先月のことばで大灯国師の「雨を衣に」という歌を紹介したら、知人が金田一春彦さんの『ことばの歳時記』(新潮文庫)に次のような一節があるのを教えてくれました。
新国劇の芝居で見ると、月形半平太が、三条の宿を出るとき、「春雨じゃ、ぬれて参ろう」と言うが、今思うと、彼は春雨が風流だからぬれて行こうと言ったのではなく、横から降りこんでくる霧雨のような雨ではしょせん傘をさしてもムダだから、傘なしで行こうと言ったものらしい。そこへゆくと、東京の春雨は「侠客春雨傘」という芝居の外題でも知られるように、傘を必要とする散文的な雨である。
世の中、すごい人ばかりと感心すします。あいにく、ご教示の本は持っていなかったので、さっそく注文してみると、博学多識の一冊でした。そこで、7月のことばは、金田一先生の『ことばの歳時記』から探したのが冒頭のことばです。この本は(もと昭和四十年の一月から十二月まで、一年間「東京新聞」と「中部日本新聞」の夕刊に「ことば歳時記」と題して書き続けた雑文である)とは、著者自身が文庫のために書いた「あとがき」の冒頭です。だから、365話あるわけです。それで、山口誓子の句は7月19日に掲げられています。金田一先生の名人芸ともいえる解説を載せるのは、スキャナーで取り込んめばそう難しいことではないのですが、やはりそれはエチケットに反するからやめておきます。 写真は珍しく住職が撮った写真です。どこの青田かという修学院離宮の棚田です。そのいきさつはいずれ。