よんたまな日々

サッカーとゲームと本とおいしい食べ物

おばあちゃんの怖い話

2021年05月24日 | 
おばあちゃんの話の続き。

洋行好きのばあちゃんは、ヨーロッパから帰って来ると、親戚や近所の人を集めてお土産を配るのが常だった。わざわざスーツケースに詰めたお土産を持ってきて、みんなの目の前でスーツケースを開けて、お土産を並べ、一人一人名前を呼びながら配ってみせた。ずらっと並んだお土産を見るのも、自分の名前がいつ呼ばれるか、ドキドキして待っているのも好きだった。
前の記事で話したような事情で私の両親はこの場に参加していなかったが、最後に、「これはお父さんお母さんに渡してね。」と両親の土産を預かるのも好きだった。

最近、コロナで見かけなくなったが、爆買いの中国人も家に帰ったらきっと同じことやっているんだろうなと思った。

そういう年齢で、洋行するくらいなので、外見も若く見えた。夏の夕方に湯浴みを済ませて、口紅や眉を引き直しているばあちゃんは、ちょっと妖怪じみた妖艶さがあって、怖かった。
母に買ってもらった本に「纐纈(こうけつ)の城」という話が載っており、絞った血を飲むとずっと若いままでいられるという。ばあちゃんの部屋に泉鏡花の「眉かくしの霊」という本があった。こちらは子供には難し過ぎる本だったけど、きっとおばあちゃんの秘密が載っている本だろうと思った。 
鏡台に向かって化粧しているばあちゃんは怖かったけど、顔を塗り終えると、いつものばあちゃんに戻って、部屋に蚊帳を釣り、蚊が入って来ないように、蚊帳の端をパタパタとしてからさっと入り、昔の強烈にうるさい扇風機を回したり、蚊取り線香に火を着けてくれる姿は大好きだった。

その祖母は僕が高校生の頃に、脳梗塞になった。朝、起きてきて、こっそりどこかに行こうとしているのに母が気付き声をかけたら、既にキチンと喋れなくなっていた。身振り手振りで、歯がおかしくて、喋れないので、歯医者に行くと言っているのを止めて、父の車で大病院に連れて行ったが、治りきらず、右半身にマヒが残った。また、喋れなくなってしまったことから、一気に認知症が進んだ。

当時の商売屋で家族で介護と言っても、やはり商売優先であった。
ある日のお昼ご飯がインスタントラーメンで、母からお湯の入った容器を二つ受取り、自分の分は自室に置いて、おばあちゃんの部屋に持って行った。勉強しながらラーメンを食べ終え、ふと気になってばあちゃんの部屋に見に行くと、持って行ったラーメンがそのまま置いてある。
「ばあちゃん、ラーメン。」と指差して、気付いた祖母が蓋を開けると、汁を吸って延び切ったラーメンがあった。ばあちゃんは大笑いして、「ラーメン食べ忘れていたら汁がなくなった」と不自由な口で喋った。「ホンマや。」と一緒に笑いながら、外出もできず、いつものように筆を握りながら、写経もできず、日々の食事にも不自由しながら、ここにいるばあちゃんの境遇に、心の中で泣いていた。

ばあちゃんにとって、そして家族みんなにとって幸いなことに、あっという間に天国に旅立ってしまった。糞便の処理や深夜の徘徊も含めて母は大変な介護の苦労をしたし、過去も含めて恨みはいっぱいあったと思うが通り過ぎることができた。

さて、そのおばあちゃんの部屋を大学生になった私が自分の部屋として貰い受けることになった。
工事の人に来て貰って、部屋の内装はガラリと変えた。洋室になって、カーペットも敷き、ベッドと机も入れ、窓もサッシを嵌めて、エアコンも付けた。

ベッドの位置はばあちゃんと蚊帳を釣って寝た布団の位置と同じだ。このベッドに寝ていると時間が巻き戻るような不思議な心持ちがした。

そしてある日、夢を見た。
自室の扉を開けて階段を降りようとすると、その階段をおばあちゃんがでかいスーツケースを引っ張りながら昇って来る。
僕は思わず声を上げる。
「おばあちゃん、死んだと思っていたよ!」
「何言ってんだい。今度の旅行は長いって言っただろう。お土産買ってきたから、父さん、母さん、呼んでおいで。」
おばあちゃんを通すために道を譲って、後を振り返ると、改装したはずの自分の部屋が、懐かしいばあちゃんの部屋に戻っている。大急ぎで母屋に行って両親を呼ぶが、誰もいない。戻ってくるとばあちゃんは自分の布団に横になって、
「○○ちゃん、足がだるくて。いつものように揉んでおくれ。」
「わかった。」
もう、おばあちゃん、どこにも行かないでね。泣きながら、ばあちゃんの足を揉んでいるところで目を覚ました。

それからちょくちょく祖母は、この部屋に帰って来ていたようだ。冬の寒い真夜中に目を覚ますと、キチンと閉めて寝たはずの窓が開いていたり、静かな夜に一人で勉強していたら、誰もいないはずなのに、扉が勝手に開くことがあった。

何年も経って私は就職し、すっかりそういうこともなくなった。ある日、中学生になったばかりの従兄弟が私の部屋に泊まりに来た。従兄弟が小さい頃におばあちゃんは亡くなっているのだが、かろうじて覚えていると言う。
従兄弟が怖い話をせがむので、この話をした。ちょっとだけサービス精神を発揮して、従兄弟の後ろの扉を指差して、「ほら、扉が開く。」と言ったら、本当に、ギギーッと音を立てて、扉が開いた。おばあちゃんも、そういうサービス精神は旺盛やな。
従兄弟は本気で怖がってしまい、この部屋で寝れないと言うので、両親の部屋に連れて行って寝て貰った。

それももう30年も前の話だ。



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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (kotobukibiyori)
2021-08-17 00:44:42
怖い話な様で、良い話な様で、不思議な話な様で、とにかく心に残りました。
亡くなった人の夢から目が覚めた時って、凄く切ない気分になりますよね。
夢の中で、生前のままの声と姿で現れるから、亡くなったのは夢だったんだなーと安堵し、目が覚めた時なんて…
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Unknown (h_tutiya)
2021-08-18 11:09:19
@kotobukibiyori いらっしゃいませ、kotobuki biyoriさん、過去記事までご訪問いただきありがとうございます。
死んだ人が夢に出て来て、亡くなったのは夢だったかと安心した経験は、これが最初で最後ですね。よくある話なのでしょうか?
父が娘をあの世に攫っていく夢を見た時は焦って目が覚めて、夢で安心しました。

夢の見た後の不思議な感じ、興味深いですね。夢の話は時々ブログに書いてますので、また見に来て下さいね。
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Unknown (sakurako62)
2022-08-06 14:22:42
こんにちは👋😃
おばあさんだから怖くないですよね😃 ほっこりしました🎵

sakurakoから さこ
に名前変更しました
これからも宜しくお願いいたします🙇
        🌸さこ
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Unknown (h_tutiya)
2022-08-14 06:28:56
さこさん、ようこそ、いらっしゃいませ。
お名前変更、ブログでも拝見しました。
幸せを呼ぶ名前ですね。

そして怖そうな雰囲気でほっこりする話、私は大好きです。
さこさんに伝わってよかったな♪
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