よんたまな日々

サッカーとゲームと本とおいしい食べ物

この一ヶ月くらいで読んだ本

2007年12月09日 | 読書
この一ヶ月くらいブログに全く書き込まなかったのですが、本はいくつか読んでました。基本的に面白い本にはきちんと当たっていて、できれば、一冊一エントリーで書きたいと思いながら、何冊か溜めてしまったので、まとめて書きます。

1.「 国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて」 佐藤優
ノンフィクションというか、著者自身の体験を記したものです。
内田樹がこの世の中には「歩哨(センチネル)」にならざるを得ない人がいてて、彼らは自分の使命感のみで、割の合わない仕事を続けるといった内容のことを書いていたと思いますが、この本を読む限り、佐藤優はそういうタイプの人のようです。
鈴木宗男が、マスコミのバッシングで、旧来の利益誘導型政治家で、腐敗の象徴のように描かれていたのですが、その割りに具体的にどういう悪事を働いたのか不明確だった印象があるのですが、この本で、まさに時代のスケープゴートとならざるを得ない立場にあったことが明確にされます。
僕自身、これまでに比べると非常にタフな仕事をこなさないといけなくて、かなり精神的に参っていた時期に読んだのですが、自分よりもっと大変な場所で、大変な目に遭いながら、使命感で自分を支えて戦い続ける主人公の姿は、強い慰めとなりました。


2. 「村上春樹にご用心」 内田樹
前に紹介したところでも引用していますし、僕自身物凄く影響を受けている内田樹による村上春樹論です。
村上春樹の倍音構成論はなかなか面白いですし、センチネルの話もここで出てきます。個々の話はそれなりに面白いのですが、僕は村上春樹をそこまで高く評価していないので、うーん、どうだかなぁと思いました。
特に「世の中には邪悪としか言えないことがある。」というのは、確かに村上春樹のテーマの一つですが、その邪悪さを完全に外から来るものとして、自分自身とは切り離して語っているところが、物凄く僕としては引っ掛かるところなのですが、この部分も含めて、内田樹は必要性を認めていますね。
世の中の多様性と、それを受け入れるために、自分自身で相手の立場と取り替えて想像できる能力、さらにその想像力でも及び至らないところがあるという感覚を持っていれば、他者からのネガティブなアプローチを単純に「邪悪」として切り捨てることの危険性については、村上春樹、内田樹双方ともよく理解しているはずなのに、ここであえて「邪悪」なものを排除するストーリーを必要であるとするスタンスについて、僕は単純に受け取ることができませんでした。

3. 「ホラー小説でめぐる「現代文学論」」 高橋敏夫
経済的には、空白の10年と言われる日本の90年代後半から2000年代前半にかけてが、ホラー小説における豊穣の10年であるとの指摘は非常に面白かった。僕の実感としてもまさしくそうで、経済的な閉塞感とホラーを見たいという気持ちの間には何か関係があるのだろうかという疑問を持っていたので、まさしくそれにぴったりあった本という感じでした。
ただし、ホラーのこの豊穣の10年は、まさに日本の歴史上まれに見る10年であったらしく、他の時代の恐怖小説との関連について、あまり触れられていなかったのが残念です。過去も角川の仕掛けた金田一耕助ブームや、戦後すぐのエログロナンセンスブーム、心霊写真ブームなどそれなりにホラー系の盛り上がりはあり、それぞれ僕の記憶ではなんらかの閉塞感と結び付いていたような印象があるのですが。
ここで紹介されているホラー小説の多くをまだ読んでなかったので、今後のホラー小説を読み進めるガイド本としても興味深い内容でした。

4. 法月綸太郎 「生首に聞いてみろ」
シリーズ物の中の一作らしいですが、単独で読んでも面白かったです。
謎の作り方として、それぞれの人の誤解とそれに基づく証言で謎が構成されるというのが面白かった。探偵もいろいろとミスリードされてしまうし、関係者のそれぞれに思惑があって、同じことを違うニュアンスで表現したりという、現実ではよく起きることをリアルに書いて、それを謎に仕立てあげて、解かせるというのを、ここまで意識的にやったのは、どうも過去のミステリーの中では珍しいものらしい。
ただ、今から7,8年前の小説にしては、妙に古い感じがするのが不思議である。

5. 貴志祐介 「硝子のハンマー」
上記と同じくシリーズ物の一作らしいですが、こちらも単独で十分楽しめます。
というか、シリーズ物の最初の作品なので、名探偵役の人達も、一人一人きちんと描写されているので、特に違和感がありません。
趣向としては、「生首…」と同じように、探偵自身が試行錯誤して、謎の不明瞭なエリアを狭めていくという展開になっています。ただ、「生首…」のほうは、みんなの証言を集めて全体像を作ろうとすればするほど、どんどん奇怪なことになっていくのに比べて、こちらは、段々と可能性が狭まっていく感じが、読む側にしてみると気持ちがいいです。密室トリックで、可能性が狭まれば狭まるほど不可能犯罪という印象が強まってくるのですが、最後でここという謎解きがあって、回答がはっきり見える爽快感はこちらのほうが上質かなという感じでした。
最終的には真犯人以外は嘘の証言をしていないですし、構成としては、こちらのほうが古典的なミステリーに入るとは思うものの、エンターテインメントとしてきちんと楽しめました。
この作品の著者である貴志祐介は、ホラー物の書いているので、早速買ってきて、積読本山の中に入っています。また、感想をアップします。

6. 岩井志麻子「ぼっけえきょうてえ」
「ホラー小説…」で絶賛されていたので、買ってきて読んでみました。
舞台が岡山というのがちょっと驚きました。というのも、僕のホラー小説体験の原点は横溝正史なのですが、こちらも岡山を舞台にしている作品が多く、そのイメージと妙にシンクロしたので。
全然90年代のホラー小説という感じではないです。「呪怨」、「リング」、「着信あり」なんかが携帯とかマンションとか、郊外の戸建て住宅とか、そういう比較的親しみのある舞台や道具立ての中で、怖さを演出しているのに対し、こちらは本当に金田一耕助モノのように、昔の貧しくおどろおどろしい時代を背景にしています。いや、金田一耕助はそれでも戦後すぐなのですが、岩井志麻子のほうはひょっとすると戦前?昭和初期?みたいな設定で、私の親の世代ですら既に記憶のない頃を舞台にしています。
そういう意味では、Jホラーの流れとは反する何とも伝統的なスタイルの恐怖小説なのですが、過去にそういう作品がなかったとしたら、そこが新しいエリアであると気が付いた著者の着眼点を誉めるべきでしょうね。
日本ホラー正統派伝統的な怖さを持った作品です。短編集で、表題作よりも、次の作品、さらにその次の作品とどんどん怖さが増していく感じがします。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿