竹村の仕事はいくつかあります。小売電気事業のグリーンピープルズパワー、再エネ発電事業のイージーパワー、再エネ発電事業者ネットワークの市民電力連絡会。最近はボリュームを減らしていますが原子力市民委員会、パワーシフトキャンペーンなどなど。ほとんどの人が知っているこれらのほかに、実は深く静かに進行している仕事もあります。その一つが「チームパブコメ」です。
ここでは、2011年の原発事故によって破綻したはずの東電の経営状態を追っています。東電は3.11の福島原発事故により、同年7月の社債償還原資がなくなり破綻する運命でした。破綻が明らかな東電に、社債償還の資金を貸す金融機関などないからです。しかし、政府が金融機関を説得し、約2兆円の協調融資を行わせ、その後に「原子力損害賠償支援機構法」が作られ、政府が実質的に親会社となることで東電は存続しました。
しかし、電力自由化という競争環境の中、山のような負債を抱えた東電の経営は簡単ではありません。常識的には成り立たないはずですが、まだ東電は存続しています。このカラクリはどうなっているのでしょう。明確な計算に基づいているのか、行き当たりばったりなのか・・そんなことを「チームパブコメ」は追いかけています。
「チームパブコメ」で調査検討した内容は一度、国会質問として政府にぶつけ答弁を得ます。事実関係の確かさを確認するため、また「真」事実を確認するためでもあります。これから書くことは、そのような国会活動によって明らかになったことに基づいています。したがって、国会質問を行う国会議員の存在が、「チームパブコメ」には不可欠です。その中でも、もっとも大切な存在が、衆議院神奈川第5区(横浜市戸塚区、泉区)の衆議院議員山﨑誠さんです。このブログを発信する頃には、第50回衆議院選挙を闘っている前衆議院議員山﨑誠さんということになります。
山﨑誠さん公式ページ
https://yamazakimakoto.jp
「チームパブコメ」の活動を継続していくためにも、山﨑誠さんには選挙を勝ち抜いてほしいと思います。その思いも込めて、このブログをしたためました。
ゾンビ化する日本の原子力
事実上破綻状態の東電は、2011年以降も存続することになりました。しかし予想される多額の損害賠償に加え、崩壊した原発の事故処理費用、周辺の除染費用、汚染された廃棄物の処理費用など、東電の負担額は莫大なものになります。この莫大な費用を政府はおよそ22兆円と見積もりました。確定ではなく暫定的な集計にすぎませんが。
内訳は事故処理費用8兆円、損害賠償費用7.9兆円、除染4兆円、汚染度などの中間貯蔵1.6兆円で合計21.5兆円です。ちなみにこれは2017年段階の数字で、2013年には合計10.5兆円でしたので倍増しています。2024年には損害賠償費用が1.9兆円超過し、総額は23.4兆円となっています。今後も増えていくと思われます。
政府は東電が被害者への賠償ができなくならないようにとの名目で、政府が賠償金額を東電に支給し、後から返済をさせるという仕組みをつくりました。これが「原子力損害賠償支援機構」と呼ばれるものです。
図1 損害賠償のお金の流れ
「原子力損害賠償支援機構」は、政府から国債を交付され、これを担保に金融機関から融資を受け、そのお金を東電に交付します。貸付ではなくて交付です。貸付けると負債となり、東電決算が大赤字となるためです。ただし返済は必要ですから、これを特別負担金と一括負担金という名目で返済させる制度にしました。このときに、一括負担金は東電以外の大手電力8社(原発を保有している会社)も「負担」する仕組みにしました。
こちらは返済とは言えないので、「将来同じような事故が起きた時に、皆さんも同じように賠償金を交付してもらえる」、つまり万が一の時の「保険料」ということにしたのです。福島原発事故を受けて、原子力損害保険は保険会社が引き受けを停止しています。原子力発電を保有して、運転を続けようとしていた大手電力8社にとっては、これが新たな保険制度となったのです。
さらにおまけで、政府は電力自由化によって誕生した新電力にもこの一部を負担させることにしました。損害賠償の一部0.24兆円は、本来は事故に備えて積み立てておくべきだったが、それを忘れていたので今から徴収すると。これを「過去分」と呼んでいます。その頃に電気を使った需要家は、今は電力自由化により、新電力顧客になっていたりするので、取りっぱぐれのないように、託送料金に乗せて新電力からも徴収すると。託送とは送配電のことですから、発電側の原発関係の費用がここに入るのはおかしいのです。それを政府は「例外」と言いながら強行し、その後も次々と「原子力コスト」を託送料金に乗せ続けています。
東電は電力自由化により、東電フュエル&パワー(発電の会社)、東電パワーグリッド(送配電の会社)、東電エナジーパートナー(小売会社)の三つに分かれましたが、東電ホールディングス(以下「ホールディングス」)という持ち株会社が存在し、黒字である東電パワーグリッドの利益は、ホールディングスに吸い上げられ、原子力損害賠償支援機構への特別負担金と一般負担金として「返済」に回されています。東電パワーグリッドの収入はほぼ全て託送料金収入であり、これはそもそも新電力、ひいてはその消費者たちが損害賠償を支払っていることになります。
これは、生き残ってゾンビ化した東電が東電以外の電力消費者の血まで吸い取るというおぞましい構図ではないでしょうか。東電がつぶれていれば、少なくとも電気料金にこんな金額が上乗せされることはなかったはずです。
写真:事故直後の福島第一原発
そして事故処理費用まで新電力に
こうして損害賠償については、ほとんど他人の褌(ふんどし)で肩代わりしてもらえる制度を獲得した東電ですが、事故処理の費用は自己負担でした。そこで、東電はこのままでは潰れると政府に泣きつきました。いや、泣きついたというよりも「潰れるぞ!」と政府を脅したというのが正解かもしれません。
政府は原子力損害賠償支援機構を2014年に「原子力損害賠償・廃炉支援機構」と改名します。「廃炉」というのは福島原発の事故処理のことです。物理化学の常識として、メルトダウンした原発の溶融核燃料に、10年も経たずに人間がアクセスできるわけありません。猛烈な放射能の塊ですから。その溶融核燃料デブリの取り出しとか、流れ込む地下水を止める「凍土壁」とか、結局今に至ってもできていないことに莫大なお金を注ぎ込んでいます。
これらは「やったふり」で、福島県はじめ被害の当事者に向けて、何かをしているというポーズを示しているに過ぎません。逆に大きなタンクを作れば解決できたはずの、汚染水は「お金をかけず」海に流すことを選択しました。
「原子力損害賠償・廃炉支援機構」(以下「機構」)の誕生によって、東電は8兆円の事故処理費用まで託送料金で負担してもらえるようになりました。託送料金原価に「廃炉等負担金」が組み込まれたからです。これは今のところ東電だけで、他の大手電力8社には課せられていませんが、政府はどこかで全送配電会社の共同負担にしようと目論んでいるに違いありません。
「廃炉負担金」を託送料金原価に組み込むことで、仮に東電の小売会社東電エナジーパートナーが倒産して消えても、事故処理費用は東電パワーグリッドの送電網を使っている全消費者から徴収できるという仕組みになりました。ゾンビはさらに大きく、悪質になったのです。
図2 廃炉(事故処理)のお金の流れ
東京電力改革・1F 問題委員会の誤算
このようなとんでもないシナリオを書いたのは2016年の「東京電力改革・1F 問題委員会」(以 下「東電委員会」) です。この委員会は東電に、原発事故の責任をしっかり取りながら、同時に新たな経営努力によって収支を回復し、世界をリードするような「立派な企業」になることを求めました。それが「新々・総合特別事業計画」です。一言でいうと、経営利益をすり減らしてでも損害賠償などの責任をしっかり果たし、なおかつ経営利益を最大化するような経営努力するということです。
初めから論理破綻していますが、これを同時にやれというのが「東電委員会」の取りまとめです。普通でもできないと思われますが、そこに「電力自由化」という壁がさらに立ち塞がりました。東電は損害賠償の「特別負担金」「一般負担金」そして「廃炉積立金」という二重、三重の重荷を背負って競争に勝ち抜かないといけないのです。そこで政府は、東電が競争に負けないように「電力自由化」を歪めることを考えたのではないでしょうか?
新電力への損害賠償過去分の押し付けは明らかに、競争相手の新電力の負担を増していますし、事故処理の「廃炉負担金」や損害賠償の「特別負担金」の託送料金組み込みは、東電エリア内で東電エナジーパートナーの競争力を高めています。本来なら、これらのお金はすべて、東電の小売会社である東電エナジーパートナーのみが負担するべきお金です。
さらに容量市場というものが作られ、新電力には押し並べて容量拠出金という負担が新たに発生しました。東電を含む大手電力は傘下の発電会社が「容量確保契約金」というお金をもらうため、この負担が相殺されます。再エネの送配電網への優先接続権を諸外国のように与えないのも、大手電力の発電所をやんわりと保護しているように思えます。
東電委員会の思惑では東電だけを優遇したいのでしょうが、制度としては他の大手電力も優遇することになりました。「おそらく」結果的に、他の大手電力には棚ぼたの利益が入ったのではないかとも思います。大手電力がメリットを価格に反映すると、東電よりずいぶん安い電気の販売単価となり、大手電力間競争で東電を駆逐してしまいます。それでは困るということで、あえて同程度に維持するので、結果的に利益が増えるということです。
以上は私の推測であり、これを証明するような明確な証拠はありません。巧妙に隠されているのかもしれませんし、私の思い過ごしかもしれません。ただ、こうまでして黒字化を維持しようとした東電の決算が2022年に赤字になったのです。
東電は本当に経営できているのか
東電はそもそも自前のお金で損害賠償や事故処理を行なっていません。託送料金というマジックを使って、東電エリアの新電力を含む全てのユーザーから、この資金をかき集めています。損害賠償はというと、一般負担金あるいは損害賠償「過去分」という形で、広く全国の消費者から資金を集めています。
どこにも明記されていませんが、これは東電の負担を軽減し、東電が再び世界に冠たる電力会社になるために政府が作った道です。東電は、この道を淡々と進めば、東電委員会の思惑通り再び経団連も政界も動かすような会社になるはずだったのです。しかし、赤字になりました。
チームパブコメは、この赤字の原因を探りました。もちろん、もともと黒字なんかではなく、莫大な負債を抱えているのですが、それは「交付金」という形で決算上は収入に計上されているために見えなくなっています。2022年は、それでも決算上の赤字になったということです。
見えてきた原因は、日本原電に1400億円という資金供与をしたことです。日本原電とは原発しか持たない国策会社で、福井県の敦賀市と茨城県の東海村に発電所を所有しています。しかし、2011年の震災後に停止して以降、一度も動いたことはありません、敦賀の方は発電所直下に活断層があることが判明し、原子力規制委員会が運転開始の許可を出せないと判断しました。東海村の方は、安全対策工事として実施した堤防の工事で、基礎工事の欠陥が判明し、これも原子力規制委員会が工事のやり直しを求めています。
そもそも10年以上、1kWhの電気も売っていない会社に、安全対策工事をやる資金があるわけもなく、この堤防工事は東北電力の債務保証による借入と、東京電力からの「ある資金」によって実施されていました。「ある資金」とは、東電による基本料金の前払いです。東電と日本原電とは、原子力PPA契約を結んでいて、これは一定の電気を東電が買い取るという契約です。その電気料金には基本料金と電力量料金があります。動いていないので電力量料金は発生しませんが、基本料金は毎年、律儀に支払っています。したがって、今年の基本料金まではすでに支払い済みですが、来年、再来年の基本料金はまだです。これを何年分か前払いするという名目で、東電は日本原電にお金を渡したのです。
その結果、赤字決算となり、なんと翌年2023年の特別負担金はゼロとなりました。損害賠償の「責任」は果たさず、今後も発電する可能性は極めて低い日本原電にお金を回したのです。しかも基本料金の前払いという、アクロバットのような方法で。この経緯は、まさに山﨑誠さんの質問主意書によって明らかになりました。
成り立たないものは強引にやっても成り立たない
調べていくと、同じような構図がありました。青森県六ヶ所村の再処理工場を運転する日本原燃です。日本原電とまぎらわしい名前ですが、こちらは原子力発電、日本原燃は原子燃料です。再処理工場は、原発で核分裂を終えたウラン燃料(以下「使用済み核燃料」という)を、硝酸溶液で溶かし、燃え残りのウラン(劣化ウラン)とプルトニウムを分離して取り出すところです。しかし1993年の着工から30年以上経った今も、この工場は完成していません。運転開始の延長は、今年で27回目です。
製品が作られないのだから収入もあるわけありません。しかし、この日本原燃に対しても東電は再処理費用を払い続けています。探せばまだまだ類似のものが出てくるのかもしれません。数兆円を注ぎ込んで、結局何の役にも立たなかった高速増殖炉「もんじゅ」をはじめ、現状で19兆円がつぎ込まれた再処理工場、原子力の「核燃料サイクル」にまつわる設備は概ね不良債権です。
どれもこれもすでにゾンビ化していて、それでも「核燃料サイクル」をやめない限り、使用済み核燃料「中間貯蔵施設」、「MOX用核燃料加工施設」「MOX燃料の使用済み核燃料再処理施設」・・とゾンビは増え続けます。スパッとやめてしまえば、少なくとも損失はここで止められるのですが、やめずにずるずると引きずっているがために損失がどんどん拡大しています。これらの損失の一部はすでに、大手電力の送配電会社が徴収する「託送料金」の中に含められ、「廃炉円滑化負担金」などとして広く全消費者から徴収されています。
今は、託送料金に含まれる費用は少額ですが、ゾンビが肥大化していくことで、金額も増えていき、消費者負担も増大していくことが容易に想像できます。東電の決算も2023年度は黒字に戻りましたが、こんなことを続けていれば長続きするとも思えません。
成り立たないものはきちんと終わらせていくこと。それを無理矢理な方法で維持しようとしたり、勝手なルール改正で国民(電力消費者)負担としてみても、成り立つことはないのです。すでに日本の電気料金は諸外国に比べて安くはありません。消費者負担の意味は電気料金を上げて、日本の産業界の競争力を奪うことも意味します。ゾンビが拡大して、ついに日本の産業界まで食い荒らす。そんな時代を迎えないように、この問題に関心を持ち、声を広げ、食い止めたいと努力する人たちが増えていくことを願いたいと思います。
以下は参考です。
第1弾 「経理的基礎」の審査基準と適合性審査に関する質問主意書
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/213133.htm
答弁受理
第2弾 日本原子力発電株式会社の原子炉設置許可変更申請における資金調達に関する質問主意書
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/213171.htm
答弁受理
第3弾 原子力損害賠償・廃炉等支援機構の業務運営に関する命令における経理的基礎の毀損に関する質問主意書
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/214054.htm
答弁に至らず→ 衆院選挙後再提出が必要!
ここでは、2011年の原発事故によって破綻したはずの東電の経営状態を追っています。東電は3.11の福島原発事故により、同年7月の社債償還原資がなくなり破綻する運命でした。破綻が明らかな東電に、社債償還の資金を貸す金融機関などないからです。しかし、政府が金融機関を説得し、約2兆円の協調融資を行わせ、その後に「原子力損害賠償支援機構法」が作られ、政府が実質的に親会社となることで東電は存続しました。
しかし、電力自由化という競争環境の中、山のような負債を抱えた東電の経営は簡単ではありません。常識的には成り立たないはずですが、まだ東電は存続しています。このカラクリはどうなっているのでしょう。明確な計算に基づいているのか、行き当たりばったりなのか・・そんなことを「チームパブコメ」は追いかけています。
「チームパブコメ」で調査検討した内容は一度、国会質問として政府にぶつけ答弁を得ます。事実関係の確かさを確認するため、また「真」事実を確認するためでもあります。これから書くことは、そのような国会活動によって明らかになったことに基づいています。したがって、国会質問を行う国会議員の存在が、「チームパブコメ」には不可欠です。その中でも、もっとも大切な存在が、衆議院神奈川第5区(横浜市戸塚区、泉区)の衆議院議員山﨑誠さんです。このブログを発信する頃には、第50回衆議院選挙を闘っている前衆議院議員山﨑誠さんということになります。
山﨑誠さん公式ページ
https://yamazakimakoto.jp
「チームパブコメ」の活動を継続していくためにも、山﨑誠さんには選挙を勝ち抜いてほしいと思います。その思いも込めて、このブログをしたためました。
ゾンビ化する日本の原子力
事実上破綻状態の東電は、2011年以降も存続することになりました。しかし予想される多額の損害賠償に加え、崩壊した原発の事故処理費用、周辺の除染費用、汚染された廃棄物の処理費用など、東電の負担額は莫大なものになります。この莫大な費用を政府はおよそ22兆円と見積もりました。確定ではなく暫定的な集計にすぎませんが。
内訳は事故処理費用8兆円、損害賠償費用7.9兆円、除染4兆円、汚染度などの中間貯蔵1.6兆円で合計21.5兆円です。ちなみにこれは2017年段階の数字で、2013年には合計10.5兆円でしたので倍増しています。2024年には損害賠償費用が1.9兆円超過し、総額は23.4兆円となっています。今後も増えていくと思われます。
政府は東電が被害者への賠償ができなくならないようにとの名目で、政府が賠償金額を東電に支給し、後から返済をさせるという仕組みをつくりました。これが「原子力損害賠償支援機構」と呼ばれるものです。
図1 損害賠償のお金の流れ
「原子力損害賠償支援機構」は、政府から国債を交付され、これを担保に金融機関から融資を受け、そのお金を東電に交付します。貸付ではなくて交付です。貸付けると負債となり、東電決算が大赤字となるためです。ただし返済は必要ですから、これを特別負担金と一括負担金という名目で返済させる制度にしました。このときに、一括負担金は東電以外の大手電力8社(原発を保有している会社)も「負担」する仕組みにしました。
こちらは返済とは言えないので、「将来同じような事故が起きた時に、皆さんも同じように賠償金を交付してもらえる」、つまり万が一の時の「保険料」ということにしたのです。福島原発事故を受けて、原子力損害保険は保険会社が引き受けを停止しています。原子力発電を保有して、運転を続けようとしていた大手電力8社にとっては、これが新たな保険制度となったのです。
さらにおまけで、政府は電力自由化によって誕生した新電力にもこの一部を負担させることにしました。損害賠償の一部0.24兆円は、本来は事故に備えて積み立てておくべきだったが、それを忘れていたので今から徴収すると。これを「過去分」と呼んでいます。その頃に電気を使った需要家は、今は電力自由化により、新電力顧客になっていたりするので、取りっぱぐれのないように、託送料金に乗せて新電力からも徴収すると。託送とは送配電のことですから、発電側の原発関係の費用がここに入るのはおかしいのです。それを政府は「例外」と言いながら強行し、その後も次々と「原子力コスト」を託送料金に乗せ続けています。
東電は電力自由化により、東電フュエル&パワー(発電の会社)、東電パワーグリッド(送配電の会社)、東電エナジーパートナー(小売会社)の三つに分かれましたが、東電ホールディングス(以下「ホールディングス」)という持ち株会社が存在し、黒字である東電パワーグリッドの利益は、ホールディングスに吸い上げられ、原子力損害賠償支援機構への特別負担金と一般負担金として「返済」に回されています。東電パワーグリッドの収入はほぼ全て託送料金収入であり、これはそもそも新電力、ひいてはその消費者たちが損害賠償を支払っていることになります。
これは、生き残ってゾンビ化した東電が東電以外の電力消費者の血まで吸い取るというおぞましい構図ではないでしょうか。東電がつぶれていれば、少なくとも電気料金にこんな金額が上乗せされることはなかったはずです。
写真:事故直後の福島第一原発
そして事故処理費用まで新電力に
こうして損害賠償については、ほとんど他人の褌(ふんどし)で肩代わりしてもらえる制度を獲得した東電ですが、事故処理の費用は自己負担でした。そこで、東電はこのままでは潰れると政府に泣きつきました。いや、泣きついたというよりも「潰れるぞ!」と政府を脅したというのが正解かもしれません。
政府は原子力損害賠償支援機構を2014年に「原子力損害賠償・廃炉支援機構」と改名します。「廃炉」というのは福島原発の事故処理のことです。物理化学の常識として、メルトダウンした原発の溶融核燃料に、10年も経たずに人間がアクセスできるわけありません。猛烈な放射能の塊ですから。その溶融核燃料デブリの取り出しとか、流れ込む地下水を止める「凍土壁」とか、結局今に至ってもできていないことに莫大なお金を注ぎ込んでいます。
これらは「やったふり」で、福島県はじめ被害の当事者に向けて、何かをしているというポーズを示しているに過ぎません。逆に大きなタンクを作れば解決できたはずの、汚染水は「お金をかけず」海に流すことを選択しました。
「原子力損害賠償・廃炉支援機構」(以下「機構」)の誕生によって、東電は8兆円の事故処理費用まで託送料金で負担してもらえるようになりました。託送料金原価に「廃炉等負担金」が組み込まれたからです。これは今のところ東電だけで、他の大手電力8社には課せられていませんが、政府はどこかで全送配電会社の共同負担にしようと目論んでいるに違いありません。
「廃炉負担金」を託送料金原価に組み込むことで、仮に東電の小売会社東電エナジーパートナーが倒産して消えても、事故処理費用は東電パワーグリッドの送電網を使っている全消費者から徴収できるという仕組みになりました。ゾンビはさらに大きく、悪質になったのです。
図2 廃炉(事故処理)のお金の流れ
東京電力改革・1F 問題委員会の誤算
このようなとんでもないシナリオを書いたのは2016年の「東京電力改革・1F 問題委員会」(以 下「東電委員会」) です。この委員会は東電に、原発事故の責任をしっかり取りながら、同時に新たな経営努力によって収支を回復し、世界をリードするような「立派な企業」になることを求めました。それが「新々・総合特別事業計画」です。一言でいうと、経営利益をすり減らしてでも損害賠償などの責任をしっかり果たし、なおかつ経営利益を最大化するような経営努力するということです。
初めから論理破綻していますが、これを同時にやれというのが「東電委員会」の取りまとめです。普通でもできないと思われますが、そこに「電力自由化」という壁がさらに立ち塞がりました。東電は損害賠償の「特別負担金」「一般負担金」そして「廃炉積立金」という二重、三重の重荷を背負って競争に勝ち抜かないといけないのです。そこで政府は、東電が競争に負けないように「電力自由化」を歪めることを考えたのではないでしょうか?
新電力への損害賠償過去分の押し付けは明らかに、競争相手の新電力の負担を増していますし、事故処理の「廃炉負担金」や損害賠償の「特別負担金」の託送料金組み込みは、東電エリア内で東電エナジーパートナーの競争力を高めています。本来なら、これらのお金はすべて、東電の小売会社である東電エナジーパートナーのみが負担するべきお金です。
さらに容量市場というものが作られ、新電力には押し並べて容量拠出金という負担が新たに発生しました。東電を含む大手電力は傘下の発電会社が「容量確保契約金」というお金をもらうため、この負担が相殺されます。再エネの送配電網への優先接続権を諸外国のように与えないのも、大手電力の発電所をやんわりと保護しているように思えます。
東電委員会の思惑では東電だけを優遇したいのでしょうが、制度としては他の大手電力も優遇することになりました。「おそらく」結果的に、他の大手電力には棚ぼたの利益が入ったのではないかとも思います。大手電力がメリットを価格に反映すると、東電よりずいぶん安い電気の販売単価となり、大手電力間競争で東電を駆逐してしまいます。それでは困るということで、あえて同程度に維持するので、結果的に利益が増えるということです。
以上は私の推測であり、これを証明するような明確な証拠はありません。巧妙に隠されているのかもしれませんし、私の思い過ごしかもしれません。ただ、こうまでして黒字化を維持しようとした東電の決算が2022年に赤字になったのです。
東電は本当に経営できているのか
東電はそもそも自前のお金で損害賠償や事故処理を行なっていません。託送料金というマジックを使って、東電エリアの新電力を含む全てのユーザーから、この資金をかき集めています。損害賠償はというと、一般負担金あるいは損害賠償「過去分」という形で、広く全国の消費者から資金を集めています。
どこにも明記されていませんが、これは東電の負担を軽減し、東電が再び世界に冠たる電力会社になるために政府が作った道です。東電は、この道を淡々と進めば、東電委員会の思惑通り再び経団連も政界も動かすような会社になるはずだったのです。しかし、赤字になりました。
チームパブコメは、この赤字の原因を探りました。もちろん、もともと黒字なんかではなく、莫大な負債を抱えているのですが、それは「交付金」という形で決算上は収入に計上されているために見えなくなっています。2022年は、それでも決算上の赤字になったということです。
見えてきた原因は、日本原電に1400億円という資金供与をしたことです。日本原電とは原発しか持たない国策会社で、福井県の敦賀市と茨城県の東海村に発電所を所有しています。しかし、2011年の震災後に停止して以降、一度も動いたことはありません、敦賀の方は発電所直下に活断層があることが判明し、原子力規制委員会が運転開始の許可を出せないと判断しました。東海村の方は、安全対策工事として実施した堤防の工事で、基礎工事の欠陥が判明し、これも原子力規制委員会が工事のやり直しを求めています。
そもそも10年以上、1kWhの電気も売っていない会社に、安全対策工事をやる資金があるわけもなく、この堤防工事は東北電力の債務保証による借入と、東京電力からの「ある資金」によって実施されていました。「ある資金」とは、東電による基本料金の前払いです。東電と日本原電とは、原子力PPA契約を結んでいて、これは一定の電気を東電が買い取るという契約です。その電気料金には基本料金と電力量料金があります。動いていないので電力量料金は発生しませんが、基本料金は毎年、律儀に支払っています。したがって、今年の基本料金まではすでに支払い済みですが、来年、再来年の基本料金はまだです。これを何年分か前払いするという名目で、東電は日本原電にお金を渡したのです。
その結果、赤字決算となり、なんと翌年2023年の特別負担金はゼロとなりました。損害賠償の「責任」は果たさず、今後も発電する可能性は極めて低い日本原電にお金を回したのです。しかも基本料金の前払いという、アクロバットのような方法で。この経緯は、まさに山﨑誠さんの質問主意書によって明らかになりました。
成り立たないものは強引にやっても成り立たない
調べていくと、同じような構図がありました。青森県六ヶ所村の再処理工場を運転する日本原燃です。日本原電とまぎらわしい名前ですが、こちらは原子力発電、日本原燃は原子燃料です。再処理工場は、原発で核分裂を終えたウラン燃料(以下「使用済み核燃料」という)を、硝酸溶液で溶かし、燃え残りのウラン(劣化ウラン)とプルトニウムを分離して取り出すところです。しかし1993年の着工から30年以上経った今も、この工場は完成していません。運転開始の延長は、今年で27回目です。
製品が作られないのだから収入もあるわけありません。しかし、この日本原燃に対しても東電は再処理費用を払い続けています。探せばまだまだ類似のものが出てくるのかもしれません。数兆円を注ぎ込んで、結局何の役にも立たなかった高速増殖炉「もんじゅ」をはじめ、現状で19兆円がつぎ込まれた再処理工場、原子力の「核燃料サイクル」にまつわる設備は概ね不良債権です。
どれもこれもすでにゾンビ化していて、それでも「核燃料サイクル」をやめない限り、使用済み核燃料「中間貯蔵施設」、「MOX用核燃料加工施設」「MOX燃料の使用済み核燃料再処理施設」・・とゾンビは増え続けます。スパッとやめてしまえば、少なくとも損失はここで止められるのですが、やめずにずるずると引きずっているがために損失がどんどん拡大しています。これらの損失の一部はすでに、大手電力の送配電会社が徴収する「託送料金」の中に含められ、「廃炉円滑化負担金」などとして広く全消費者から徴収されています。
今は、託送料金に含まれる費用は少額ですが、ゾンビが肥大化していくことで、金額も増えていき、消費者負担も増大していくことが容易に想像できます。東電の決算も2023年度は黒字に戻りましたが、こんなことを続けていれば長続きするとも思えません。
成り立たないものはきちんと終わらせていくこと。それを無理矢理な方法で維持しようとしたり、勝手なルール改正で国民(電力消費者)負担としてみても、成り立つことはないのです。すでに日本の電気料金は諸外国に比べて安くはありません。消費者負担の意味は電気料金を上げて、日本の産業界の競争力を奪うことも意味します。ゾンビが拡大して、ついに日本の産業界まで食い荒らす。そんな時代を迎えないように、この問題に関心を持ち、声を広げ、食い止めたいと努力する人たちが増えていくことを願いたいと思います。
以下は参考です。
第1弾 「経理的基礎」の審査基準と適合性審査に関する質問主意書
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/213133.htm
答弁受理
第2弾 日本原子力発電株式会社の原子炉設置許可変更申請における資金調達に関する質問主意書
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/213171.htm
答弁受理
第3弾 原子力損害賠償・廃炉等支援機構の業務運営に関する命令における経理的基礎の毀損に関する質問主意書
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/214054.htm
答弁に至らず→ 衆院選挙後再提出が必要!
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