アメリカのシリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻に端を発した金融不安は、スイスに飛び火し、世界の金融市場に影響を及ぼしています。
アメリカ政府は直ちに「銀行の全預金者を保護する」と異例の発表をすることで、またスイス政府も問題のクレディスイス銀行をUBSに買収させることで、ひとまず「全面的な取り付け騒ぎ」に発展する最悪の事態を回避しました。
しかし、3月26日の日経新聞は、「SVBが事実上の取り付け騒ぎによって破綻して以降、より安全な預け場所を求める動きが富裕層や企業を中心に広がっている。・・・中小銀行から流れ出した預金の受け皿になっているのが、JPモルガン・チェースなどの大手銀行だ」と報じています。
「寄らば大樹」という預金者心理なのでしょう。21世紀の今日になっても、金融システムに脆弱(ぜいじゃく)性があることは驚きですが、金融不安の際の預金者心理は、日本の昭和金融恐慌の時と少しも変わっていないことにも、驚かされます。
参考までに、昭和初期の金融恐慌の実態を、専門論文からの引用によって、振り返ってみたいと思います。
「〔昭和2年〕3月15日に東京渡邊銀行とあかぢ銀行が休業し、金融恐慌が始まる。4月18日に台湾銀行が休業するに及んで金融不安は全国化した。
そして、4月21日に問題の『銀行パニック』が発生する。十五銀行の突然の休業という衝撃から全国に波及した異例の取り付け騒ぎに、各銀行は対応に追われた。日本銀行は全国の銀行を支援するため、有価証券を除くあらゆる資産を担保に取った上、規制を超えて貸出しに応じたものの、肝心の紙幣が不足し、ついには廃棄紙幣を持ち出したり裏白のままの200円券(当時の最高額紙幣)を発行したりする事態にまでなった。・・・
この銀行パニックに対して、政府は、緊急勅令により向こう3週間(4月22日~5月12日)の銀行の支払猶予(モラトリアム)を発令し、その結果、預金者は500円を超える預金の引き出しを規制されることになった。
全国の各銀行は、4月22、23日の2日間いっせいに臨時休業し、週明けの4月25日に業務を再開する。
ところが、この銀行の業務再開によって何が起こったかというと、取り付けの反動としての預金者の『預け替え』であった。いったん各銀行から引き出された預金は必ずしも元の銀行口座に還流したのではなく、普通銀行に限っていえば、『信用ある』財閥系銀行に集中的に預け替えられたのである。・・・
財閥系銀行は、景気の低迷により思うように貸出先を拡大できない状況の中で、預け替えによる預金の一方的増加によって、昭和3年にかけて逆に深刻な資金過剰(運用難)に陥ることになる。」(引用元論文は ⇒こちら)
当時の混乱ぶり(預金者の焦り、各銀行・日本銀行・政府の緊張感)が伝わってきます。
金融不安が募る今、このような事態が繰り返されないことを、強く祈ります。
(写真上)© ニューヨーク連邦準備銀行、正面入り口。(訪米時に撮影。雪が舞っています。)
(写真上)© ニューヨーク連邦準備銀行の建物全景。地下金庫には、日本銀行を含む世界各国の中央銀行が預けた金(金塊)が保管されています。
(写真上)© ニューヨーク連銀のビル壁の銘板。建物は、ニューヨーク市のランドマークに指定された歴史的建造物でもあります。
(写真上)© 日本の古札 一円紙幣は現在も有効のはず。
**********************************************