雨の降る日は嫌いだった。
だって、辛くて悲しくて苦しかった出来事を、思い出してしまうから。
でも、今は───
「今日は、鎌倉にあるレストランに行ってみないか?」
「鎌倉のレストラン?」
「ああ。雨の日に来店して食事をすると、10%割引になるんだってよ」
「わぁ!」
「つくし、好きだよな?割引」
「もちろん大好き!」
「よし!じゃ、行くか」
「うん!ありがとう、あきらさん」
いつだって貴方が傍にいるから。
だから私は、雨が降っていても平気。
憂鬱な気持ちにはならないの。
それに、貴方に告白された日も、初デートの日も、初お泊まりの日も、全て雨の日だったでしょ。
だから私は、雨が降っていても大丈夫。
そう言えば、告白された日はしとしと雨が降っていたっけ。
相合傘をしながら帰路に着く途中、さりげなく『好きだ』と言われたのを、昨日の事のように覚えている。
初デートの日は、これまた雨が降っていた。
相合傘をしながら博物館に行き、貴方の博識ぶりに驚かされたのを、今でも覚えている。
初お泊まりの日も、当然の如く雨が降っていた。
相合傘をしながら竹林に囲まれた高級旅館を訪れ、湯上りした貴方の色気に胸を高鳴らせた事を、鮮明に覚えている。
「ニヤニヤしてどうした?」
「へっ?べ、別にニヤニヤなんて・・・」
「思い出し笑いか?スケベだなぁ、つくしは」
「ちょっ!?スケベって何よ!?」
「違うのか?」
「あきらさんと一緒にしないでよ」
「それは残念。つくしもスケベなら、あ~んな事やこ~んな事も試せるのになぁ。ベッドの中で」
「あきらさん!」
「あははは」
雨の日の嫌な思い出を、貴方が塗り替えてくれた。
だから私は、雨の日が嫌いじゃない。
むしろ、雨の日が好きになった。
「食事の後、行きたい店が湘南にあるんだけど、寄り道していいか?」
「うん。私は構わないけど」
「よかった。つくしと一緒に訪れないと、意味がないからな」
「意味がない?」
「ああ。本人不在で指輪なんて買えないだろ?」
「・・・えっ?指輪って」
「ペアリングだよ。取り敢えず今は、それで我慢だな」
「我慢?」
「結婚指輪は、俺の抱えてる仕事が落ち着いてから買いに行こう」
「結婚指輪!?」
「何を驚いてんだ?」
「だ、だって・・・何の前触れもなく急に・・・それに、その・・・」
「プロポーズもされてないのに、それをすっ飛ばして結婚指輪だなんて~ってか?」
「ゔっ!」
「図星か。何だ、つくしはロマンティックなプロポーズを夢見てたのか。そういうのは苦手だと思ってたよ。まだまだ勉強不足だな、俺は」
「ち、違───」
「じゃ、つくしの退社時間に合わせて、真っ赤な薔薇の花束を持って勤務先まで迎えに行くよ。で、退社する人達の前でプロポーズするか!?」
「げっ!」
「それとも、夜景の綺麗なホテルのラウンジで、カクテルの中に結婚指輪を入れてプロポーズするか!?」
「どっちもイヤぁ~!」
「ぷっ!」
「あ、私をからかったのね!?あきらさんのバカ!もう知らない」
「悪い悪い。今日の食事はご馳走するから、機嫌直してくれよ」
「・・・デザートは?」
「そりゃ勿論、ご馳走してもらいます。つくしちゃんっていう甘いデザートを」
「ばっ、バカー!意味が違うっての!」
「あははは」
今ではもう、雨が降っても悲しくない。
苦しくも辛くもない。
だって、いつでも貴方が寄り添ってくれるから。
笑顔と元気と、生きる活力を与えてくれるから。
だから私は、貴方との思い出が沢山詰まった雨の日が大好き。
〈あとがき〉
何を血迷ったか、急に「ベタな恋愛話を書きたい」と思ってしまい、この様な話を書いてしまいました。
突発的に書いた話なので、駄作も駄作です。
ま、突発的に書かなくても、駄作だらけですけどね・・・(泣)