私がはじめて物語を書いたのは、高校の演劇祭の時だった。
調子に乗ったクラスの男子が「どうせやるなら派手なアクションものの演劇がやりたい」などと突拍子もない事を言い出し、それに乗っかったクラスメイトたちが、ターミネーターみたいなのだのエイリアンみたいなのだのをやりたいと、到底、高校生の出し物では無理そうな舞台劇を作りたがった。
到底不可能なそのリクエストに少しでも内容を近づけようと、クラス担任の先生は脚本家として、当時文芸部に所属していた私を指名した。
私は、そのあまりの無茶ぶりに当惑したものの、「お前の好きなように書いていい」とクラス担任からのお墨付きをもらい、どこかワクワクしながら、学校に置いてあった大量の原稿用紙を家に持ち帰った。
(SFは舞台で演じるのは無理だ。ならアクションなら? 刑事ものとかどうだろう? 派手な銃撃戦があれば、クラスの男子も喜ぶかも)
受験勉強の何倍も頭を使い、私は苦心の末、二週間で一本の舞台劇の脚本を書き上げた。
当時、私が好きだった香港アクション映画のオマージュ・・・いや、有体に言ってしまえばパクりであったその脚本は、潜入操作官である主人公と男気のあるマフィアの友情と戦いを描いた、とても高校の演劇祭で上演できるとは思えない内容だった。
だが、クラスメイトたちと担任は、話の元ネタを知らない事もあってか、この脚本をいたく気に入り、あろうことか火薬まで使って舞台上で見事に演じ上げてしまったのだ。
主人公の拳銃が火花を上げ、白い羽が舞台に舞い、壮絶な死のシーンにスポットライトが当たる。
それは、私が頭の中で空想で描いていたシーンそのものの再現だった。もちろん、拙い演出と演技ではあったものの、その舞台は観客を大いに魅了し・・・ついで言うと一部の保護者と校長先生からの大クレームを引き起こした。
私はそのとき初めて、自分の創作した物語が、誰かに伝わる事の喜びを知った。
私の頭の中にしか存在しなかった登場人物たちが、誰かの心の中にある喜びや悲しみ、痛みを引き出し、共感や追想を誘う。
その出来事は私にとって、もはや決して忘れる事の出来ない楔になってしまった。
こうして私は、物語という航跡を描くことを知った。それからの事はまた色々あるのだけれど、それはまた別の話だ。
(了) ※もしかしたら続きを書くかもしれません。
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小説 少年の孤独 あとがき付き 5年前