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認知症のいろは~認知症はなおる~
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「認知症のいろは」
-認知症はなおる(認知症は変化していく)-
東京メモリークリニック蒲田 院長 園田 康博
はじめに
認知症はなおる(認知症は変化していく)とは
・・・略・・・
「認知症はなおる」と聞くと皆さんは驚くかもしれません。「なおる」というのは少し語弊があるのでもう少し丁寧にお話ししますと、確かに認知症は病理学的には治りませんが、臨床症状的には良くなって、本人や家族にとって非常に大変な介護困難という状況がなくなり普通に生活できるようになる。そして知的レベルもある程度保たれ、本人と家族にとって非常に良い人生の時間を過ごすことができるようになる。こういったことを何度も経験していますので、私は「認知症はなおる」といっても過言ではないのではないかと思っています。
今回お話ししたいもうひとつの重要なテーマが「認知症は変化する」ということで、最初に診断した認知症の病名や病状が実は経過とともに変わっていくということです。このことはあまり知られていないと思いますが、現在に至るまで色々なことが分かってきて認知症の臨床治療も今ダイナミックに変わってきているのです。
・・・略・・・
<認知症の診断>
アルツハイマー病というのは老人斑が脳に蓄積されて発症するのですが、老人斑が脳に蓄積し始めた時がアルツハイマー型認知症の発病、認知症症状が現れた時がアルツハイマー型認知症の発症ということができます。
老人斑が脳に蓄積し始めるのは、発症の20年前、最近では25年前といわれています。老人斑はアミロイド斑ともいわれますが、毒性があるため脳に蓄積していくと脳細胞の壊死が進行し、アルツハイマー型認知症が20~25年後に発症することになります。
次にピック病は、ピック小体があるものとないものがありますが、ピック小体があるものでは前頭葉と側頭葉に蓄積していき発症に至ります。
レビー小体型認知症では、レビー小体という封入体が蓄積していくのですが、パーキンソン病ではレビー小体が脳幹部の中脳黒質や基底核に蓄積して発症するのに対して、レビー小体型認知症では大脳皮質にもレビー小体が蓄積して発症に至ります。
ところが最近、アルツハイマー型認知症の発症に関与している老人斑が生体的に処理されたものがレビー小体になるのではないかという説が出てきています。アルツハイマー型認知症の全経過を診ていると、途中でレビー小体型認知症の症状が出てくるケースを非常に多く経験しますので、この説に合致するなと思っています。
また途中で前頭葉の症状が出てくるケースも多く経験します。前頭葉の症状が出てきた場合は、アルツハイマー型認知症の病巣が脳の前方まで広がってきたと判断できるのですが、最終的にはどの認知症疾患も寝たきりになって、上下肢の運動機能が麻痺して屈曲位になっていきます。
人は初め胎児の時はお腹の中で、体積が一番小さくなることもあり、手足を曲げて丸まっていますが、外に出るとまっすぐな姿勢になってだんだん成長していき、高齢になると今度は年をとるにつれてだんだん背中が丸くなり、最後にこのような病気に罹ると手足も曲がって身体全体が丸まり元に戻っていきます。このように人がいわば一生をかけてぐるっと一周するように変わっていくこと、これはヤコブレフのサーキュレーションといわれていますが、最終的に精神機能はもちろん全身の運動機能が失われ、手足が曲がって身体全体が丸まってしまった状態になることを失外套症候群といいます。これはアルツハイマー型認知症が進行して病巣が大脳全体に広がったために起こってくるので、当然進行の途中で前頭葉の症状が出てきても構わないということになります。
アルツハイマー型認知症はまず特に海馬や頭頂葉に障害が出やすいのですが、それが脳全体に広がっていくということです。ピック病の場合、病巣は広がらずに比較的前頭葉に限局しています。
したがってアルツハイマー型認知症は進行に伴って、レビー小体型認知症にもなりうるし、ピック病の前頭葉の症状も出ることがあるということが理解できるのではないでしょうか。このことを覚えておくと、今回初めにお話しした「認知症は変化する」ということも分かるのではないかと思います。
認知症の治療は黎明期 始まったばかり
・・・略・・・
某大学の認知症外来であるとか、某自治体の認知症センターに通っていた方とその家族が怒って私の外来に来るというケースがたびたびあります。
例えばレビー小体型認知症であると診断はできているのですが、薬の処方内容が病状に合っていないため、その薬によって認知症の症状がどんどん悪化していってしまい、家族が怒ってしまう訳です。どうしてそのような薬の処方になってしまうかというと、経過に伴って疾患単位で認知症の臨床病名や病態が変わっていくということを理解されていないからだと思われます。
臨床症状によって病気を診断して治療しなければなりません。その際「認知症は変化していく」「他の認知症症状がオーバーラップしていく」ということを理解しておかないと、その場その場の困った症状に対応した治療が行えないのです。
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認知症の方の介護、看護をしていて一番困る言動というのは、いわゆる周辺症状がほとんどなのではないでしょうか。夜中に騒いだり、暴れたり、点滴を引きちぎったりすることがありますが、そういった症状に対して、過去現在未来へと病態が変化していく中での、あくまでその時点における断面の症状なんだ、と捉えて的確な治療を行えば非常に穏やかな状態に落ち着かせることができるのです。
レビー小体型認知症の診断基準(2005)より
ではレビー小体型認知症の診断基準(2005)を見ながら、レビー小体型認知症はどんな病気なのかを確認していきたいと思います。
必須症状の中で重要なことは、まず中核症状として初期の頃はあまりもの忘れがないということです。
また中核症状で重要なものとして、まず注意覚醒レベルの顕著な変動、意識の変容・変動、あるいは私は認知の変容・変動と呼んでいますが、意識レベルが波をうつことがあります。
意識レベルが落ちた時には認知機能も落ちることになります。意識レベルが保たれている時と落ちている時が一日の中で、もしくは一週間の中で入れかわる、意識レベルが動揺するということが、レビー小体型認知症の鑑別する上で最も重要な症状といってもいいでしょう。
患者さん自身にこの症状があるかどうかを確かめるために「頭がボーッとすることがないですか?」「眠くなることがないですか?」と訊くのですが、症状がある人は「いやーボーッとすることがあるんですよ」などと答えることが多いです。
家族に症状の有無を確かめる時には「テレビをつけて観ているふりをして、下を向いて眠っていることがないですか?」「一点を見つめたまま固まっている時がありませんか?」などと訊くのですが、そんな状態の時は意識の変容でレベルが落ちている時だといえます。診察中に白目になって頭が垂れてしまい「もしもし」と身体に触ると、ハッと起きるといったこともあります。こういった症状はレビー小体型認知症に典型的なものです。
次に繰り返す幻視があります。幻覚の1つである幻視が特に起こりやすく、大体8割くらいの方に出現するといわれています。幻視でどんなものが見えるかといいますと、ヘビや人や虫などがあります。
虫でも色んな形態で出現します。机の上にいっぱい虫が見えて、本人がそれを取ろうとしたり、振り払おうとするので、周囲の人はその動作から何か見えているんだなということが分かります。また幻視の特徴として、色がついてありありとしているものが多いということがあります。
またパーキンソン症状が出やすいということも挙げられますが、レビー小体型認知症の病期の初めから出たり、後から出てきたりと色々なパターンがあります。
これらがレビー小体型認知症の重要な中核症状であることを覚えておいてください。
ちなみに幻覚には幻聴もあり、頻度も少なくありません。先日診た患者さんでは、午前4時に必ず拡声器が鳴るといっていました。周りの家から拡声器が鳴るために「うるさい」といって110番をするのですが、これが毎朝毎朝続くため家族が参っていました。その他幻聴ではカラスの声が聞こえるというのもありました。
次に示唆的症状の中で比較的多いのはREM睡眠行動異常症です。
これについては後でもお話ししますが、寝ている間に夢を見たり、起き上がったり、大声を上げて叫んだりと色々なことをします。睡眠中のREM睡眠時にこういった症状を出すのですが、この症状はレビー小体型認知症が発症する10年前、もしくは早いと20年前から始まるといわれています。
したがって40もしくは50歳代で夢を見始め、しかも夢の内容が悪く、連続して見るであるとか、また鼾がひどくなってきた、無呼吸になった、大声を立てる、急に起き上がって寝ぼけてしまうといった症状が出てきたら要注意です。レビー小体型認知症は全認知症の中で2割を占めるので決して他人ごとではありません。そういう症状が出たら、私のところへ来てください。ちゃんと治療して治します。こういった症状はレビー小体型認知症の初期、超初期に出てきますので、その時点でちゃんとコントロールできれば病気を発症しないで済みます。
次に有名なものとして抗パーキンソン病薬も同様ですが、抗精神病薬に対する顕著な感受性が挙げられます。ちょっとした薬の量でもものすごく反応してしまうということです。
抗パ剤を使うと幻覚、妄想などの症状がひどくなってしまったり、抗精神病薬を使うと抑制がかかって動かなくなってしまい、ご飯も食べられないといったことになりかねません。
次に支持的症状の中で繰り返す転倒と失神というのがありますが、これはとても多いです。原因不明の意識消失発作があり、そのために救急車で何度も病院へ搬送されて精査をするけれども何も異常がない、といったことが聴取されれば、まずはレビー小体型認知症を念頭に入れて検査をしたりアナムネをとります。
レビー小体型認知症はアナムネをとるだけで診断できてしまうといっても過言ではありません。
次に高度な自律神経障害として起立性低血圧や尿失禁がありますが、そのほか便秘が必発です。1週間便が出ないというのはざらにあります。
あと幻視以外の幻覚とありますが、先ほどお話しした幻聴のほか、幻味や幻臭も時々あります。口の中に甘いものがあるといった訴えが聞かれたりするのですが、そういった時はなぜか非定型抗精神病薬を使うよりもデパケン(抗てんかん薬)を使うと症状が消えるといったことを経験しています。
次に系統化された妄想ですが、これは幻視とリンクして妄想になってしまうと、例えば本人が1階に住んでいて2階に誰かいる、お化けがいる、襲われるといって毎度110番、119番をして近所の有名人になってしまうといったこともあります。
次にうつ状態になるということがあります。アルツハイマー型認知症でもそうですが、レビー小体型認知症でも初発症状がうつということが多いです。そういった方にうつ状態だからうつ病だといって治療していくとどんどん悪くなっていってしまいます。そのようなケースが結構多いのです。
先日も精神科で老人性うつと診断されて、どんどん薬を盛られていってしまい、それに伴ってどんどん動かなくなってしまったケースがありました。往診を頼まれて私がやったことは、とにかく薬を減らすことでした。しかし認知症の治療を始めた直後にその方は熱中症になって病院へ救急搬送され入院してしまいました。その方にはイクセロンパッチ4.5mgを使用していたのですが、入院中に手違いで9mgになってしまったところ、結果的には認知症が改善されて普通の人になってしまったという事例を経験しました。その方に対してはイクセロンパッチの用量をゆっくり増やしていこうと思っていたのですが、用量が一気に9mgに倍増された途端に症状が著しく改善され、普通になってしまったということです。イクセロンパッチはこのようなうつ傾向のある認知症の方には有効だといえます。
次にMIBG心筋シンチにおける取り込み低下がありますが、これはパーキンソン病やレビー小体型認知症の診断にとって非常に重要で、PSP(進行性核上性麻痺)やCBD(大脳皮質基底核変性症)との鑑別にとても役立ちます。ちなみにこれは日本人の織茂(おりも)先生が見つけられた鑑別法です。
レビー小体型認知症チェックリスト
次に小阪先生が作られたレビー小体型認知症のチェックリストがありますので紹介します。
①もの忘れがある
②頭がはっきりしている時と、そうでない時の差が激しい。よくボーッとしている時がある→これは意識の変容、認知の変容があるかをチェックしています。
③実際にはないものが見える。人や動物や虫などが多い→これは幻視があるかをチェックしています。
④妄想がみられる→物盗られ妄想や嫉妬妄想などがあるかどうかをチェックしています
⑤動作が緩慢になった→これはパーキンソニズムがあるかどうかをチェックしています
⑥筋肉がこわばる。硬くなる。表情が乏しくなった。喜怒哀楽が減った→これもパーキンソニズムがあるかどうかをチェックしています
⑦すり足、小股で歩行する→これもパーキンソニズムがあるかどうかをチェックしています。あとは身体が斜めになっているということがあれば斜め徴候といってこれもパーキンソニズムです。
⑧睡眠時に怖い夢をよく見たり、大声を立てたり、あるいは寝ぼけて起き出し、異常行動をとる→これはREM睡眠行動異常があるかどうかをチェックしています。私が診ていた患者さんでは、毎夜毎夜頭の上に包丁が置いてあるということを経験していました。本人は「なぜ包丁が置いてあるのだろう?」と悩んでいましたが、結局この方はREM睡眠行動異常症があり、自分で夜中に台所へ行き、包丁を手に持って頭の上に置くということをしていて、それが毎夜続いていたということでした。
⑨転倒や失神を繰り返す
このうち5個以上該当すれば、レビー小体型認知症の可能性があるということですが、このチェックリストを頭に叩き込んでおけば、まずレビー小体型認知症は診断できると思います。
レビー小体型認知症の多彩な症状
・・・略・・・
4)自律神経症状
自律神経障害も出やすく、この中では起立性低血圧も比較的頻度が高いですが、特に便秘が出ることが多いです。
便秘は臨床症状を悪くする大きな要因の一つです。便秘が続き、便が3~4日出なかったり、1週間出なくなると幻覚や妄想がひどくなってしまう場合があります。便が溜まってしまうといわゆる悪玉の腸内細菌が増え、これが脳内物質にかなり影響を与えてしまうからです。例えばドーパミンの働きを遮断して身体の動きが悪くなったり、幻覚がひどくなったりします。そのため私は便が2日出ないとイエローカード、3日出ないとレッドカードだといって浣腸をするなど排便のコントロールをつけるようにしています。今まで動けなかった人が便をボンボンと出すと普通に動けるようになる、といったことは日常的に経験していますので便秘には気を付けないといけません。
また失禁や頻尿もとても多いです。
手足がむくみやすいということもあります。左右差のあるむくみがあったら、レビー小体型認知症やパーキンソン病などパーキンソン症状が出るような病気を考えないといけません。
5)抑うつ症状
抑うつ症状はレビー小体型認知症の初発症状の1つです。
抑うつ症状はレビー小体型認知症の方の70%が有するといわれ結構多いのですが、うつ病と間違われてしまうことも多いです。
6)薬に対する過敏性
次に非常に重要なこととして薬に対する過敏性があります。通常の服用量でさまざまな副作用が出やすいということです。これがあるためにレビー小体型認知症の治療はとても繊細で、薬の微量調節をしなければいけません。レビー小体型認知症の治療にとってはこのことが肝(きも)だといえます。
7)REM睡眠行動障害(RBD)
最後にREM睡眠行動障害についてです。
REM睡眠行動障害は消すことができるのですが、薬のファーストチョイスはクロナゼパムであり、これは世界的にも認められておりグレードAとされています。では使用量はどの位かというと、クロナゼパムは1錠0.5mgなのですが、1/4の0.125mgから始めて症状が変わるかを見極めます。この量でREM睡眠行動障害が消えてしまう人もいれば消えない人もいるので、消えない人に対しては追加でロゼレム1錠8mgのところを半分の4mgで始めて、あとは抑肝散を加えたりします。抑肝散もREM睡眠行動障害に有効です。
こういった薬を使うことでREM睡眠行動障害は大分コントロールすることができます。REM睡眠行動障害をコントロールするとパーキンソニズムが改善したり、幻視・妄想が減弱したりします。
したがってREM睡眠行動障害の治療は、レビー小体型認知症の方に行う第一の治療になります。
またREM睡眠行動障害をコントロールして夜間ちゃんと寝かせてあげると家族も困らなくなります。夜な夜な大声を上げて大変だった状況がなくなり、介護がしやすくなることもあります。
<認知症の治療>
- 認知症治療薬
- 初めはアルツハイマー型認知症であっても途中でレビー化してしまったら、これらの薬を増やして良いのか、使っていいのかということになるのですが、まず用量を増やしたら症状は悪化します。こういった点に配慮することがとても重要なのです。アルツハイマー型認知症が正しい診断であれば初期は薬の常用量を投与して良いのですが、レビー化ないしは前頭葉症状の合併や移行時には、これらの薬の減量や変更が必要となります。
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それとともに周辺症状を優先して治療することが鉄則になります。このことを頭に叩き込んで患者さんをフォローしていかないと、実は普通にちゃんと生活できるはずの人が最後は寝たきりになって胃瘻を作り、長期病院に入院するという状況になりかねません。
先ほどもお話ししましたが、最近の知見としてアミロイド斑を掃除した残りカスがレビー小体ではないかということがいわれていますので、アルツハイマー型認知症がレビー化する可能性は十分にあるということです。
次にレビー小体型認知症の治療は、本当に一人ひとり全く違いますので、薬のさじ加減がとても大事になります。それぞれの人の病態に合ったテーラーメイドの治療をしなければいけないということです。
なおかつレビー小体型認知症は途中からピック化する、前頭葉の症状が合併してくることがあります。最初私もレビー小体型認知症の診断基準の中に易怒性などはないのに、途中からスイッチが入って怒りやすくなり、暴れたりして大変な状況になってしまう人がいて、これはどういうことなんだろうと悩みました。
認知症治療についてコウノメソッドというものを発信している河野先生が、おそらく日本で一番認知症患者さんを診ていて自身のブログも出していますが、LPC(Lewy-Pick Complex「レビー・ピック複合」)という概念を発表されています。LPCとはつまりレビー小体型認知症がピック化してしまう病態を指すのですが、そのように病態を捉えた方が考えやすいのではないかと提案されているのを知り、私自身「そうか」と納得することができました。つまりレビー小体型認知症も途中から前頭葉の症状がくっついてきて、ピック化してしまう可能性があるということです。その変化をいかに早く察知して治療していけるかということがやはり重要だといえます。
薬効は「やじろべえ」
次は薬効は「やじろべえ」ということについてですが、レビー小体型認知症には薬の投与で精神症状が良くなっていくと、逆に動作などパーキンソン症状が悪化してしまうというシーソー関係があります。
例えば、筋緊張が高くて身体が固いからドパミンアゴニスト(ドパミン受容体刺激薬)のビ・シフロールという薬を1錠加えたりすると、動作が改善したとしても、精神症状が悪化して幻覚・妄想がひどくなり、ついには易怒性・暴力などの前頭葉症状まで引き出してしまうといったことがあります。これでは困ってしまうので、今度は精神症状が悪化したからといって非定型抗精神病薬のセレネースやリスパダールを投与してしまうと動作などのパーキンソン症状が一気に悪化してしまいます。そうならないためには投与する薬についてすごく微量なさじ加減をしていかないといけません。
ちなみにもしビ・シフロールという薬を使うとしたら0.125mgで1錠を1/4分割した量ですが、これでピタッと症状が良くなってしまう人もいます。したがってこの薬のさじ加減についてはセンスがないと難しいかもしれません。
…略・・・
認知症は変化していく①
アルツハイマー型認知症と診断して病理学的には正しいかもしれないけれど、臨床的には途中でピックの症状が出たり、あるいはレビー小体型認知症の症状が出たりする。
特にレビー小体型認知症の症状が出てきた場合には、薬の被刺激性が大きくなってくるので、使用する薬の用量を変える、つまり減量しないといけません。例えば精神症状が出ている時に普通の用量を投与してしまうと症状がひどくなってしまったり、過鎮静になって寝たきりになってしまったりするので、薬の用量を微調節しなければいけないということです。したがって「認知症は変化していく」ということを皆さんには是非覚えておいてもらいたいのです。
今日の話で一番私が一番伝えたいのはこの「認知症は変化していく」ということです。
初めアルツハイマー型認知症だったのがレビー小体型認知症になって、そこに前頭葉の症状が付随してきてピック化することも経過としてありうるのです。もちろんずっとアルツハイマー型認知症で経過するケースもあります。しかし何か症状が変化した場合には、変化して現れた症状がどんなものなのかを見極めないといけません。
その他のケースとしては、レビー小体型認知症がLPC化するものがあります。前頭側頭葉変性症のものはそのままでアルツハイマー型認知症が合併することはありません。意味性認知症の場合は前頭葉や側頭葉の症状が付随してきてピック化することがあります。ちなみにパーキンソン病はずっとパーキンソン病のまま経過する場合もありますし、認知症を伴うパーキンソン病になって経過する場合もありますし、パーキンソン病からレビー小体型認知症になってさらにはLPCになっていくこともあります。これだけ病態が変わっていくんだということを皆さんが理解してくれていると有難いです。
認知症は変化していく②
認知症が変化していく時には徐々に変化していく場合が結構多いのですが、面白いことに少しインターバルを置いてから別々の病態の症状がゆっくり同時進行していくということもあります。
ただ一番困ってしまうのは認知症が急激に変化してしまう場合です。これが介護困難につながるケースが多いからです。
認知症が急激に変化してしまう場合にはどんなケースがあるか例を挙げますと、まず抗認知症薬を開始したり増量した時があります。これは間違った診断で間違った治療が開始されたケースで多く見られます。
例えばレビー小体型認知症なのにアルツハイマー型認知症と診断してしまってアリセプトの投薬を始めてしまった時や用量を3mgから5mgに増やしてしまった時です。あるいはアルツハイマー型認知症と思って治療をしていたけれどもレビー化していることに気が付かないで投薬量を増やしてしまった時などがあります。そんな時には前頭葉の症状を引き出してしまうので、易怒性や被刺激性、暴言暴力といった症状が出てきてしまいます。
認知症が急激に変化してしまうケースとして、もう一つ挙げられるのが、身体的ストレスがかかった時です。
例えば入院してしまった時なども多いのですが、引き金として熱中症だったり肺炎や尿路感染症などの感染症、頭部打撲も頻度が多いです。「頭を打ってからしばらくしておかしくなった」など、身体的ストレスがきっかけとなって色々な症状が引き出されてしまうことがあるのです。
手術などの外科的侵襲を受けた時もきっかけになります。入院したり居宅が変わったなど、生活環境が変化した時も引き金になることがあります。とにかくこのような身体的なストレスがかかった時に認知症が急激に変化することがある、ということを覚えておいて下さい。
これはとても大事なことです。特に病棟で働いている看護師さんがこのことを知っておくと、「この患者さんの症状が変化したな」ということに気づきやすくなると思います。気づいたことに医者がしっかり対応しないといけませんが・・・。
認知症は変化していく③
まとめますと身体的変化が内的、外的に起きたり、加わった時に臨床症状の変化をいち早く察知することが大事だということです。患者さんが自宅で生活している場合、その変化に一番敏感なのは家族です。したがって家族が言っていることには聞き耳を立てておく必要がありますし、すぐに対応してあげないと、その後の対応が後手後手になってしまいます。とにかく先手必勝ですので、家族が症状の変化を言っていたらすぐ薬を調節して投与し、症状を落ち着かせるというのが私たちの仕事だといえます。
認知症は変化していくということに関連して、ここで皆さんもご存じのきんさん・ぎんさんのお話をさせていただきます。2人は確か103歳か104歳まで生きたと思います。この2人の脳の切片は病理解剖されているのですが、もし2人の生前の情報が全くなくて脳の切片だけ渡されたら「これぞ末期のアルツハイマー病だ」というものだったそうです。
2人はアルツハイマー病だったということでしたが、生前の様子はとてもアルツハイマー病には見えなかったのではないでしょうか。とてもクレバーだったし、受け答えもちゃんとしていてしっかりしていたと思います。
2人は長寿健康センターの研究対象症例になっていて、生活様式などがずっと調べられています。
病理学的にいうと2人はアルツハイマー病を「発病」していたのですが、臨床的に「発症」はしていなかったということです。病理学的にはアルツハイマー病のしかも末期であったのに発症していなかったのです。なぜ発症しなかったのか?ということになりますが、皆さんなぜだと思いますか?
最近きんさん・ぎんさんの娘さんたちがよくテレビに出ていますので、観たことがある方もいらっしゃると思います。娘さんたちの言動はきんさん・ぎんさんにそっくりだと思いませんでしたか?よく動き、よく歩いていたと思います。確か自宅のそばに100段以上の階段がある神社があって、そこをみんなで上り下りしていたと思います。そのことでまず日常的に足腰が鍛えられます。またとにかく明るかったと思います。いろいろな情報をキャッチしていることも分かります。娘さんたちの会話には時事放談がふんだんに含まれていて、鋭い意見もあったと思います。それから日常的に刺激が多くあるということもいえます。よく笑ってよく話していました。
また第一は食生活なのではないかといわれています。きんさん・ぎんさんの食生活も調べられているのですが、それは典型的な日本食だったそうです。お魚を食べて、野菜を摂って、穀物を食べているのですが、もう2つ摂っているものがありました。
まずお肉をたくさん食べていました。最近高齢者の栄養失調が話題になっていますが、お肉を食べないことが大きな要因になっているようです。お肉を食べない方のアルブミンをみると、確かにボーダーラインの方が多いようです。私の外来に通ってきている70代の女性の方がいるのですが、診察室に入ってくる姿がヨボヨボで、来るたびに弱っていく印象を持っていました。これはおかしいなと思って、どんな食事をしているのかを訊いてみたところ、本人はお肉を食べないようにしているということでした。「それではダメですよ」と忠告した数か月後、診察室に入ってくる姿はしゃんとして元気になっており、本人も力が出てきたと言っていました。やはりお肉を食べるということが、高齢者にとっては重要なのでしょう。
もう一つは適度なお酒です。きんさん・ぎんさんは焼酎が好きで、適量を飲んでいました。適度なアルコールは良いのだと思います。
きんさん・ぎんさんの例からも、どうやら認知症の病気を発病はしていても、どうやら発症させない方策があるんだということが分かります。その方策には環境要因や本人の心がけが大事になりますが、結局は生活習慣病のようにいかに予防していくかということになります。
認知症は生活習慣病なのです。そのため発症を防ぐことが可能なのです。
「変化していく」を前提に治療を
さらにいえば、認知症が発症していたとしても、認知症は変化していくんだということを前提にして、例えば初めはアルツハイマー型認知症であったとしても途中で変わることがありうるんだ、ということを私たちが念頭に置いて、その場面場面に応じて治療を加えていけば、その方は穏やかな状態で過ごすことができるのです。
特にレビー小体型認知症の病態が加わった時には、投薬を変更、減量するセンスがないといけません。なおかつ将来的にピック化する可能性もあるので、そのこともいつも念頭に置いて治療していくことも必要です。
ちなみにレビー小体型認知症が変わっていきていないか確かめるために、私の外来では必ず「最近夢を見ませんか?」と訊いています。患者さんが「最近夢を見るようになった」といったら危険信号です。その場合は先手を打って夢を見ないように薬を投与します。
治療戦略
認知症の治療戦略としては、まず介護者が困る周辺症状をターゲットにして治療していかないといけません。また周辺症状については陽性症状か陰性症状かを見極めて薬を調整することが大事です。中核症状に対してはむやみに薬を増量してはいけません。
認知症発症の前段階:MCIの症状
皆さんはMCIという言葉を聞いたことがありますか?MCIとは認知症を発症する前段階の状態のことをいいます。実はMCIの方の6割が認知症に移行するといわれています。そのためいかにMCIの段階で診断して、治療を開始できるが大事になります。
アルツハイマー型認知症の場合、MCIの症状はもの忘れが主体です。
レビー小体型認知症の場合、発症の10数年前からレム睡眠行動障害(RBD)が出てきて、夢見、いびき、夢遊病的行動などが見られることがあります。もしレム睡眠行動障害が出てきた場合は、それを治療すればレビー小体型認知症を発症しないで済むかもしれません。あるいはボーっとする、例えば新聞を読んでいても内容がすぐ頭に入ってこないなどと言うような方がいたら、レビー小体型認知症の症状である意識や認知機能の変容が起きている可能性が高いでしょう。この症状も治療できます。あとはごく軽いパーキンソニズムが出ることもあります。パーキンソニズムについては神経内科医でないとなかなか見い出すことができないと思いますが、階段の上り下りで「最近階段を下りるのが怖くなった」であるとか、「歩いている時に何となくフワフワする感じがするんです」といったことが聞かれるようになったら、その方には診察を勧めた方が良いと思います。
次に前頭側頭葉変性症の場合についてですが、先日私の外来で意味性認知症のMCIの方を見つけました。診察時の会話中に笑ってごまかす場面があったり、「最近何か相手の言っている意味がよく分からない」と話されたことが気づくきっかけになりました。ピック病の場合は、性格が変わった、怒るようになった、キレやすいなどのほか、同じものを買ったり食べたりするようになった、というようなエピソードがあればピック病のMCIである可能性が高くなります。
MCIの段階で治療すれば、認知症の発症という次の段階へ移行するのを防げる可能性が高くなりますので覚えておいてください。
認知症薬チャレンジテスト
これは私が考えたMCIを見極めるためのアリセプトチャレンジテストのフローチャートです。
アリセプトをごく少量投与して変わらなければ、認知症でない可能性が高くなります。
アリセプトをごく少量投与して、良い感じがして頭がすっきりして、新聞の内容が頭に入りやすくなった、などといったことがあればレビー小体型認知症である可能性が高くなります。
アリセプトをごく少量投与したら、疎通性が良くなって、もの忘れが改善したというのであれば、アルツハイマー型認知症である可能性が高くなり、さらにウィンタミンチャレンジテストでウィンタミンを1~2mg投与してさらに症状が改善したら意味性認知症である可能性が高くなります。
アリセプトをごく少量投与して、良くない感じがするのであれば前頭側頭葉変性症である可能性が高く、さらにウィンタミンチャレンジテストで症状が改善したら前頭側頭葉変性症である可能性がもっと高まります。
こういったMCIを見極めるチャレンジテストが十分成り立つのではないかと思っています。
…略・・・
認知症 処方例
これは認知症の主要な症状に対する処方例になります。
例えば妄想に対しては第1選択がグラマリール、第2選択がセロクエル、第3選択がリスパダールであるというように見ます。また幻聴に対しては第1選択がリスパダール、第2選択がセロクエル、第3選択がジプレキサになります。これを考えたのは若年性認知症の大家である宮永和夫先生で「ビギナーの安心・実践 ステップ式認知症処方」という本から引用させていただきました。
私自身も認知症の症状に対するこのような処方例、レシピというものを持っています。それは頭の中にあるのですが、例えばレビー小体型認知症の方に対してリスパダールを使う場合、どの位の量から始めるかというと0.1mgです。セロクエルだと2.5~5mgから始めます。ジプレキサは(2.5mgの)1/4から始めます。したがってレビー小体型認知症の方に対しては、すべての方に対して常用量の大体1/10から1/5の量で調節をしていきます。調節をしないのは抑肝散です。抑肝散については常用量を投与しても大丈夫です。
宮永先生の処方例で参考になるのは血管拡張薬の1つであるユベラを使っていることです。
あと性的逸脱行為、いわゆる服を脱いで裸になってしまうような症状に対してはピレチア(抗ヒス)が効きます。また万引きを行う方に対して、先日効いたのがルーランです。
易怒性に対してはグラマリールが一番効くようです。周徊・固執に対してはグラマリールかリスパダールが良いようです。
興奮・焦燥・黄昏症候群に対してはリスパダール、セロクエルも使えますが、デパケンもOKです。これらは15時に投与するのが良いです。例えば14時と15時にリスパダール0.1mgを内服してもらうなどです。デパケンはデパケンRではなくてデパケン50mgを内服してもらったりします。先日はデパケンを10 mg、20 mg、30 mgと増やしていってコントロールできたケースがありました。
REM睡眠行動障害に対してはリボトリールがファーストチョイスになりますが、ロゼレムと抑肝散も効果があり、睡眠薬も組み合わせて使えば症状をほぼ100%コントロールできます。
遂行機能障害は、いわゆる最近リモコンが使えなくなったなど、物事を実行する遂行能力が落ちた状態になることですが、そんな時は糖尿病がなければエビルファイを少量投与することで症状を改善できます。またリスパダールもOKです。
症状に合わせてこれらの効果のある薬を上手く組み合わせることで対応していきます。
おわりに
「認知症がなおる」という意味は、介護者が最も困る周辺症状を主体に治療をして、在宅で長く穏やかに生活してもらうようにすることだといえます。
そのためにはまず周辺症状をいかにうまくコントロールできるかということが大事になります。周辺症状をうまくコントロールできると、結果的に中核症状の進行を抑えられるだけでなく、改善することもあるのです。
またきんさん・ぎんさんの話でも触れましたが、認知症の病気を「発病」していてもいかに「発症」させないかが大事であり、もし発症して周辺症状が出てきたらしっかり治療をする、そうすることで質の高い生活をできるだけ長く送ることができるということです。そして本人だけでなく家族も穏やかな生活が送れるようになる可能性が十分にあるのです。
認知症ケアのポイント
最後になりますが、認知症の方の介護で一番重要なこと、キーワードは「穏やか」です。この「穏やかさ」を作るために、認知症ケアのポイントとして3つのAが挙げられます。
まず本人はもちろん家族や介護者など周りにいる方が「安全」かどうか。次に本人はもちろん家族や介護者など周りにいる方が「安心」しているかどうか。そして最後に「愛情」があるかどうかです。この3つがないと在宅生活は継続できません。
以上で私のお話を終わります。
私の母に当てはまることが沢山あり とても勉強になりました。
園田先生に 感謝し ここに記録させていただきます
1年前 / 37リアクション /出典:allivesblog
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