奥武蔵の風

54 マンション販売のカラクリ

 4月19日。今日は、語呂合わせで「よい子」の日ですね。

 全国のよい子の皆さん、よく遊び、よく学んでいますか? 昨日、こんなニュースが報道されました。

「3月の首都圏の新築マンション価格は、1億円の大台を超えた」。—―これは、たまたま3月に2件の「高額マンション(億ション)」が売り出されたことによる平均値の瞬間的アップですが、一方で「2022年度の東京23区の新築マンションの平均価格は9899万円と1億円に迫った」ということですから、やっぱり高くてびっくりですね。(数値は不動産経済研究所の4月18日の発表)

 そこで、今日は、学校では教えてくれない「マンション販売のカラクリ」について、勉強しましょう。

1 マンションの値付け

 一般に商品の価格は、コストに利益分を上乗せして設定されます。利益を多く得ようと思って、やたら高い価格を付けても、市場競争がありますから、お客さんは安いお店の方へ流れて行ってしまいます。

 でも、マンションの場合は、ちょっと違っていて、立地条件がそれぞれに異なっていますから、土地の好イメージ等を前面に出して「差異化」を図り、初めから可能な限りの高い利益を上乗せします。

2 即日完売の仕組み

 行列のできる料理店は、中の様子や料理の味を知らなくても、人気がある店だから入ってみようかな、という気持ちになりますよね。マンションの場合も、お客さんの心理は似ていて、売り出しと同時に「完売」となれば、誰だってすごい人気のマンションなんだ、と思うはずです。

 マンションは、着工から正式に販売を開始するまでに1~2年の時間差があります。その間に広告を出し、資料を請求してくる購入希望者に、希望の価格帯や広さ・間取りなどを尋ね、特にモデルルームを訪問してくるお客には、事前登録などと称して、どの部屋が希望なのかを、聞き出します。これによって、販売直前には、人気が集中する部屋とそうでない部屋が分かりますから、正式に販売を開始する時は、複数の希望が入った人気の部屋だけを「第1期販売」として売り出すのです。

 結果は、当然「即日完売」となります。こうなると、後はしめたもので、第1期で抽選に外れた客や迷っていたお客が、「人気のマンションに違いない」と思い込み、第2期に申し込むことになるのです。第2期も同じやり方で「即日完売」を実現し、第3期辺りで、めでたく目的達成(全戸完売)となります。

3 秘密の値引き

 もっとも、いつもこの通りになるとは限りません。時には、思惑が外れて、売れ残りの部屋が出ることも少なくありません。しかし、第3期、第4期、第5期・・・と継続していくと、人気がないマンションというイメージになってしまうので、「第3期第1次販売」「第3期第2次販売」などと、第3期を継続する小ワザを使うようになります。

 建物が竣工しても、まだ売れ残りがあると、さすがに開発業者も焦りを感じ始めます。そこで、現地へ見学に来てくれたお客に、そっと値引きを持ち掛けるようになります。ざっくり100万円単位の値引きで、多くの希望者が「それなら」と、心動いて購入を決断します。(私も、かつてその一人でした。私とは異次元ですが、某タワーマンションの最上階を1億円値引きしてもらって買ったよ、という人に会ったことがあります。ああ、ため息!)。

 もともと「可能な限り高め」の値付けをしているのですから、マンション全体で元が取れればよいわけで、開発業者はあらかじめマンションごとに値引き額の総枠を設定しているのです。ただし、初めから提示価格で購入したお客に知られるとマズイので、値引きしたお客には「口外しない」ことを誓約させます。(マンション購入者の中には、心当たる方が多いと思います。その時は、私も得したような気がしたのですが、私より後に他の部屋を買った人は、もっと値引きしてもらえたんだろうなと思うと、複雑でした。ああ、またもや、ため息!)。

4 最近の傾向

 よい子の皆さん、ご家族がスーパーで買い物してきた食品などのパックをよく見てください。成分情報や賞味期限、調理方法などが詳しく表示されているはずです。

 でも、マンションの新聞広告やチラシ広告は、9割がイメージ写真で占められ、一番大事な価格とか建物性能は、法律で義務付けられた最低限の情報だけが、虫メガネで見ないと分からないような極小文字で表示されています。また、間取り図は、方角にかかわらず、必ずベランダが下に来るように描かれていて、一見あたかも南向きの部屋であるような感じになっています。

 不親切ですよね。本当に住宅が欲しいお客さんのことを考えているんだったら、もっと必要な情報を正確に提供してくれてもいいと思いませんか?

 最近の傾向として、高額マンションは、本来の居住目的ではなく、投資目的で買う中国人や節税目的で買う富裕層が増えています。開発業者にとっては、大口顧客の方が販売効率がよく利幅も大きいので、ローンを組む庶民層のためのマンション供給は、後回しになっているんですね。

 ところで、「億ション」って聞くと、皆さんは、さぞ豪華だろうなと思うかもしれませんが、都心部ではマンション価格の8割は土地代ですから、建物の基本性能は、郊外の高めのマンションと大きな違いはないんですよ。強いて違いをあげるなら、見た目(外観・内装)と建付け備品に「わび・さび」とは程遠い派手な仕様を施していること、プールやジムなどの共用施設があること、コンシェルジュという共通の召使いさんが常駐している点などでしょうか(その分、管理費は高いですけど)。

 

5 結論 

 よい子の皆さん、住宅の住み心地は、けっして資産価値ではなく環境なんですよ。大きくなって、マンションを買うことがあったら、ぜひこのことを思い出してくださいね。

 学校も、池上先生も教えてくれない「マンション販売のカラクリ」の授業でした。

 

(以下の写真は、イメージです)

 

(写真上)© 東京有明(工事開始当時)

(写真上)© 東京駅前(某高層ビル建設中当時)

(写真上)© 大阪うめきた(工事開始当時)

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