よんたまな日々

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父の思い出二つ

2005年04月02日 | 日々徒然
思い出なんてタイトルをつけましたが、うちの父は田舎で元気に生きております。
角田光代の本の記事を少し前に書きましたが、その中で父の夢を見る場面を紹介したこともあり、強烈に思い出したので、書き留めておきます。

其の壱
東京に転勤し、新しい仕事に就き、一人暮らしを始めて2~3ヶ月が過ぎた頃のことです。
ようやく、新しい仕事をなんとか一人でこなせるようになり、毎日、日本中のあちらこちらに出張し、ビジネスホテルを泊まり歩く日々を続けていました。そのときは、三回目だかの東北地方行脚の途中で、あと2泊だかで、再び東京の寮に帰れるという日でした。
別の場所のお客さんのところでの仕事を終え、夜遅くに、さすがにちょっと疲れが溜まったなと感じながら、仙台のホテルに到着しました。近くで一人で簡単な夕飯を済ませ、ベッドに入った明け方に夢を見ました。

夢の中で僕は実家にいました。居間のソファーに座って、とても眠いと思いながらテレビを見ていました。なぜか、居間はとてもがらんとしていて、テレビとソファー以外は何もありません。

現実の実家でも、居間から見て食器棚で仕切られた向こうに、台所と食卓があり、居間のテレビが見えるように食卓が配置されています。うちの母と妹と僕がソファーでくつろいでいるときに、いつも父はなぜか台所の食卓に座って、新聞を広げながら、時折り目を上げ、居間のテレビを見ていました。

このときも、いつも通り新聞を広げて読み耽っていた父が、顔を上げて、夢の中で眠気と戦っている僕に、話しかけてきました。
「お前、相変わらず、仕事ばっかりやってんな。いつも全然帰ってきーひんで。そんなに毎日の仕事がきちんとでけへんのか。」
「違うんや。いくらでもやる仕事があんねん。僕がしっかり仕事せんと、結局他の人に迷惑かけてしまうから、しゃーないねん。」
「お前は今若いからそんな無茶できるけど、そのうち、大きな病気になるぞ。」
「うるさいなー、今だけや、こんなに忙しいのは。」


Y君の思い出に書いた事件が起きるまで、ずっとうちの父と、いつもいつもこういう口喧嘩をしていました。

夢の中で、ああまたいつもの口喧嘩をやっていると思っていました。すると、突然父が
「俺はお前のことが心配やねん。」
と言いました。


そこで目が覚めました。ただ、それだけの夢なのですが、目が覚めた途端、涙が出てきて止まらなくなりました。
最後の一言は、これまで父が言ったことのない言葉でした。「あほやなー、お父さん、最後まで言わんとわからへんやん。」と思いました。これまで叱言を聞かされ続けて、ずっとうるさいと思っていただけでした。
ああ、心配してくれていたんだと、色々なわだかまりが心に落ち、静かな感動に満たされて涙が出てきました。
目が覚めたときには、もうホテルを出る時間になっていたので、泣きながらスーツに着替えて、泣きながらチェックアウトしました。地下鉄に乗っても涙が止まらず、他の通勤客に怪訝な目で見られていましたが、さやさやと涙が溢れてくるのが気持ちよくて、流れるがままにまかせていました。お客さんの事務所の前まで来て、何度か深呼吸をして、ようやく涙が止まりました。
その日の仕事を終え、今度は翌日の仕事のために福島に移動し、そこのホテルから実家に電話をしました。いつも通り、うちの母が出て、父の様子を聞くと
「いつも通り、元気にしているよ。」
との返事。父さんに替わってと頼むと、父は電話が嫌いなので、いつものように出るのを嫌がり、
「元気ならそれでいい。特に話すことはないって。」
と相変わらずの返事。
「父さんの夢を見たんで、ちょっと心配になったんだけど、なんでもなければいいや。こっちも元気だって言っておいて。」
と電話を切った。
僕自身が、この数日後に体調を崩し、はやり目をこじらせて一ヶ月近くも失明状態になり、さらにその後遺症でドライアイに苦しむことになろうとは、この時は予想もしていませんでした。

其の弐
実は、mad-eyeさんのブログコメントにも書いた話です。
うちの父は、煙草好きで、僕が小さい頃からずっとロングピースを吸っていました。小さい頃は煙草の匂いを嗅ぐと、父の匂いだと思ったくらいです。幼い僕は、よく近所の煙草屋さんにロングピースを買いに行って、10円とか20円とかのお駄賃をもらっていました。ところが、妹が生まれ、嫌煙権という言葉が広まるにつれ、うちの父は家の中で煙草を吸わなくなりました。
3年くらい前の正月に帰省したときに、父と二人で近所の神社に初詣に行きました。もう何回も失敗している見合いに嫌気がさして、家族に僕はもうずっと独身で行くんだという宣言をしていたのですが、急転直下結婚が決まった独身最後の正月でした。父が珍しく、母と妹をうちに置いて、私だけを誘って出てきたので、何か男同士の話があるのかなと期待しながら、出てきました。
初詣の人混みに紛れて参拝を済ませ、駐車場に戻ろうと神社を出たところで、うちの父が
「ちょっと待ってくれ。」
と声をかけました。ちょっと緊張しながら、「何?」と振り返ると、父は、ポケットから、懐かしいロングピースを取り出し、喫茶店で拾ってきたマッチを擦って火を点け、スパーッと気持ちよさそうに吸い始めました。
「うちで吸うと、あいつら、うるさいからな。」
と、道端のガードレールに腰を置いて、煙をくゆらしている姿は、小さい頃よく見ていた父の姿そのままでした。父さんは何も変わっていないとうれしくなりました。
結局、煙草を一本灰にしたのみで、男同士の話も何もなく、自宅に帰ってきて、その後はいつも通りの正月でした。

うちの奥さんを連れて、田舎に帰ったのって、まだ二回ほどなのですが、いずれのときも、普段は無口でむっつりしている父が、うちの奥さんに気を使って、いろいろと話しかけているのが、すごい無理しているような感じで、面白かったです。

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