奥武蔵の風

10 市境の長い遊歩道

 セントラル ロードと名付けられたこの遊歩道を散策するのは、ちょっとした楽しみです。

 両側には戸建ての住宅が整然と立ち並んで、一見、閑静な住宅街の中のごく普通の遊歩道なのですが、実はこの遊歩道は、地理的に飯能市と日高市の境に沿ってまっすぐに伸びる「境界線の道」なのです。

 市境(しざかい)の道というと、なにやら「辺境」とか「はずれ」というイメージが付きまとうのですが、それにもかかわらず、なぜ 「セントラル ロード」なのでしょうか。それは、この辺り一帯が飯能市と日高市にまたがって開発・造成された大規模な住宅団地で、両市の境界がこの住宅団地の中央部を通っているからです。

 住宅団地の名称は、開発主体のデベロッパーによって「西武飯能・日高分譲地」と表記されていますが、住居表示の町名は、飯能市側が「永田台」、日高市側が「横手」となります。水道と下水道はそれぞれの市がサービスを提供していますが、都市ガスはこの住宅団地専用のガス会社が、またテレビ回線は地元のケーブルテレビ局である「飯能日高テレビ」がサービスを提供しています。たしかに両市の中心部(市役所あるいは駅)からは遠く、交通は主にバスあるいは自家用車に頼ることになるのですが、農地がないこともあって、住宅街の雰囲気は、両市の中心部より都会的な印象です。

 それはともかく、セントラル ロードを歩く楽しみは、時に境界をまたいで二つの市の間を行ったり来たりできるところにあります。といっても、厳密に言えば、道の真ん中が境界なのではありません。それはそうですよね。こんな狭い歩道の真ん中に市境を設けたら、補修のたびに両市の調整が大変なことになってしまいます。ですから、その辺は、開発業者もうまく設計したようで、東西に伸びるセントラル ロードは日高市側にあって、歩道の南側の側溝(そっこう)が公式の境界線になります。

 ということで、遊歩道自体は日高市の市道なのですが、飯能市民も一応 無料で通行することができます。いや、飯能市民に限らず、だれでも犬猫にも開放されていますから、遠慮なく胸を張って歩きましょう。目の前に並ぶ左右の住宅が、片や飯能市、片や日高市というのは、歩いていて不思議な体感です。それに、境界を一歩またげば、そこはもう隣の市です。1歩で2歩分 楽しめるというのが、私の実感です。

 セントラル ロードは、600メートル以上も続く直線路です。もともとは山林の中にあったはずの市境ですが、住宅団地の造成によって直線化されたわけではなく、史料を見ると、すでに1920(大正9)年には、この長い直線の境界(当時は飯能町と高麗村)が地図上に確認できるのですから、驚きです。

 

(写真上)©直角に交わる飯能市と日高市の境界。側溝の向こうの内角側が飯能市、手前の外角側が日高市。ここがセントラルロードの東端で、右へ遊歩道が伸びていきます。

(写真上)©遊歩道を東から西へ。左に飯能市の住宅、右に日高市の住宅が続きます。

 

(写真上)©中央の側溝が市境。左の広場は「飯能市なかよし公園」。右側は、植え込み・並木とセントラルロードをはさんで、「日高市なかよし公園」。

(写真上)©日高市の掲示板。掲示板のすぐ後ろは「飯能市」です。

(写真上)©4枚目の写真の掲示板と標識を裏から見ると、こうなっています。中央に市境の側溝がまっすぐ伸びていて、右が飯能市、左が日高市です。

(写真上)©セントラルロードの西端。標識の背面は「日高市」です。市境は直線的にさらに右へ続きますが、遊歩道はここまで。

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