竹村英明の「あきらめない!」

人生たくさんの失敗をしてきた私ですが、そこから得た教訓は「あせらず、あわてず、あきらめず」でした。

原発ゼロシナリオへのパブコメ考

2012年07月31日 | 原発
6月29日に国家戦略室から日本のエネルギー基本計画について三つの選択肢が提示されました。現在パブリックコメントの募集が行なわれています。パブリックコメントとは「国民意見」「民衆意見」というような意味で、政府の政策に対する国民意見を反映する手段の一つです。

国家戦略室の告知ページ
http://www.npu.go.jp/policy/policy09/archive01.html

市民によるパブコメの取り組み
http://publiccomment.wordpress.com/

しかし、日本でのパブリックコメント募集は明確なルール化がされておらず、海外に比べ期間が短く、結果の反映の仕方もあいまいです。国民への告知も十分に行なわれることはなく、形式的なものになっています。
エネルギー基本計画は深刻な原発事故を経験したあとの日本のエネルギー政策を決定する重要なテーマです。それなのに、パブリックコメント期間は6月29日から8月12日までの45日間しかありません。原発事故による放射能汚染は東日本を中心にいまも住環境や食べ物、雇用などに深刻な影響を与えているにもかかわらず、大半の国民はパブリックコメントの募集が行なわれていることすら知らないのです。
放射能汚染の被害者だけでなく、電気を利用する国民全員がエネルギー基本計画の関係者です。政府は「知らない国民はそれで良い」という態度ではなく、まずくまなく全国民に伝える努力をすべきです。

募集期間の前に「告知期間」を

原子力発電を今後も続けるべきかという世論調査では大半の国民がノーと答え、昨年の菅直人元総理の「脱原発依存」という方針表明以降、政府は脱原発に舵を切ったのだろうと思っています。ところが、国家戦略室から示されたエネルギー基本計画は必ずしも脱原発方針ではありません。まず、そのような方針が提示されていること、なぜそのような方針となったのかを政府は全国民に示すべきだと思います。
ところが告知期間どころか意見の締め切りまで45日間しかないのです。これは告知もしないで意見を締め切るに等しいものです。政府はまず十分な告知期間を取り、その間に散発的な政府説明会だけでなく、新聞広告やテレビCM、テレビ討論番組や国会での集中審議などを通じて、まず告知を行うべきではないでしょうか。そのあとに、十分な意見募集期間を設けるべきでしょう。

原発15%シナリオも原発新増設

提示されている三つのシナリオは2030年までに原発ゼロ、15%、20-25%というものです。3月11日以前には原発比率は26%であったので、この三つとも脱原発シナリオであるかのような説明を政府はしています。
しかし現在ある原発はその大半が老朽化しており、いますぐに運転停止をしなければいけないマーク型が10基もあります。福島第一原発事故でメルトダウンや水素爆発を起こしたタイプと同一のもので、これを設計したGE社自身が改良を進言しており、危険な状態のまま運転している原発が、こんなにあること自体世界を驚かせています。
浜岡原発は菅元総理の超法規的権限で停止されました。停止の理由は東海、東南海地震の危険性で、その状況は変わっていません。浜岡原発はこの巨大地震の津波に耐えられないことが明らかで、再稼働などできるはずがありません。柏崎刈羽原発は、2007年7月の新潟中越沖地震で被災し、2、3、4号機は運転再開飲めどもたたない状態で東日本大震災による全面停止となっています。
志賀原発や敦賀原発、大飯原発では地下に活断層があることが指摘されていますし、その他の原発にも疑惑があります。
動かしたくても動かせない原発が数々あるのに、それらを全部動かし、しかも80%の稼働率で40年の廃炉期限がくるまでは動かさないと15%シナリオは達成できないのです。つまり実現不可能な現実味のないシナリオで、もし本当に15%シナリオを実現しようとすると、動かない原発の代わりが必要になります。つまり、このシナリオも原発増設シナリオなのです。
政府も新増設シナリオという20-25%シナリオは、言うまでもなくこれまで以上の原発依存シナリオで、政府のいう「一定程度維持しながら低減」というようななまやさしいものではなく、何十基もの原発の新増設が必要です。
つまり15%シナリオでも、中国電力の上関原発、電源開発の大間原発など、いまは凍結中のものが動きだし、20-25%シナリオではさらいまは計画もないものまで動き出すということです。

ほとんど議論されていない再エネ、省エネの可能性

実は政府提案の原発ゼロシナリオにもたくさん問題があります。脱原発依存の道を検討するのに、省エネがどこまでできるか、再エネ(自然エネルギー)をどこまで増やせるか、それを実現するにはどのような政策が必要かということが十分に議論されてはいないのです。
再エネは2030年年で25%から35%の枠に入れられています。電力需要1兆kWhとして2,500億kWhから3,500億kWhです。実際には風力発電と太陽光発電だけで5,000億kWhを超えることも可能です。どういう政策目標を持つかが問題なのです。
省エネはもっと低く一律20%と置かれています。昨年の節電だけで東京電力管内の電力消費は17%も下がっているのに。ほとんど何もしないで各企業努力にまかせる程度の考えでしょうか。気候ネットでは50%近い省エネも可能と見積っています。政府の考え方の中には「熱政策」が完全に抜け落ちているからだともいえます。
50%の省エネを達成して、自然エネルギーが5,000億kWhになれば、ほとんどすべての電気を自然エネルギーでまかなうことも可能になるのです。それは、日本に大きな国内需要を産み出し、産業を発展させ、雇用を増大させ、景気を高揚させる政策でもあります。
ところが政府は、そのような検討もせず、ゼロシナリオはCO2排出が一番多い、産業の停滞や電気料金高騰をがまんしなければならないかのように説明しているのです。

原発は政治的、制度的に止めなければならない

政府提案は原発ゼロシナリオも含めて問題だらけです。しかし、原発を終わらせていくためには、私たちは法律や制度や政府方針というかたちで方向性を決定させなければなりません。デモや署名がどれほど高揚しても、結局みんなが疲れて波が引いてしまったときには、何も変わっていないという結果にもなりかねません。
問題だらけのエネルギー基本計画の三択ですが、それがいま政策決定のベルトコンベアに乗せられているのです。三つともダメだと主張しても、ベルトコンベアが止められない以上、それは決定されます。政府は三択のうち15%シナリオを国民に選ばせようとしているのではないかと思われています。日本人はまん中を選ぶ傾向があるのと、ちょっと見は原発をいま以上に増やさないで終わらせる方法のように見えるからです。
しかし、すでに述べたように15%シナリオも原発新増設シナリオです。原発を終わらせていくためには、まずはゼロシナリオに決定させるほかありません。少なくとも2030年までに原発ゼロにするという大方針は決定させ、再エネの普及や省エネの実施は、その後の政策議論でも間に合います。ゼロシナリオを選べば再処理も止まることになります。
ところが、ゼロシナリオは2030年まで原発を動かすシナリオだと主張する人がいます。政府提案でも「2030年までのなるべく早期に」と書かれていて、必ずしも2030年まで動かし続ける提案にはなっていないのですが。要はゼロシナリオを決定したあとに、どれだけ再エネが普及し、省エネが進むかということにかかっています。いろいろな問題はあるでしょうが、大きな方針で「たが」をはめていくということも必要ではないでしょうか。

しっかりと国民の多数派になっていくことの必要性

2030年までではなく、いますぐ全原発を止めるのだと主張したい気持ちはわかります。それが正しい主張だからと、政府の三択を四択にすべきだという人もあります。「2030年までにゼロ」と「今すぐゼロ」にゼロシナリオを分けてしまえという意見です。
しかし、この方法は最大多数かもしれないゼロシナリオを、わざわざ二つに分割することです。ゼロはどちらも小さくなり、結果的に15%や20-25%シナリオを有利にしてしまうのではないでしょうか。
正しい主張をすることと、正しい結果を導き出すことは違うと思います。政策的に良い結果を出そうとしたら、まず一番良くない方針を少数派にすることではないでしょうか。逆に言うと、それ以外の方針を、多少の違いは大目に見て、ある一つの方向性でまとめることだと思います。「2030年までにゼロ」の中には「今すぐゼロ」も含まれています。ゼロの大きな枠組みがつくれているのです。いつまでにゼロにするか、あるいはできるかは、まず15%、20-25%シナリオを否決した上で、次のステップできちんと議論すれば良いのではないでしょうか。
より良い結果に導いていくためには、どういう道筋があり、その道筋に意思決定をするにはどういう枠組が良いのかを常に考えることが必要です。言葉をかえると、その場面、場面で、どうやって多数派をつくり出すのかということです。「原発ゼロシナリオ」は、そういう枠組みをつくるにふさわしいと思います。8月12日のパブコメ期間終了まで、あと2週間たらずですが、原発ゼロを求める大きなうねりが起こることを期待しています。


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