竹村英明の「あきらめない!」

人生たくさんの失敗をしてきた私ですが、そこから得た教訓は「あせらず、あわてず、あきらめず」でした。

政府の大飯原発再稼働方針への疑問

2012年04月15日 | 原発
 政府は13日四閣僚会議において、焦点となっている大飯原発再稼働を認めることを方針決定し、14日枝野経産大臣が福井県と大飯町を訪問し「理解」を求めるという行動をとりました。枝野経産大臣は、個人的には「再稼働反対」を以前から口にし、原発ゼロでも今夏の電力供給に支障はないとも語っていました。今回の福井県訪問でも、政府の方向性は脱原発依存だと良いながらの再稼働要請という不思議な発言をしています。
 大飯原発再稼働に理も利もないことは、私たちが「eシフト」として出版したブックレット『原発の再稼働をしてはならない4つの理由』の中で、十分に述べている。その4つを簡単に紹介しつつ、枝野発言に見て取れる、いまの政府の中で起こっている機能不全状態について考察してみます。
eシフトブックレット:http://e-shift.org/?p=1605

原発ゼロでも電気は足りる

 原発がすべて停止しても、電力供給に支障がないということは、全発電設備容量を考えればわかることです。日本の現役発電設備の設備容量は2.8億kW。風車などの自然エネルギーはほとんど無いので、瞬間供給力として設備容量分あると考えて良いと思います。日本の最大電力需要は10年以上前の1.8億kW。その後景気が後退し、そんなになることはないので「過大予測」なのですが、それを前提にしても1億kWも余分な設備があるということです。
 原発の全設備容量は4890万kW。1億kWの約半分で、これが全部なくなっても5000万kWもの余分があるのです。設備容量の3000万kWは卸電力事業者で、基本的に常時電力会社に電気を供給しています。そのことを踏まえれば、5000万kW規模の電力会社側の発電設備(石油や天然ガス)が余剰として遊んでいるわけです。
 全国的に電量供給に支障がないことは明らかで、政府の再稼働方針は、関西電力の「あり得ない」電力需要想定をして、他社受電や揚水発電からの電気をほとんど無しとした上で、関西電力のみの「電力不足」を作り上げています。なぜ他社受電が難しいのか説明はありません。中部電力は東京都からの買い付け要請に対し、関西電力に供給する必要があるのでと断ったはずなのですが、政府の供給力資料には入っていません。

安全性はまったく確認されていない

 電力需給の問題がクリアできなくても本来危険なものは動かせません。危険ではないという理由づけが「ストレステスト」ですが、その内容はお粗末なものでした。ブックレットではまさに、大飯3、4号機のストレステストを検証しています。法的根拠無し、合格判定基準無し、やってることは2006年以降に行なわれた耐震バックチェックの繰り返し。つまり活断層の評価も最大地震動も変えないで、安全対策完了という結論を出しているのです。
 大飯原発の真下を通るFO断層群と熊川断層は、つなげると100kmを超える断層となり、マグニチュード8を超える地震を引き起こします。地震動は現在の想定の370ガルをはるかに超える1000ガル以上になります。大飯原発の耐震強度で耐えられるわけもないのに、それを不問に付しています。
 検討しているのは、福島原発で重大事故につながった電源喪失の問題。非常用電源の建物を水密構造にするとか、電源車を用意するとかで安全性が確保できたとしているのですが、配線や配管の問題が全く忘れ去られているのです。電源設備が健全でも配線が切れていたら電気は来ません。建屋まで電気が来ても、建屋内の配線がズタズタになっていたら冷却等のシステムは機能しません。そんなことも想定できていないのがストレステストです。

破綻したまま捨て置かれる原子力規制機関

 原子力発電所の設置許可や定期点検、事故トラブル等の調査と対策などの審査や評価を担当するのが原子力規制機関です。ブックレットは、この機関が原子力発電所の安全確保がまったくできず破綻していたことを例証しています。
 福島原発事故は、設置許可申請の段階から活断層評価や耐震の判断に誤りがあったことが明らかです。その同じ判断で、全原発の設置許可が審査されています。定期点検では原子力安全・保安院の能力のなさが顕著です。検査のごまかしや不正を行われていても、原子力安全・保安院の検査官は全く見抜けませんでした。検査を委託している、原子力安全保安機構の人間も専門家ではなく、東芝や日立などメーカーが作成した報告書の表紙をすげ替えて報告するだけという実体もあります。
 原子力安全委員会のダブルチェックも機能していません。今回の事故でも、商業原発の問題は経産省管轄で、文部科学省管轄の自分たちの仕事ではないという姿勢がありありでした。基本的に原子力推進行政である経産省の判断を追認することしかやってきませんでした。
 この二機関が機能しなかったことが事故原因の一つであると政府も判断したからこそ、二機関を廃止し新たな原子力規制庁という機関をつくることが決まったのです。その機関がスタートしないうちに、破綻している機関が「原発再稼働は妥当」という判断をすることはあってはならないと思います。

「地元」無視で原発再稼働に突き進む政府

 ブックレットでは大飯原発の再稼働を止める最後の力は「地元」であると書いています。大飯原発で事故が発生したときに、福島の大熊、双葉、富岡、楢葉の各町、近隣の浪江町のようになるのは大飯町や小浜市、美浜町や敦賀市です。放射能雲は京都府や滋賀県に流れる可能性が高く、さらに長野県は大阪府などにも流れるでしょう。
 福島原発事故後に「地元」の範囲は広がったのは明らかです。政府も「緊急時防護措置を準備する区域」(UPZ)新たに設けおおむね30キロ圏としています。さらに50キロ圏を「放射性プルーム防護計画地域」(PPA)とし、屋内退避などの防護措置を講じるとしています。立地市町村や立地県が再稼働を認めればそれで良いとは行きません。京都も滋賀も、今や「地元」なのです。
 ブックレットには30キロ圏、50キロ圏の図を載せています。50キロ圏はあえて60キロ圏として載せました。福島原発事故の放射能雲は60キロ圏の福島県中通りまで流れたからです。60キロ圏に広げてみると、原発立地自治体の県庁所在地はすべて、さらに大飯原発については京都市まで含まれます。
 今夏の電力不足に根拠がなく、新たな原子力規制組織もできていないのに、政府は破綻した規制組織の再稼働妥当判断のみを根拠に立地自治体に再稼働の承認を求めています。常識的には認められるものではありませんが、福井県議32人中30人までが再稼働に賛成というのが実態です。日本はまだ原子力依存症という病から脱しきれていません。かつて夢見たような利益も雇用も、もはやもたらす力が原子力にはないことがはっきりしているのに、まだそれにしがみつこうとしているのです。
 本当は反対なのか、それとも推進なのか、ぶれ続ける枝野経産大臣の発言の中にも、この病から内閣も官僚も治癒されていないことがわかります。この国のエネルギーを本当はどのように組み立てて行くのか、そういう真剣な議論さえ阻んできた原子力ムラの後遺症が、ビジョンを立てられない政治家をつくり出しています。そしてビジョンを失い、夢遊病のように同じことを繰り返す官僚に反対もできない。そして電力チーム=原子力ムラは莫大な損失を税金と国民負担(被曝強要と電気料金値上げ)で乗り切ろうとしています。こんな政治が続くわけはないので、今年中にも総選挙になるでしょう。ただそのあとに何が来るか、ただ受け身になっていては再び原子力ムラの天下に戻るかも知れませんよ。


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