きっと忘れない

岡本光(おかもとこう)のブログです。オリジナル短編小説等を掲載しています。

小説 少年の孤独 あとがき付き

2020年04月29日 | 小説 (プレビュー版含む)

 

ショートショート小説 「少年の孤独」

その茶色の瞳の小柄な少年は、拗ねた表情を浮かべていた。

街角の公園で一人スケートボードを転がせ、ヘッドフォンでお気に入りのアニメソングを聴きながら、彼は孤独を持て余していた。

その街は、人同士の関心の薄い街だった。他人は他人と言わんばかりに大人たちは足早に通り過ぎ、子供たちは自分のテリトリー外の見知らぬ小さなものを、虐めるか無視するか、蔑もうとするばかりだった。

カッ、という音をたてて、スケートボートがアスファルトをこする。この公園は狭く、遊具も少ないが、スケボーを好きなだけ楽しめるところが数少ない利点ではあった。

「・・・吹きすさぶ・・・メロディが・・・思いだして・・・」

ヘッドフォンから音楽が漏れ出している。

自分の価値とはなんだろう。この遊びの意味はなんだろう。いつになればここから抜け出せるのだろう。

「カットバック! ドロップ!」

傾斜のついた壁を利用し、スケートボートを浮かせ、ジャンプを決める。彼がスマートフォンで観たスケボーの大技の再現だ。

「ターン!」

ズドン、と音をたて、彼は壁に叩きつけれるように落下し、尻もちをついた。

「・・・失敗」

膝小僧を擦りむいた少年は、特に動揺する様子もなく、ぱっと傷を手で払った。少しだけ、傷口が痛んだ。

あぁ、神様がいるならどんなに良かっただろう。ここから連れ出し、好きなだけ楽しい事を一緒に出来る仲間がいたらどんなに幸せだっただろう。

傷を見つめて、彼は一瞬、そう思った。身体の痛みではなく、心の痛みに、彼は少しだけ涙を流しそうになった。

「神様、かぁ」

半笑いの表情で空を見上げる。いつもと変わらない曇り空。

「神様、どうか僕に」

「友達を、ください」

一瞬だけ、空に虹が浮かんだ気がした。

ああ虹だ。と少年は思った。そして、背後に人の気配を感じて、振り向いた。

「迎えにきたよ、リンくん」

ずっと昔に出会ったことのある、自分より少し背の高い少女が、そこにいた。

大昔にこの公園で言葉を交わした記憶は確かにあるが、それはもうリンにとっては思い出で、本当の出来事だったかすら定かですらない。

でも、あの時、自分は確かに少女と約束を交わした。すっかり忘れていたけれど。そう、あの時も自分は神様に祈ったのだ。友達を下さいと。

「迎えにきたよ、リン君。さあ、次の世界に行こう」

少女は彼の手を取り、微笑んで頬にキスをした。

リンは小さく頷くと、片手にスケートボードを持ち、もう片方の手で少女の手を、強く、強く握った。

空には虹がかかり、公園の出口には、淡い光がまるで扉のように満ち溢れていた。

 

(あとがき)

 

こちらでは岡本イチです。さて、あとがきとして、このショートショート小説の解説をしていきたいと思います。

この作品に登場する少年リン君は、見出し画像としてアップしたイラストレーターの見崎晴さんのキャラクターデザインに着想を得ています。

自分の中では、リンは10代前半の少年で背は周りの同級生より低いです。髪はイラストの通り。下の服はデニムジーンズ、靴はスニーカーですね。

こうした描写はショートショートのお話では必要ないと思い、あえて省きました。あと、声は声変わり前です。ここは譲れません(笑)

次に、後半で登場する少女ですが、この子は実は深い由来がありまして・・・

実はこの少女は、このブログのトップページに登場する少女フィア本人です。 https://blog.goo.ne.jp/gois6

フィアというキャラクターは、私が約八年前に、初めてイラストを付けてもらったキャラでした。その時の絵師さんとはもう連絡が取れない状況です。

作者の頭の中では、フィアはこの八年間、ネットの情報の海の中をさ迷っていました。いわゆる、ネット空間の漂流というやつです。

何故、彼女がそんな目に合う事になったのかは、私の作品のひとつである 「窓の中、蒼い世界」

https://blog.goo.ne.jp/gois6/e/c95f5326f6b4d0e108777a08fa3c5ccd

のストーリーと繋がりがあります。ざっくり言うと、フィアは小説作中のネットゲームのキャラクターとして生まれた子でした。

作者である私の中で、リン(のイラスト)はフィアと同じようにネット空間に閉じ込められていました。公園は、その閉じたネット空間です。

フィアはかつて、リンと過去に一度だけ、ネット空間で偶然出会っています。その時のお話はとりあえずおいておきますが、リン少年だけでなく

フィアにとっても、その出会いはとても貴重なものでした。

フィアはネット空間をさ迷い続けるうちに、半ばデータ上の天使となっており、現在では閉じたネット空間を開けるための鍵(パスワード)を知る力を獲得しています。これは「窓の中、蒼い世界」では「魔法」と呼ばれた力であり、師匠から学んだことの一つでもあります。

小説のラストの光は、広大なネットの世界であり、そこには新たな出会いが広がっています。レンだけでなく、フィアの物語も、また動き出しています。

ちなみにフィアの外見は、「窓の中、蒼い世界」の時とほぼ変わらず、年齢も同じです。彼女が天使である所以ですね!

という訳であとがきでした。今回のコラボレーションはとっても楽しいので、またこうした内容を展開すると思います!

(了)

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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