なぜゴミ屋敷の住人は平気な顔で暮らせるのか
「個人の自由」を尊重する社会が支援を阻む
ではセルフ・ネグレクトにならないためにどうしたらよいのでしょうか。心や体の病気が原因でセルフ・ネグレクトになった人は、病院で治療を受けるか、高齢者であれば介護保険のサービスを利用することで生活が改善することがあります。
経済的に困窮している人は、行政の窓口に相談に行き、就労支援や生活保護を受けることができれば、生活を立て直すことができるかもしれません。しかし、セルフ・ネグレクトの人は助けを求めることが「できない」人や、助けを求める状態にあることに「気づかない」人なのです。
ではその人の周囲にいる人が気づいてあげて、無理やりにでも病院に連れて行ったり、ゴミを行政が撤去したりしてしまえばよいのではと思う人も多いかもしれません。しかしそこに至るには大きな困難が立ちはだかっています。それは「個人の自由」を尊重する法の壁と社会です。
あなたが愛煙家だとして、医者から「体に悪いから煙草をやめなさい」と言われてその通りにしますか? きっと「医者に禁煙を強要する権利はない」と反論するでしょう。そう、私たちは法に触れず社会や他人に迷惑をかけない限り、いかなる行為も邪魔されない権利を日本国憲法第13条によって保障されています。
つまり、精神的な病によって認知力や判断力が著しく低下している場合を除いて、何人も他人の生き方や生活に介入することはできないのです。この「自由の尊重」は、愚行権とも言い換えることができます。つまり人は、たとえ他人から愚かな行為と思われようと、公共の福祉に反しない限り誰にも邪魔されない権利があるということです。
セルフ・ネグレクトの先にある孤独死の現状
東京都監察医務院で取り扱った「自宅住居で亡くなった単身世帯の者の統計(平成30年)」によると、東京23区内の自宅住居で亡くなった単身世帯の65歳以上は男性が2518人、女性が1349人と2003年以降過去最高となっています。
また日本少額短期保険協会の「孤独死の現状レポート(2016年3月)」によれば、東京23区内の65歳以上の孤独死者(賃貸住居内における)の数は、2002年の1364人から2014年には2885人と2倍を超える増加となり、遺体発見までの平均日数は男性で23日、女性で7日です。
以前私が委員長を務めたニッセイ基礎研究所の調査では、孤立死の要因の約8割がセルフ・ネグレクトでした。セルフ・ネグレクトの先には孤立死が待っているといっても過言ではありません。それがわかっていながら手を差し伸べられない今の法律や社会の壁が立ちはだかり、孤立死は増え続けているのです。
セルフ・ネグレクトの人のほとんどは他者に心を閉ざしていますが、子どもやきょうだい、友人なら心を開くことがあります。実際、親族や友人の説得によりゴミを捨てるようになったり、医療機関を受診したりするというケースは多いのです。
仮に家族や親族では説得が難しくても、本人の情報を民生委員や地域包括支援センターに伝えれば、何らかの支援につなげてもらうことが可能です。
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