※この話は、2017/6/20にヤフーブログ「たゆたふ」、2019/4/6「たゆたふ弐」でアップしたものです。
浮気した彼氏に詰め寄ったところ、逆上され殺されてしまったという若い女性。
その女性が住んでいた部屋で、二ヶ月ほど暮らす事になったつくしであるが早速、初日から怪奇現象の洗礼を浴びる羽目になった。
まずは手始めにラップ音が部屋中に響き渡り、次に電気が突然消える。
そして日が経つにつれ、閉めたはずの扉や襖(ふすま)が自然と開いたり、洗面所の水がいきなり流れたり、人を引きずる様な音が聞こえてきたりと、不可解な出来事が続いた。
さすがのつくしも、これには薄気味悪いものを感じたが、おいそれと逃げ出す訳にもいかず、バイト代を手に入れる為、我慢して住み続けた。
そんな中、遂につくしは遭遇してしまう。
そう。
この部屋で殺された前の住人である、若い女性に。
「・・・うっ!」
あまりの息苦しさに目を覚ましたつくしは、信じられない光景を目の当たりにする。
恨みがましい瞳をこちらに向けながら、死ね死ねと連呼し、自分に馬乗りになって首をギュウギュウ絞め上げてくる女性の霊。
その目は狂気に満ち満ちており、普通の人間ならば悲鳴を上げ失神するところだろうが、生憎つくしは普通の人間・・・いや、精神状態ではなかった。
昼間、街中で偶然見かけた元彼とその相手女性の幸せそうな姿。
自分一人を不幸にし、何喰わぬ顔で日々を過ごす元彼に、言い知れぬ怒りを覚えた。
---許せない。絶対に。このヤロウ。ふざけんな。
ドロドロとした怒りのマグマを胸の内に納め、やり場の無い思いを持て余していたつくしは、霊に首を絞められた事により、何かが弾けた。
右手を握りしめ拳を作り、それを、
「つくしパーンチ!」
自分の首を絞め上げる霊の顔面に向け、思いきりグーパンチをお見舞いしたのだ。
当然ながら、意表を突かれた霊は、驚愕した面持ちでつくしを見つめる。
しかしつくしは全く意に介する事なく、怒りの丈を霊にぶつけた。
「何すんねんワレェ!苦しいやろがアホンダラ!」
『・・・』
「何でウチがアンタに首絞められなアカンねん。関係あらへんやんけ。恨むならワシやなく、アンタを裏切った男ちゃうんけ!?」
『・・・ハイ』
「こっちは親が借金作ってトンズラするは、勤務先が倒産するは、彼氏が浮気相手を妊娠させて結婚するはで、踏んだり蹴ったりや。恨みたいのはウチの方や!ボケ!カスゥ!」
そう言うや否や、枕をむんずと掴んだつくしは、それを霊にめがけ思いきり投げつけた。
余談ではあるが、何故つくしが関西弁を話すかというと、大学時代からの親友がコテコテの関西弁を口にし、それがうつったからである。
おまけに、浮気した元彼や倒産した会社の上司が関西出身で、常日頃から関西弁を使っていた為、自然とつくしも関西弁をマスターしてしまったのだ。
ちなみに、コテコテの関西弁を話す親友は、あきらの妻の座に君臨している。
さて、話を戻そう。
思いきり枕を投げつけられ『痛い』と呟く霊に、つくしはベッドから下り、仁王立ちしながら更にまくし立てた。
「殺されて悔しいのは分かるけど、恨む相手間違えんなや。浮気した彼と相手の女に取り憑きなはれ。ほんで、その二人を気が済むまで懲らしめたら、成仏しぃや。いつまでもコッチの世界にいたらアカン。ええな!?」
『・・・ハイ』
「分かったなら、サッサとここから去(い)ねや」
『ス、スミマセンデシタ』
あまりのつくしの剣幕に恐れをなした霊は、ブルブル震えながらこの部屋から去っていった。
牧野つくし、後厄。
職ナシ金ナシ男ナシの三拍子揃った崖っぷち。
この出来事をキッカケに、次々と事故物件に住む仕事が舞い込む様になり、伝説の女となる。
人呼んで「沈め屋」・・・そう、霊を「鎮める」のではなく、グーパンチで「沈める」という意味の「沈め屋」である。
〈あとがき〉
久々にコメディを書きたくなったので、こんな話を書いてみました。
書いていて、「霊って痛みを感じるのか?」と思いつつ、感じる事を前提に進めました。
〈あとがき2〉
この「ろうげつ」でも、沈め屋つくしチャンを書いていこうと思ってます。
コメディのつくしチャンは、やっぱりこういったパワフルな女じゃないとね(笑)