。この通りはまあ、安全ではあるが、迷宮によっては、ヒットリーラの一味が猫族を狙っている」

「何、どうしてですか」

「ヒットリーラ大統領はこの国の独裁者です。彼らは虎族以外は人間でないという思想を持っている。それでも、ティラノサウルス教を信じていると、まあ、準虎族扱いされる。お宅はティラノサウルス教を信じているのかね」

「何、そんな変なものは、始めて聞く」

「そんなことをヒットリーラの直属の兵に聞かれたら、即、逮捕です。囚人服を着ている人は監獄から逃げてきた者とみなされる。人も差別の目で見る場合がある。そして、悪くすると、収容所に連れて行かれる」

吾輩は京都の出身であるから、あそこは仏像の都。本当に信じているかと言われると、戸惑うが、「仏教を信じているのだが、それでは駄目なのかな」と質問してみた。

ふと、吾輩の目に弥勒菩薩や三十三間堂の観世音菩薩の高貴な上半身が目に浮かんだり、消えていった。

「仏教。何ですか。それは聞いたことがないですな。どんな教えなんですか」

「お釈迦さまの教えです。宗派によって、多少、説明の仕方が違うのですが、人には不生不滅の仏性がある。つまり、その人には宇宙生命があるということです。ティラノサウルス教はどういう教えなんですか。」

「ティラノサウルスという神がいるという信仰である。昔、この惑星にティラノサウルスという恐竜がいた。肉食で最強とされている。強さこそ、この宇宙の意志というわけで、このティラノサウルスは神として尊崇された。

宇宙には、生きる意志がある。その意志は強さに現われている。だからこそ、ティラノサウルスは恐竜の神さまになり、この恐竜が絶滅して、さらに偉大な神様になり、ティラノサウルス教という教えにまでなった。そういう信仰をヒットリーラは持っている。虎族はこのティラノサウルスという恐竜の子孫ということになっている。」

「おかしいな。トラ族は虎という哺乳類から進化したと聞いている。それに、恐竜は絶滅したのに、子孫というのはおかしい」

「確かにね。科学的には、虎という哺乳類から進化したのである。しかし、ヒットリーラは強いのが好きなのさ。虎よりもティラノサウルスの方がはるかに強い。それで、彼はそういう信仰にのめりこんだ。国民もそれを強制されている。その点、猫族としての人間は弱さの象徴ということで、ヒットリーラからすると、面白くないというわけさ。無知というのは恐ろしいものだ。それから、魔界から、入ってきた恐ろしい価値観という説もある」と、その猫の匂いのするネコールという男は言って、沈黙しそれからコーヒーを飲んだ。吾輩もコーヒーを飲んだが、ふとキリマンジェロの味がすると思った。コーヒーを持ってきた男を思い浮かべた。ライオンと人のミックスしたような顔だったが、悲しげなものが漂っているのが不思議だった。

「ライオン族は少数民族のようで、失業率が高い」とハルリラが言った。

ハルリラによると、ライオン族は少数で誇りが高くのんびりしていて、怠惰であるので、トラ族にとって扱いにくい人種なんだそうだ。

 

 「地球では、我々猫族が鼠を獲物にしてきた歴史があるが、今や、猫族は卑しい鼠の子孫であるという人類とも仲良くやるように魂を磨いてきた。その高貴な猫族をヒットリーラは敵視して、ただ、強さだけを価値とするとは愚かなことだ」と吾輩は言った。

「その通りさ」と、ネコールはうなずいた。

「ヒットリーラが何でそんな考えに陥ったのか、教えてくれませんか」

「ニーチェの思想を誤解したのさ。誤解というよりは、捻じ曲げて解釈したのだから、ニーチェもいい迷惑さ。

ニーチェの考えでは、宇宙には、力への意志という「いのち」のようなものがあるということなのだろうが。それをねじまげて、宇宙には強さこそ最上という意志があり、その延長線上の金銭至上主義こそ重要というのがヒットリーラの信念となったのだろう。そうだ。そういうことに詳しいのがいる。トラーカム一家がそうだ。あそこがいい。この街角から、少し離れているが、農場を持つトラーカム一家がある。あそこの元の奥さんでトラーカムの二人の息子の母親が、あの家を出て、奇妙なことに今の大統領の奥さんにおさまっている」

「何で」

「話せば長くなる。ここはな。猫族のレジスタンスが強い所で、ゲシュタポも手出しは出来ない。

虎族の中にもいい人は沢山いる。ともかく、トラーカムもいい奴だ。それに、あそこへ行けばこの国のことがなんでも分かる。そこへ行ってみることだ」とネコールという男はそう言って、銀色の十字架のペンダントを見せて、「これを持って行け。これが仲間の印になる」と最初に、吟遊詩人に渡した。それから、男は同じペンダントをもう二つポケットから出して、我々に見せ、ハルリラに渡し、それから吾輩にもくれた。

「途中、気を付けるんだ。W迷宮街は、ヒットリーラ族のゲシュタポが出没する所だ。」

 

 ネコールはしばらく沈黙した。吾輩とハルリラと吟遊詩人はコーヒーを飲んだ。それから、彼はポケットから黒いピストルを出して、吟遊詩人に渡そうとした。

その時、吟遊詩人は断った。「武器はいらない」

ネコールは困惑した顔をして言った。

「しかし、向こうのW迷宮街を通らないと、あの邸宅には辿りつけない。あのW迷宮街に入れば、ゲシュタポがいる。君らの仲間に、猫族がいるのだし、君は囚人服を着ている、それは簡単には脱げない、魔界の落とし物だということを俺は知っている。ゲシュタポに逮捕されると、厄介なことになるぞ。ピストルは相手の足を狙うのさ。足と手だな。別にいのちを狙うわけじゃない。俺たちレジスタンスもむやみなことはしない」

「ありがとう。好意はありがたい。それでも、吟遊詩人の武器はヴァイオリンと歌なのだ。

これで、人の心をなごませ、争いをなくす。芸術と文化こそ、争いをなくす最大の武器と、私は考える」

「そうだ。京都と奈良が第二次大戦で、爆撃されなかったのは、あそこには文化の宝庫が沢山あったからだ」と吾輩は思わずつぶやいた。

「優れた音楽を聴くということは神仏にふれることなのだ。不生不滅の生命そのものに触れる。全てのものは移ろっていくが、それをささえている不生不滅の生命そのものに触れて、人は感動する。何故なら、人も不生不滅の生命そのものが現われた生き物だからだ。」と吟遊詩人は言う。

 

そして、我々はネコールと別れて、カフェを出て、先を急いだ。

我々の最初歩いていた所は、Z迷宮街である。ここは綺麗な店が並び、

花壇には、大きな百合の花が咲いている。色も色々、豊富である。黄色、赤、白と。

出会う人はみんな親切である。我々が銀河鉄道の客だということを知っているからである。

 

 季節は春なのであろうか。さんさんと降り注ぐ気持ちの良い日差し。

吟遊詩人はうれしそうに、至る所に「いのち」を感じると言い、歌い始めた。

  空に鳥が叫び、花が舞う

  平凡な空間の中に、神秘な宝が光る

  いのちは鳥となり、花となり、昆虫となる。

  風もいのち、永遠の昔から、いのちは海のように時に無のように遊び戯れていた。

 

  おお、悲しみも苦しみも花となる時がある。

  その時を待て、忍耐して待て

  嵐の海もやさしさに満ちた水面になることがある

  雪の街角も恋の季節になる時がある

 

  どこからともなく響いてくるヴィオロンの響き

  ああ、それは街角の人生の様々な色

  熱帯の極彩色の小鳥の声、獅子の遠吠え

  我は独りワインを飲む

  永遠の過去は映画のように、どこかの街角であるかのように

  幾たびも繰り返しいのちの花を開かせる、ああ、カラスの声

 

 しかし、別のW迷宮街に入った途端に、奇妙な雰囲気がでてきた。同じような三階建ての茶色のビルが整然と並び、虎の彫刻が至る所にある。真ん中の道路は大理石でできていて、細い水路が道に沿って流れている。柳の大木が街路樹になって、その柳の枝が大きく下にたれ、緑の葉がゆるやかな流れの青色の水路に映っている。

町の通りを歩く人に中肉中背で、顔はどちらかというと猫に似ている顔つきの人がなんとなく、貧相な服装をしているのだが、彼らの胸に銀色のバッジがある。

バッジには、黒色で「猫族」と書いてある。

吾輩は何故かどきりとした。そして、驚いた。

 

猫族のビジネスマンは黄色い背広とネクタイをして、優しい目をしている。彼らはエリートである。彼らにはバッジはついていない。

宗教者は立派な服装をしてきらびやかである。彼らも、エリートである。それから、

一見して、富裕層と分かる猫族がいる。虎のように逞しく、背が高く鼻が高い。男も女も奇妙な金の帽子をかぶり、金のイアリングをし、ダイヤのネックレスをしている。

 「やあい。囚人服を着ている悪い奴がいる。」と十才ぐらいの男の子が詩人に水鉄砲を使って、水をひっかけた。

詩人、川霧は微笑して、服にかかった水を手で払った。ハルリラが怒って、剣をぬこうとした。

「よしなさい。相手は子供ですよ」と詩人はハルリラの手を抑えた。

「親がそういう気持ちを持っているから、子供がああいうことをするのさ」

「どちらにしても、怒りをおさめる。それも剣の修行ではないのかな」と詩人が言うと、ハルリラは笑った。

ふと、気がつくと、洋品店の初老の豹族の主人が二人の様子を眺めていて、急に吾輩の顔を見て言った。

「ねえ。君」と言って、吾輩の手を引っ張るのだ。

「君達は銀河鉄道の客でしょ」

「そうです。寅坊です」

「寅坊さん。ここでは、服装を銀河鉄道の客であることを示す金色のを着ていた方がいい。

理由は君のような猫のような顔をしている人は『猫の悪人』と間違えられるからね。金持ちかブランドのついた職業についていると外見ではっきり分かる人は大丈夫なのだけれど。」

「間違えられると、どうなるんですか」

「ゲシュタポに見つかると、胸に変なバッヂをつけさせられる羽目になるかもしれない。最初は『猫族』とね。さらに進むと、『猫族の悪人』と書かれたバッジを胸につけさせられる」

「悪人というのが納得いかないけれど」

「さあ、それはこの国のトップが決めたことなんでね」

「差別ではありませんか」

「差別よりもっと進む気配があるから、恐ろしい。虎族の中で気をつけたい連中の見分け方を教えるよ。言葉だな。今、地球では、ブラック企業とかパワーハラスメントというのが流行っているそうじゃないか。彼らは虎の威を借る狐でね。中身は狐よ。人の心を傷つけることを平気で言う。そういう連中というのは、虎族の中でも、一番危険な奴らだ。せいぜい気をつけることですな」

確かに、禅では言葉を重視する。道元は「愛語」を重視した。ヨハネ伝にも「ことばは神なりき」という箇所がある。

吾輩はふと思い出した。

「初めに言葉があった。言葉は神と共にあつた。言葉は神であった。この言葉は初めに神と共にあった。すべてのものはこれによってできた。できたもののうち、一つとしてこれによらないものはなかった。この言葉に命(いのち)があった。そしてこの命は人の光であった。」

 

 ぞんざいに言葉を使う連中は彼の言うように、危険な連中なのかもしれない。

「とすると、美しい言葉を使う虎もいるということですかね」

「それはいる。いい心を持った虎も沢山いる。虎の威を借る狐の言葉には刃がある」

「なるほど。もう一つ聞きたいことがあるのですけど、猫の収容所があるという噂を聞いたんですけど」

「それはおいおい、分かる。それよりもさつき言った虎の顔をした狐の連中には気をつけることだよ。そういうキツネ族もけっこういて、トラ族に尾っぽを振って、猫には不親切というやからもけっこういるからね」

我々はそう言うわけで、その洋品店で、服装を銀河鉄道の客と一目で分かる金色の服に着替えた。それも一番、上質の服に。

不愉快な思いを避けるためには仕方ないことと、我々は納得した。 しかし、しばらく歩いていると、わしのような大きな魔ドリが飛び、吟遊詩人の金色の服の上にさらに又、奇妙な薄手の囚人服を着せた。これは魔法というしかない。魔法を使うハルリラが魔ドリに怒るより、驚き感心して唸ってしまっているのだから、吾輩の驚きはそれを上回るものだった。

  

 

                        【つづく】

【久里山不識より】

すみません。ここの前の文章で「黄昏の幻」の所を直す必要を前から感じていたのですが、体調が悪いため、長い物語詩ということもあり、文章が進まず、多少混乱した出し方をして、戸惑われた方もいらしゃると思います。失礼しました。

      

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