竹村英明の「あきらめない!」

人生たくさんの失敗をしてきた私ですが、そこから得た教訓は「あせらず、あわてず、あきらめず」でした。

第7次エネルギー基本計画は総花的で非効率な無駄遣い計画

2025年01月06日 | 地球温暖化

(第7次エネルギー基本計画へのパブコメの参考に)

*『』はパブコメ案から引用した文章または単語。

 

2024年12月27日に第7次エネルギー基本計画*1(案)(以下、「基本計画案」)に対するパブリックコメント(意見募集)(以下、パブコメ)が公示された*2。すでに国民の意見を聞くパブコメの最中だが、全部で82ページに及ぶ「基本計画案」*3は、同一内容の繰り返しが多く、前提条件には不確かさがある。内容の的が絞られていない「総花的」計画で、政策が分散し、具体的な方策も乏しく、地球温暖化対策や脱炭素電源の速やかな拡大を目指すとすれば、効果が期待できないものである。下手をすると多額の国費無駄遣いにもなりかねない、大変残念な政策である。

「基本計画案」には、図表もなく、国民に対して本気で政府の意思を伝えようとしているのかも疑わしい。ほとんどが過去政策の延長線であり、気候危機の深刻化や紛争による地政学的変化、地震・噴火などの自然災害増加などを踏まえた政策変更は見られない。

ただし再生可能エネルギー(以下「再エネ」)については丁寧な解説も増え、目標値も上がっている。温暖化対策としての温室効果ガス削減目標は2040年には73%削減、2050年には100%削減という数字も上がっている。しかしどうやって・・ということについては、実はほとんど書いていない。本気で脱炭素を目指すのか大いに疑問である。

そのような「基本計画案」の問題点を5つのポイントに絞り、見ていきたい。

 

参考資料

*1 経産省資源エネルギー庁エネルギー基本計画について:https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/

*2 第7次エネルギー基本計画(案)に対する意見の募集について
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620224019&Mode=0

*3 第7次エネルギー基本計画(案):https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000285101

 

1.我が国は「すぐに使える資源に乏しく」は正しい認識なのか?

冒頭からしつこく何回も出てくる文章がある。『我が国は、すぐに使える資源に乏しく、国を山と深い海に囲まれているといった地理的制約を抱えている』という一文である。これまでの基本計画でも、「日本は資源小国」という言葉が随所に出てきた。それが『すぐに使える資源に乏しく』という言葉に置き換えられたようだ。

ここでいう資源とは化石燃料やウラン鉱石を指していると思われる。日本には土の中に埋まっている資源は多くはないからだ。しかしいま世界の中心的エネルギーは再エネである。環境省のREPOS(リーポス)*4によれば、再エネの導入ポテンシャルは、現在の技術で事業採算性を持つものだけで、日本の電力需要の2.6倍という。事業採算性の評価で、事業採算性の障害となっているものの中には、系統接続やFIT価格など政策的に対処できるものが多く含まれていて、政策的な対応をすると導入ポテンシャルは6倍にも7倍にもなる。

今回の「基本計画案」は経産省がまとめたのだとすれば、経産省は環境省のまとめたものは無視するのか。環境省も「基本計画案」には関与しているというならば、なぜいつまでも自身のまとめたデータと「異なる認識の拡散」を環境省は放置するのか。少なくとも現状は、日本政府の統一見解がなくバラバラであるということだ。バラバラのままで、正しい基本計画案が作れるとは思えない。

日本は再エネ資源の宝庫だが、資源小国なので、化石燃料やウランなど多様なエネルギーに頼らざるを得ない・・というのはどう見ても論理破綻ではないだろうか。

 

*4 環境省REPOS再生可能エネルギー情報提供システム
https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/index.html

 

図1 環境省による再エネ導入ポテンシャル想定

 

2.福島への取り組みとエネルギーシステム改革は両立できるのか?

「基本計画案」8ページから『Ⅱ.東京電力福島第一原子力発電所事故後の歩み』という項目がある。東日本大震災により4つの原発が爆発しメルトダウンした。その『反省と教訓を肝に銘じて、エネルギー政策を進めていく』のだと書かれている。『「安全神話」に陥って悲惨な事故を防ぐことができなかったという反省を一時たりとも忘れてはならない。』とも書かれている。

しかし39ページの項目『(3)原子力発電、②今後の課題と対応、(エ)既設炉の最大限活用』では、原子力発電所の運転期間について、28行目『利用政策の観点から、原子力事業者から見て他律的な要素により停止していた期間に限り、60年の運転期間のカウントから除外すること』にしたと書かれている。60年以上の運転が認められることを意味するが、『他律的な要素により停止していた期間』であれ金属の劣化は進む。もともと原発の寿命は40年と考えられてきた。40年を超える運転でも、すでに原発は「未知の領域」に突入している。それをさらに60年、そして60年を超えても安全と主張するのは、「安全神話」の復活そのものではないのか。

福島原発事故という未曾有の災害を経験したら、すべての原発は廃止し、エネルギー計画の中には含めないというのが常識的判断である。ところが2016年に「東京電力改革・1F問題委員会(東電委員会)」*5が、東電の再生のために損害賠償の一部を他の電気事業者や消費者に肩代わりさせ、東電負担を軽くして「利益を上げさせ」、それによって損害賠償や事故処理の責任を果たさせようと考えた。それは東電にとってもイバラの道であるだけでなく、電力自由化を迎えた送配電事業や新規参入新電力などに混乱をもたらし、結果的に電気料金を押し上げている。

39ページ12行目には『原子力の再稼働が進展している九州エリアや関西エリアでは、脱炭素電源の比率は高くなり、電気料金は他エリアよりも最大で3割程度安い状況にある。』と書かれているが、これは総括原価方式の独占時代*6に、当時の需要家に払わせた核燃料で発電し、実質燃料代ゼロだから安いよと称しているに過ぎない。再稼働のための安全対策費は、長期脱炭素電源オークションで他の新電力に負担を押し付け、廃炉のための積立費用は託送料金に上乗せ、核廃棄物の再処理・最終処分費用は一部だけを計上し、最終的な費用がわからないから仕方ないとうそぶく。

このようなアンフェアな状態を放置して、真っ当なエネルギーシステム改革が行えるはずがない。

 

*5 東京電力改革・1F問題委員会:https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2017html/1-1-5.html

*6 料金設定の仕組みとは?:https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/fee/stracture/pricing/

 

3.気候変動対策を果たし国際約束を守れるのか

この「基本計画案」は気候変動に対する日本の国際約束を果たすシナリオでもある。

16ページ『V.2040年に向けた政策の方向性』を見てみよう。22行目に問題の『すぐに使える資源に乏しく、国土を山と深い海に囲まれるなどの地理的制約を抱えている』という一文があるページだ。ここに『再生可能エネルギーを主力電源として最大限導入するとともに、特定の電源や燃料源に過度に依存しないようバランスのとれた電源構成を目指していく。』と書かれている。前の文と後の文が分裂していて、一体どっちなんだいと聞きたくなる。

一方で『DXやGXの進展による電力需要増加が見込まれる中、それに見合った脱炭素電源を十分に確保できるかが我が国の経済成長や産業競争力を左右する状況にある。』と認識しているらしい。脱炭素電源が確保できなければ、日本製品は世界で売れないし、海外から企業はやってこない。

それならば本気で脱炭素電源=再エネを最大限普及させることを考え実行するべきだと思うが、『再エネか原子力かという二項対立的な議論ではなく、再エネと原子力などエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用することが必要不可欠である』という、結局「何もしない」論理になる。原子力はこの「基本計画案」でも、2040年も2050年も20%でそれ以上増えない。主力電源とはなり得ないことを自ら認めている。もはや二項対立ではないのだ。

驚いたことに、17ページ6行目では、『2040年時点において再エネ、水素等、CCSなどの脱炭素技術の開発が期待されたほど進展せず、コスト低減等が十分に進まないような事態(リスクケース)も想定していく必要がある。』という一文とともに『経済成長を実現しながら、国民生活をエネルギー制約から守り抜く観点から、諸外国の対応も踏まえつつ、LNGの長期契約の確保など、エネルギー安定供給の確保に万全を期すことが重要である。』と書かれている。つまりは、国民生活のためには気候変動対策も国際約束も守らなくて良いのだとも読める。これでは日本経済は終わってしまうのだが・・。

 

図2 世界主要国の電気に占める再エネ割合

 

4.再生可能エネルギーは普及できるのか

23ページ『V.2040年に向けた政策の方向性』項目の『3.脱炭素電源の拡大と系統整備』を見る。再エネ普及の基本方針がここには書かれているだろうと。

なんとここにも『再生可能エネルギーを主力電源として最大限導入するとともに、特定の電源や燃料源に過度に依存しないようバランスのとれた電源構成を目指していく。』の一文が挿入されている。『これは、現時点で単独の完璧なエネルギー源は存在せず、特定のエネルギー源に過度に依存することはリスクが高まるため』だと解説がついている。そうだろうか?今ある電源で、どのような供給の仕方があるのか、十分なシミュレーションをやったのだろうか。

自然変動電源*7である再エネが、日本の需要を超えるほどに普及した時、非常に厳しい気象条件で電気の供給が完全でなくなるのは365日のうち7日程度のしかも数時間というシミュレーションはすでにある。その数時間を、揚水発電、蓄電池、さらに調整電源としてLNG火力をどの程度用意すれば凌げるのかということだ。そのような議論が、再エネか原子力かという『二項対立的議論』だろうか。

実のところ、片方で脱炭素電源が十分確保できなければ経済成長も産業競争力もないという認識と、再エネは完全なエネルギーでなく普及もできないという認識が、ここでもバッティングしている。あえて具体的な政策を拾うと、『地域と共生した再エネ導入を図る地方自治体条例の策定等を促進』『地方自治体が自家消費・地産地消型の再エネ、蓄電池、ZEB・ZEH、EV等の導入の加速』『避難施設・防災拠点等の公共施設等への再エネ及び蓄電池の導入の積極推進』になるだろうか。ないより良いが、日本全体のエネルギーを賄う規模を考えると小さすぎる。政府には、この程度のことしかできないと思われているのだろう。

その一方で、まだ実用化段階に入っていないペロブスカイト太陽電池については、2040年までに10円〜14円/kWhとし、2030年を待たずGW(100万 kW)級の構築を目指す。2040年には約20GWの導入を目標とすると話が大きい。ちなみに通常の太陽光発電はすでに今70GWの導入が達成されている。ちなみに、荒廃農地で営農型発電を実施するだけであと100GWの発電ができる。農地全部を発電所にすると、1800GW(17.8億kW)で、年間1.8兆kWhの電気を作る。そんな意欲的な政策はどこにも書いてない。

 

*7 自然変動電源(2040年度におけるエネルギー需給の見通し(パブコメ関連資料))34頁目
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000285102

 

5.エネルギーコストを下げることができるのか

この「基本計画案」では基本的にエネルギーコストは下がらない。基本的な論理構成はこうだ。再エネ=脱炭素電源は重要だが、安定供給はできない。だから他の電源も重要でベストミックスだ。原発も20%以上にはできないので、結局LNGや石炭が2050年になっても必要だ。だから、水素、アンモニア、合成メタンに資源投入し脱炭素火力を作り出すのだ・・と。そのために海外で水素を作り、水素タンカーも作って日本に運ぶ。どんなにお金がかかろうとアンモニアや合成メタンはやる・・。結果としてエネルギーコストはウナギ登りだ。

実は原発が最大の系統リスクになる。日本の電気の20%といえど、そのためにはいま未稼働の原発は全て再稼働させないといけない。電気の需要はいつもピークではなく、普段はその半分や5分の1になる。原発はフル稼働をやめることができない硬直した電源だ。春や秋の需要が少ない時期に供給の大半を原発が担っていて、需要が急激に減った時に原発は止められない。石炭も実は急には止められない。それで再エネを抑制して止めるのだが、そもそもそれでは間に合わない時、系統の周波数は上振れし、場合によってはブラックアウトに至る。原発比率が7%程度の今でもそんな状況があるのに、20%は非現実的な数字だ。それなのに「基本計画案」は20%の原発稼働に向けて、運転が可能になるように支援をするのだと書かれている。これもエネルギーコストを上げる要因だ。

実は65ページの『8.エネルギーシステム改革(2)脱炭素と安定供給を実現する持続的な電力システムの構築へ向けた取組』には21行目『脱炭素電源の確保、燃料費の抑制等による国際的に遜色ない価格での電気の供給の重要性も高まっている。』と書かれている。簡単に要約すると、あまりエネルギーコストが高いと日本製品は海外に売れなくなるということだ。

この「基本計画案」もそうだが、ここ数年の日本のエネルギー政策は、全くベクトルの違う話が調整されることもなく、そのまま書き込まれている。結果として、当然矛盾するし、政策推進の効果も弱い。今一度、基本の議論からやり直すか、真摯に国民の意見を聞いて政策変更に舵を切るか、どちらかではないだろうか。

 

 



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