水はよく舟をうかべ、また舟をくつがえす。薬はよく病をなおし、また身命を害す。万般こくごとくしかなり。
テレビ画面に何度も放映される津波をみて冒頭のことばを思い出しました。江戸時代中期の眞言宗の僧侶、慈雲尊者(1718~1804)の言葉です。慈雲尊者は大阪を中心に活躍します。釈尊の説かれた戒律へかえれというのが尊者の教えだといいます。
わかりやすい原文です。「水の上にはよく舟を浮かべることができるが、その水はまたその舟を転覆させる。薬はよく人の病を癒すが、その薬はまた人の命を損なう。すべてのものはことごとくそのようなものなのなのだ」。それはそうなのでしょうが、人間と同様にフラストレーションがたまった大地の攻撃的反応に翻弄された被災者には、なぐさめの言葉もはげましの言葉もみつかりません。
節電で少しばかり暗くなった駅やコンビニに、以前とはちがった落ち着きを感じて居心地の良さを感じるのがおおかたの感想のようです。これまでが明るすぎたのです。ヨーロッパに長いこと滞在したことのある人にいわせれば、「これがパリの地下鉄の明るさ」だとか。
なぜ、パリの地下鉄はシックな明るさかというと、個人的な独断でえば、ヨーロッパ人の目が青いからです。どういうことかというと、青い目の人は明るさに弱いんですね。彼らが直ぐにサングラスをするのは伊達じゃないんです。キラキラとした光のもとでは疲れてしょうがない。日本のコンビニの明るさの下では、クラクラして商品を選ぶどころではなく、すぐに退散してしまう。まったく科学的でもなんでもない、坊主の独断です。
いずれにしても、身のまわりをギラギラでない心地よい明るさにもどす転換の時期にすることが、何万人もの亡くなられた方の冥福をいのることになるのではないでしょう。