日本中を放射能で汚染することになった福島第一原発事故を経験し、日本政府も原子力規制の方法に問題があったことを認めることになった。当時の菅内閣は原子力推進政のエネルギー政策を白紙から見直し、原子力安全委員会と原子力安全・保安院を廃止し、あらたな原子力規制機関を立ち上げると発表した。
しかしそれから1年、エネルギー基本計画も原子力規制もなにやら怪しい。菅内閣から野田内閣に政権は移行し、同じ民主党ではあるが大飯原発再稼働をなし崩し的に認め、「原発ゼロシナリオ」を大多数の国民が選んだエネルギー基本計画では、原発ゼロだが核燃料再処理を進めるという矛盾する政策を示し、原発ゼロ方針の閣議決定もせず、大間原発の建設再開を認めた。
そして原子力規制委員会人事では、原子力ムラの中枢にいた田中俊一氏を委員長に、原子力事業者そのものである更田、中村両氏を委員に据える人事を強行した。本来は国会同意人事だが、それをやれば民主党が分裂するからか、あえて「非常時の」国会終了後に総理が任命する方法を取った。したがって、現規制委員会はまだ正式な委員会とは言えない。
その委員会が、この9月末からはじまった。公開された第2回委員会、第3回委員会を傍聴する機会を得たので、少しその印象を書いておきたい。
なぜ霞ヶ関を離れ六本木なのか
原子力規制委員会は、霞ヶ関を離れ六本木の民間ビルの中に設置された。総理官邸とは離れ、関連省庁とも遠い。原子力安全・保安院時代には緊急時に現地とテレビ電話で会議するシステムも保有していたが、それも置いて来ている。今このときには緊急事態となる事故は起きないとでも言うのだろうか?
ビルの管理人は民間である。そのために入場でのチェックにいろいろな条件がつけられた。荷物検査はやらないが、入場時に身分証明書を示せという。しかも顔写真つきの。省庁の職員やマスコミ記者の場合は、今はみんなこういう身分証明書を持たされているのだろう。だれも疑問視しなかったが、運転免許証も持たない人には傍聴すら認めないということになる。いったいどう言うことかと、大もめになった。こんなつまらないことでもめたりするのは意味のないことだ。「赤旗」記者だけは記者会見に参加させない(今は解除)というのもあり、どうも事務局が低レベルのようだ。
中立的な田中俊一委員長の印象
原子力委員長代理という経歴のため、人事問題でもめ、結局国会での同意を得ないまま初代委員長に就任した。福島県内の放射能汚染地帯の除染をする(できる)のだという強い主張で知られている。福島県内の高汚染地域の被爆線量の基準を1ミリシーベルトから20ミリシーベルトに引き上げた当事者でもある。
福島第一原発事故までは世界共通で1ミリシーベルトだった基準が福島市や飯舘村など、本来は避難すべきところで20倍に引き上げられ、そのために済み続けることを余儀なくされ、たくさんの人とくに子供たちが被曝した。その結果は、これからしだいにあらわになって行くはずだが、その責任を問われるべき人である。
ただし、これまでの2回の委員会を傍聴した限りでは、強引な誘導になるような議事進行や、明らかに原子力ムラ寄りという言動はない。きわめて中立的なスタンスをとっているという印象だ。20ミリシーベルト問題にはまったく言及しないので、市民側からは「20ミリシーベルトを撤回せよ!」というヤジが激しいが、意に解さず淡々と議事を進める。それによって、市民のヤジの方がうるさく、傍聴のマスコミや一般参加者からは市民が「眉をひそめられる」という状態になっている。作戦であるとすればたいしたやり手だ。
更田豊志委員と中村佳代子委員の印象
原子炉の技術基準の見直し策定にあたるのは更田委員らしい。この原子力規制委員会設置法の国会審議の段階で、重要なポイントの一つが「バックフィット」の適用だった。現在の科学的知見に基づいて新しい技術基準をつくり、古い原発もすべて、この新基準への適合を求めるという考え方だ。
まだ、この新基準は片鱗すらも見えて来ていない。まず行なわれているのが原子力災害対策指針の見直しだ。こちらは中村委員の担当だ。第2回会議では基本的な方針が示され、「被災者の視点、災害時に情報の混乱がないようにすること、アップツーデイトの情報を盛り込むという3点を心がけた。」との説明があった。しかし第3回会議では、それぞれのポイントで何に留意するのかという説明もなく、さっさとたたき台文章案がでて来た。
これに対して島崎委員から、事故は複数シナリオで進展するのに、出された指針は「また」一つのシナリオしか想定されていないように見えるという指摘まで出されたほどだ。
中村委員の仕事は、いわば事務局側にお任せ的、文章が淡々とつくられ規制事実を積上げられてしまうような危惧を感じる。それに比べると更田委員はそうとうに新基準にこだわりを持っているようにも感じる。そのこだわりが上記のバックフィットを想定し、既存原発の運転をすべてストップするような性質のものであれば良いのだが。どうもEALとOILの用語のみを連発する第2回会議の発言の仕方を見ると、国民に分かりやすい仕組みをつくろうとしているふうには見えない。
注)EALとOILとはEmergency Action Level(緊急時活動レベル)とOIL(運用上の介入レベル)。EALは施設の異常状態に応じて、緊急事態の区分を国が予め決定し、その区分に照らし合わせて、事業者が緊急時の活動(避難等防護措置を準備する活動、PAZ内の人を防護する活動=即時避難など)を決定するために予め決められた判断基準。OILは放射性物質の環境放出後に、環境モニタリング等の結果を踏まえ、屋内退避、避難、安定ヨウ素剤の予防服用等の措置を行なうための判断基準。
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/gat/20120507_siryou3.pdf
島崎邦彦委員に感じる解決への可能性
第2回委員会では、島崎委員から大飯原発の破砕帯について、実際に視察し断層であるか否かの判断をしたいとの発言があった。そのさいには、専門家を同行させたいということで、いくつかの学会に人選を依頼しているということだった。その専門家は、過去に原子力の安全審査等に関わったことのない人に限定するという説明も。
島崎委員は破砕帯の図を白板に貼り、配布資料の中にも図が入っており、委員間で破砕帯についての共通理解を得ようとする努力をしていた。これに対し、事務局はプロジェクターも用意せず、細部にわたる理解を全くする気がないかのような態度に見えた。
傍聴者にとっても、プロジェクターでの投影があれば、より理解が深まるだろうし、何よりマスコミの記者にとっては助かる話だと思う。そういう要求がマスコミから出ないのだろうか。市民側からの会場ヤジではそのような発言が多く、もしかすると同じ主張をすることが市民側に同調していると事務局側にとられかねないとの心理が働いているのかもしれない。
第3回委員会では、この現地視察の話が具体的に示されるだろうと思っていたのに、まったく議題とならなかった。その代わり「外部有識者から意見を聞くに当たっての透明性・中立性確保に関する考え方」なる文書が出され、確認された。そこには島崎委員が指摘していたような「原子力の安全審査にたずさわったものは除外」ということは書かれておらず、「電気事業者等」だけの除外規定になっていた。これは法案審議のときの「原子力技術者等」よりも後退であり、会場から大きな抗議の声も上がった。
島崎委員による原発敷地内活断層調査は規定方針の模様
http://mainichi.jp/select/news/20121005k0000m040071000c.html
総じて市民側の取り組み方に疑問あり
委員の中でただ一人官僚出身の大島賢三委員。私のツイッターメモでは「これまでの指針の見直しが不十分だったために事故が起こった。自戒の意味を込めて。これまでの指針は実効性が見落とされている。実行できないようなことは紙に書いてもしょうがない。中間取りまとめなどを踏まえるが、関係者からの意見聴取など関係住民意見が重要。」などと、良さそうな発言がある。ただ、なんとなく感じるのは、言葉はお上手だがまさに実効性の問題だ。
ただ一人専門家ではない大島委員が「指針の実効性」をどのように見極められるのか課題であろう。私の見立てでは、要注意なのは更田、中村委員の動き、田中委員長と大島委員が中間的で動かず、島崎委員には希望を感じる。島崎委員が活断層問題で現在同様の活動を保証されるならば「安全」の観点から大きな前進となると思う。
傍聴していて感じることは、これらのまだら模様に対して、市民側の反応が一様に「全部ダメ」的に対応していること。
確かに「正式に認められていない委員会」であり、そこでの議論に正当性がないことはその通りだが、実際にそこで行なわれていることは再稼働に関わる活断層の真偽の問題であったり、今後の原子力災害対策の基本原則であったり、既存原発の運転継続か否かに関わる新技術基準など。
そこで誰が何を言い、どんな情報が披瀝され、場合によってはどういうごまかしが行なわれているかということを、かなり密に追わなければ、批判は上滑りして力を持たなくなる。
会場前で横断幕を掲げて抗議することは良しとして、委員会の会場内では同じシチュエーションではないということを考えるべきでは。会場内で傍聴しているものはみんな推進派で、自分たちだけが反対みたいな態度では、自ら少数派に落ちて行くのではないだろうか。
しかしそれから1年、エネルギー基本計画も原子力規制もなにやら怪しい。菅内閣から野田内閣に政権は移行し、同じ民主党ではあるが大飯原発再稼働をなし崩し的に認め、「原発ゼロシナリオ」を大多数の国民が選んだエネルギー基本計画では、原発ゼロだが核燃料再処理を進めるという矛盾する政策を示し、原発ゼロ方針の閣議決定もせず、大間原発の建設再開を認めた。
そして原子力規制委員会人事では、原子力ムラの中枢にいた田中俊一氏を委員長に、原子力事業者そのものである更田、中村両氏を委員に据える人事を強行した。本来は国会同意人事だが、それをやれば民主党が分裂するからか、あえて「非常時の」国会終了後に総理が任命する方法を取った。したがって、現規制委員会はまだ正式な委員会とは言えない。
その委員会が、この9月末からはじまった。公開された第2回委員会、第3回委員会を傍聴する機会を得たので、少しその印象を書いておきたい。
なぜ霞ヶ関を離れ六本木なのか
原子力規制委員会は、霞ヶ関を離れ六本木の民間ビルの中に設置された。総理官邸とは離れ、関連省庁とも遠い。原子力安全・保安院時代には緊急時に現地とテレビ電話で会議するシステムも保有していたが、それも置いて来ている。今このときには緊急事態となる事故は起きないとでも言うのだろうか?
ビルの管理人は民間である。そのために入場でのチェックにいろいろな条件がつけられた。荷物検査はやらないが、入場時に身分証明書を示せという。しかも顔写真つきの。省庁の職員やマスコミ記者の場合は、今はみんなこういう身分証明書を持たされているのだろう。だれも疑問視しなかったが、運転免許証も持たない人には傍聴すら認めないということになる。いったいどう言うことかと、大もめになった。こんなつまらないことでもめたりするのは意味のないことだ。「赤旗」記者だけは記者会見に参加させない(今は解除)というのもあり、どうも事務局が低レベルのようだ。
中立的な田中俊一委員長の印象
原子力委員長代理という経歴のため、人事問題でもめ、結局国会での同意を得ないまま初代委員長に就任した。福島県内の放射能汚染地帯の除染をする(できる)のだという強い主張で知られている。福島県内の高汚染地域の被爆線量の基準を1ミリシーベルトから20ミリシーベルトに引き上げた当事者でもある。
福島第一原発事故までは世界共通で1ミリシーベルトだった基準が福島市や飯舘村など、本来は避難すべきところで20倍に引き上げられ、そのために済み続けることを余儀なくされ、たくさんの人とくに子供たちが被曝した。その結果は、これからしだいにあらわになって行くはずだが、その責任を問われるべき人である。
ただし、これまでの2回の委員会を傍聴した限りでは、強引な誘導になるような議事進行や、明らかに原子力ムラ寄りという言動はない。きわめて中立的なスタンスをとっているという印象だ。20ミリシーベルト問題にはまったく言及しないので、市民側からは「20ミリシーベルトを撤回せよ!」というヤジが激しいが、意に解さず淡々と議事を進める。それによって、市民のヤジの方がうるさく、傍聴のマスコミや一般参加者からは市民が「眉をひそめられる」という状態になっている。作戦であるとすればたいしたやり手だ。
更田豊志委員と中村佳代子委員の印象
原子炉の技術基準の見直し策定にあたるのは更田委員らしい。この原子力規制委員会設置法の国会審議の段階で、重要なポイントの一つが「バックフィット」の適用だった。現在の科学的知見に基づいて新しい技術基準をつくり、古い原発もすべて、この新基準への適合を求めるという考え方だ。
まだ、この新基準は片鱗すらも見えて来ていない。まず行なわれているのが原子力災害対策指針の見直しだ。こちらは中村委員の担当だ。第2回会議では基本的な方針が示され、「被災者の視点、災害時に情報の混乱がないようにすること、アップツーデイトの情報を盛り込むという3点を心がけた。」との説明があった。しかし第3回会議では、それぞれのポイントで何に留意するのかという説明もなく、さっさとたたき台文章案がでて来た。
これに対して島崎委員から、事故は複数シナリオで進展するのに、出された指針は「また」一つのシナリオしか想定されていないように見えるという指摘まで出されたほどだ。
中村委員の仕事は、いわば事務局側にお任せ的、文章が淡々とつくられ規制事実を積上げられてしまうような危惧を感じる。それに比べると更田委員はそうとうに新基準にこだわりを持っているようにも感じる。そのこだわりが上記のバックフィットを想定し、既存原発の運転をすべてストップするような性質のものであれば良いのだが。どうもEALとOILの用語のみを連発する第2回会議の発言の仕方を見ると、国民に分かりやすい仕組みをつくろうとしているふうには見えない。
注)EALとOILとはEmergency Action Level(緊急時活動レベル)とOIL(運用上の介入レベル)。EALは施設の異常状態に応じて、緊急事態の区分を国が予め決定し、その区分に照らし合わせて、事業者が緊急時の活動(避難等防護措置を準備する活動、PAZ内の人を防護する活動=即時避難など)を決定するために予め決められた判断基準。OILは放射性物質の環境放出後に、環境モニタリング等の結果を踏まえ、屋内退避、避難、安定ヨウ素剤の予防服用等の措置を行なうための判断基準。
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/gat/20120507_siryou3.pdf
島崎邦彦委員に感じる解決への可能性
第2回委員会では、島崎委員から大飯原発の破砕帯について、実際に視察し断層であるか否かの判断をしたいとの発言があった。そのさいには、専門家を同行させたいということで、いくつかの学会に人選を依頼しているということだった。その専門家は、過去に原子力の安全審査等に関わったことのない人に限定するという説明も。
島崎委員は破砕帯の図を白板に貼り、配布資料の中にも図が入っており、委員間で破砕帯についての共通理解を得ようとする努力をしていた。これに対し、事務局はプロジェクターも用意せず、細部にわたる理解を全くする気がないかのような態度に見えた。
傍聴者にとっても、プロジェクターでの投影があれば、より理解が深まるだろうし、何よりマスコミの記者にとっては助かる話だと思う。そういう要求がマスコミから出ないのだろうか。市民側からの会場ヤジではそのような発言が多く、もしかすると同じ主張をすることが市民側に同調していると事務局側にとられかねないとの心理が働いているのかもしれない。
第3回委員会では、この現地視察の話が具体的に示されるだろうと思っていたのに、まったく議題とならなかった。その代わり「外部有識者から意見を聞くに当たっての透明性・中立性確保に関する考え方」なる文書が出され、確認された。そこには島崎委員が指摘していたような「原子力の安全審査にたずさわったものは除外」ということは書かれておらず、「電気事業者等」だけの除外規定になっていた。これは法案審議のときの「原子力技術者等」よりも後退であり、会場から大きな抗議の声も上がった。
島崎委員による原発敷地内活断層調査は規定方針の模様
http://mainichi.jp/select/news/20121005k0000m040071000c.html
総じて市民側の取り組み方に疑問あり
委員の中でただ一人官僚出身の大島賢三委員。私のツイッターメモでは「これまでの指針の見直しが不十分だったために事故が起こった。自戒の意味を込めて。これまでの指針は実効性が見落とされている。実行できないようなことは紙に書いてもしょうがない。中間取りまとめなどを踏まえるが、関係者からの意見聴取など関係住民意見が重要。」などと、良さそうな発言がある。ただ、なんとなく感じるのは、言葉はお上手だがまさに実効性の問題だ。
ただ一人専門家ではない大島委員が「指針の実効性」をどのように見極められるのか課題であろう。私の見立てでは、要注意なのは更田、中村委員の動き、田中委員長と大島委員が中間的で動かず、島崎委員には希望を感じる。島崎委員が活断層問題で現在同様の活動を保証されるならば「安全」の観点から大きな前進となると思う。
傍聴していて感じることは、これらのまだら模様に対して、市民側の反応が一様に「全部ダメ」的に対応していること。
確かに「正式に認められていない委員会」であり、そこでの議論に正当性がないことはその通りだが、実際にそこで行なわれていることは再稼働に関わる活断層の真偽の問題であったり、今後の原子力災害対策の基本原則であったり、既存原発の運転継続か否かに関わる新技術基準など。
そこで誰が何を言い、どんな情報が披瀝され、場合によってはどういうごまかしが行なわれているかということを、かなり密に追わなければ、批判は上滑りして力を持たなくなる。
会場前で横断幕を掲げて抗議することは良しとして、委員会の会場内では同じシチュエーションではないということを考えるべきでは。会場内で傍聴しているものはみんな推進派で、自分たちだけが反対みたいな態度では、自ら少数派に落ちて行くのではないだろうか。
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