ハイジ

ハイジが来たのは、３年前、ハイジが７歳の冬だった。
犬の美容学校の教材犬だったハイジは、学校で生まれ、７年間生徒たちの美容の相手をしてきた。
学校では犬たちがある程度の年齢になると、老後は普通の生活ができるようにと里親探しをして、生徒や近隣の人たちに引き取ってもらうよう働きかけている。

ハイジは他の犬たちと一緒に里親探しに出された。
他の犬たちは次々と里親が見つかっていく中で、ハイジだけが、期限まで引き取り手がみつからなかった。
娘は、ハイジを自分の家で引き取りたいと言い出した。
トイ・プードルだけれど、たれ目で、見た目は不細工。
でも、おとなしく、誰にでもなついて性格のいい子だという。
私も主人もＯＫだったし、クマもメスのハイジをすんなり受け入れてくれるだろうと思った。

娘は大喜びで、ハイジの引取りを申し出た。
でも、時すでに遅く、里親募集の期限を過ぎてしまっていて、ハイジはまた美容の仕事に戻ることになった。
娘の落胆はもちろん、私自身もがっかりしている自分に驚いた。
ハイジはまた教材犬としての生活に戻り、普段の授業、美容コンテスト、卒業試験の相手をこなした。

それから３ヵ月後、再び里親探しの候補としてハイジの名前があがった。
複数の希望者がいる場合は抽選となるため、娘は、ハイジが他の人にもらわれてしまわないかとずいぶん気をもんだようだけれど、やはりハイジには娘以外には里親希望者は現れなかった。
不細工だろうが何だろうが、娘の気持ちの中でハイジは、すでに自分の家族になりかかっていたようだ。

ハイジは、学校での生活の７年間排泄のしつけもされず、散歩の経験もほとんどなく、我が家に来てからしばらくの間は生活の変化に驚くことばかりだったと思う。
それでも、先住犬のクマの真似をすることで、ずいぶん早く我が家での環境に慣れて行った。
散歩に出かけることにも慣れ、散歩で排泄することも覚えた。

おとなしく、一度も吠えたことのなかったはずのハイジは、本来の犬の習性を思い出したのか、それともクマの真似をしているのか、訪問者に対して吠えるようになった。
人懐っこく、誰にでも喜んで抱かれたはずのハイジは、我が家に来てからは、すっかり人見知りのハイジになり、家の人間以外には手を触れさせることがなくなってしまった。

ハイジは現在１０歳。1日の大半を眠って過ごしている。