日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

雪に戯れて (12)

2023年06月09日 09時30分38秒 | Weblog

 地図や旅の案内書にも記載されていない、飯豊山麓にただずむ、こじんまりした村営の宿に到着すると、彼等の自動車の音を聞きつけて外に出てきた宿を預かるお婆さんは、カヤの柵と板で頑丈に雪囲いされた入り口でニコニコと笑みを浮かべて彼等を出迎え、事務室脇の控え室に案内して皆にお茶を出すと
 「この時期はお客さんもなく、夕方、部落の人達数人が風呂に入りに来て、帰りに当番の男の人が風呂場を掃除して行く以外に、お客さんはおりませんので、ゆっくり遊んでいってください」
 「あなた達が来られることは、村の指導者である山上先生の娘さんから聞いておりましたので・・」
 「一人娘の理恵子さんも、この春には東京の美容学校を卒業して村に帰って来るそうで、親御さんも楽しみにしておりますわ」
 「この温泉は、それこそ湯量が豊富で勿論掛け流しですが温度が高く、温泉卵が出来る位ですので、入るときには浴場に備え付けの消防用のホースで遠慮なく沢山水を入れて薄めて下さいね。やけどでもしたら大変ですのでねぇ」
と温泉の自慢話をしたあと、話相手を待ち焦がれていたのか、手造りの干し柿を藁縄からはずしながら皆に勧め
 「この部落は昭和の初めころまでは、マタギ部落と言って、冬は猟師さんは熊を取っていましたが、開発が進んで縄文時代の遺跡もダムの底に沈み、熊もいなくなり今では猟師も少なく熊狩りも無くなり、温泉以外何のとりえもなく、特に宣伝もしませんので、春から秋にかけて口コミで知った顔見知りの常連客が渓流釣りに訪れて来るだけですわ」
と、ひと通り村の昔話と営業のことを親切に説明してくれた。 
 
 健ちゃんは、お婆さんの話が終わると、早速一風呂浴びてこよう。と、皆を誘い浴場に向かった。
 真っ先に浴場に入った健ちゃんが湯船に手を入れてみると成る程凄く熱いので、六助に大声で
 「六ちゃん、放水!」
と勇ましく号令をかけると、彼は浴場に用意されていた消防用のホースをひぱって来て惜しげもなく水を入れると、健ちゃんは、ころあいをみて湯船に飛び込み桶でかき回して湯加減が丁度良くなると「ヨ~シッ」と叫ぶと皆が入った。
 昭ちゃんが浴場の周囲を囲んでいる大きな岩石を見ながら
 「こんないい湯を貸切なんて、ご当家には申し訳ないなぁ~」
と言うと、健ちゃんが商売気をひらめかせて
 「本当だなぁ。これが東京にあれば一儲け出来るんだがなぁ~」
と、大きな岩石で作られた広い湯船と豊富に湧出する湯に満足して、夜間運転での長旅の疲れを癒した。
 窓の硝子に湯をかけて窓外を見ると、温泉から流れ出る暖かい湯で融雪した小川の淵には、雪椿の赤い花が数輪鮮やかな真紅の花びらを開いて咲いていた。

 早湯の六助が、浴衣に鉢巻姿で広間に戻って大広間に入るや、赤々とした炭火が山盛りになった囲炉裏端に、お婆さんと金髪の若い女性が居たので、彼はビックリして浴場に駆け戻り、健ちゃん達に
 「オイ オイッ!、先客らしい外国の若い娘がいるぞぅ~。どうする」
と素頓狂な声で叫んだ。 
 健ちゃんは湯船に顎までつかり頭にタオルを乗せたままニヤット笑うと
 「う~ん 飛び入りのお客さんかなぁ」
 「まぁ~、外国の娘さんに会えるなんて、正月早々縁起がいいことだ」
 「ところでその娘さんはホワイトかブラックか?」
と聞くと六助は
 「勿論、白だよ。細身で金髪が長くブルーの瞳が印象的で、滅多に拝めない外人さんだぞ」
と早口で喋ると、健ちゃんは落ち着いた声で
 「六ちゃん、魂消ることは無いさ。まさか雪国の妖精でないだろうな」
 「幸運の女神かも知れんぞ。勇気を出して行こうや」
と言いながら湯船から上がると、それでも浴衣の襟を正して先頭になって皆を連れて広間に戻った。
 後に続いた大助は、連絡はしていなかったが、若しかして美代ちゃんかな。と、思ったが黙って彼等の後についていった
 
 彼等は、囲炉裏端に遠慮気味に座ると、お婆さんが
 「この娘さんが、お餅と黄な粉や小豆アンコや田舎の味噌漬けを持って来てくれたので、お汁粉と黄な粉餅を作ったからご馳走になって下さいな」
 「田舎の餅は手つきで、また街のお餅とは違い大き目で粘りがあり味もいいですよ」
と言いながら、赤い漆塗りの大きなお椀に盛り付けしながら
 「この子は、街の診療所の娘さんで、県下の中学校の水泳大会では、何時も良い成績を上げているんですよ」
と紹介すると、彼女は正座して畳みに手をついて金髪を束ねた頭を下げて
 「わたし、美代子と言います。どうぞ一緒にスキーに連れて行ってください」
と丁寧に挨拶をした。
 
 健ちゃんは、畏まって自己紹介のあと皆を簡単に紹介し、大助は最後に紹介された。
 大助が緊張した顔で頭をピョコント下げると、美代子が口に手を当ててクスット苦笑いしていた。
 彼女は、お婆さんが手際よく盛りつけたお汁粉と黄な粉餅を各人の前に配り終えると、大助の傍らに座って目を合わせてニコット笑い、再度、皆に
 「わたし、大助君とは、昨年からお友達になったのょ」
 「彼の家に下宿していて、帰省中の理恵子さんが、今日皆さんが来られると教えてくれたのょ」
と快活な声で言ったあと、大助に対し
 「朝、理恵子さんが電話で、大ちゃんが先輩達と此処に来ると教えてくれたので、お母さんに送ってもらって来たの」
 「お爺さんも、お酒やTVに飽きて退屈しているので、時間をみて皆を家に案内して来いと言っていたゎ」
と、彼の横顔を覗き見してにこやかに説明していたが、健ちゃん達は彼女の容貌から間違いなく外人なのに流暢な日本語で、大助と人懐こいなれた話振りに呆気にとられ、互いに顔を見合わせて呆然としていた。

 美代子は、純白の襟首の長いセーターに、厚手のフラノ生地で仕立てられた黒色のスキー用のトレパン姿で、長い金髪を黒いヘヤバンドで束ねており、見るからに清楚な感じであった。 
 大助に対する態度は恥じらいながらも落ち着いており、久し振りに逢えた嬉しさを全身に漂わせていた。
 大助も、してやったりと思いが叶った顔で
 「宿に着いたら連絡しようと思っていたんだよ」
と喜びを隠して返事をし、彼らに隠し立てしていたことを気にすることもなく、澄ました顔でお汁粉を旨そうに食べた。
 彼等は、東京では見られない、大きめに切られた田舎の餅を食べながらも、各人は好奇心から美代子をチラッチラッと見ては、朝からの空腹を満たしていた。
 健ちゃんは、餅を食べながらも
 「あっ、はぁ~、以前、大助を病院に見舞いに来たと評判になったのはこの子だったのか」
と記憶を甦らせ、どうして二人が友達になったんだろうなぁ~。と、昭二とヒソヒソ話あっていた。
 それでも、二人が明るく屈託無く話し合う態度に雰囲気も和み、一緒に行動することに違和感もなくむしろ楽しみが増えたことを喜んでいた。

 皆がお汁粉で空腹を満たすと、横になって休んでいたが、お婆さんが
 「昨晩から降り続いた雪も朝方に止み、曇っているが風も弱いのでスキーには丁度良いわ」
 「湯上りなので風邪を引かないように注意してくださいよ」
 「スキー場は美代子さんが案内してくれるので・・」
と言ってくれたので、これを合図に健ちゃんが
 「ヨシッ!、夕方まで時間がたっぷりあるし、さぁ~初滑りに行こうや」
と言うと、皆は元気良く立ち上がり支度を整えてから、車にスキーを積んでスキー場に向かった。
 健ちゃんと六助は、迷彩服に戦闘帽と黒いサングラスをかけて、如何にも元自衛官といった姿であったが、昭ちゃんと大助は、普通にセーターとスキーズボン姿で毛糸の帽子をかぶっていた。
 後部座席に大助と並んで座っている美代子が、積極的に
 「この国道を山に向かって走ると、町営のスキー場があるヮ」
と教えてくれたので、健ちゃんは街に向かう一本道を走った。

 大助と美代子に遠慮して助手席に窮屈そうに乗車した昭二と六助が、後部座席の二人を見ようとバックミラーを自分達の方に向けようとしたところ、運転中の健ちゃんが
 「コラッ! 安全運転の邪魔をするな」
と大声を張り上げて注意したが、自分も気になるのか、時々、大助達をミラーで覗き込んではニヤットしていた。

 

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雪に戯れて (11)

2023年06月09日 09時28分37秒 | Weblog

 商店街恒例の正月初売りの日。
 八百屋の長男で大学卒業後、親の後を継いで仕事に一生懸命に励む昭二は、毎年正月は大勢の人出で店が賑やかになることを予想して、珠子にレジ係りを、大助には配達を担当してもらうことを臨時に頼んで、相変わらず店頭で威勢のよい掛け声でお客さんを呼び込んでいた。
 一方、通りを挟んで昭二の店と向き合っている精肉店の健太は、八百屋の人だかりを時々羨ましげに見ながら、両親と三人で黙々と精肉と揚げ物の仕事をしていた。 
 
 健太は、自衛隊の降下部隊出身で、背丈も高く体は鍛え抜かれて頑丈で、見るからに頼り甲斐があり、夜間は公民館で青少年達に空手を指導している。 
 年齢は昭二より2歳上で、普段、兄弟の様に親しく付き合っているが、町内の青年達を巧みに纏め、人の面倒見の良さは天性のものがあり、商店街の若者の間でも信頼感は抜群である。
 然し、昭二の様に愛想よくお客を呼び込むことは苦手で、この日も、たまたま通りがかった顔馴染みの居酒屋の娘奈緒が見かねてコロッケ揚げを手伝ってくれていた。
 そこに、早朝から仕事をしていて早々と店終いをした、海上自衛隊出身で健太の高校の後輩である魚屋の六助が顔を出した。 
 彼は小柄で細身であるが筋肉質の体形であるが、退職後、日が浅く在隊時の癖が抜けず快活な性格とあわせ行動が機敏で、健太を兄貴の様に慕っている。 
 朝早くからの仕事を終わって健太に挨拶に訪れ四方山話しのあと、皆で一杯酌み交わし新年会をしようと話を持ちかけてきたので、健太は即座に賛成し、六助の手慣れた段取りで昭二や珠子達にも連絡して呼び寄せ、各自が持ちよった料理で健太の部屋で賑やかに新年会がはじまった。

 仲間うちで慕われている健ちゃんは、酒盛りが大部進んだところで
 「今年は、越後湯沢は大雪でスキーには絶好のコンデーションなので行こうや」
と、話を切り出すと、珠子と奈緒は、それぞれ母親と一緒に親類へ新年の挨拶に房総と浜松に行くので、残念だけど参加できないと言い出し、大助は姉の珠子の顔を見ながら
 「僕も、今年は進学のため倹約することにしたので、旅費や宿泊代の高いところは御免だ」
と、残念そうに断った。
 そんな大助を見かねて、姉の珠子が
 「あのぅ~、田舎に帰省している理恵子さんの故郷には、公営で湯量が豊富な天然温泉の岩風呂があり、しかも、食材を持ち込めば、鍋や釜に食器類が全て揃っていて、一泊3千円の宿があると聞いたことがあるわ。皆で、料理をすることも楽しいと思うけど・・」
 「勿論、奥羽山脈の麓でゲレンデは無いらしいが、山スキーで自然の中を滑るのもいいと思うが・・どうかしら」
と言い出すと、健ちゃん達は、女性が参加しないことに少しつまらなそうな顔をしたが、低料金で自炊できる温泉場とゆうことに魅力を感じて、健ちゃんが
 「よしっ! そこに遠征しようや」
と提案すると、昭ちゃん、それに六助も大賛成して、健ちゃんの提案で、野菜や肉と魚介類など、各自が店にあるものを持参することにし、四輪駆動のレンタカーの大型ジュピターで行くことにきめ、そうすれば費用も安くあがり、こんないいことはないわと言うと皆が即座に意見が一致した。
 皆の威勢のよい話を聞いていた大助も、其処なら、もしかして美代ちゃんに逢えるかもと秘かに思い、彼女のことは話さずに
 「僕も、安ければ連れて行ってもらいたいなァ~」
と参加を希望し参加することになった。
 珠子は、大助の心情を察して、費用をかけずに行けるなら、何とか二人を逢わせてあげたいとゆう優しい思いやりから、咄嗟に思いつき話を持ち出したのである。

 珠子が、健ちゃんにせがまれ、その場で自宅に下宿していて、田舎に帰省中の理恵子に電話で予約を頼むと、暫くして、折り返して返事があり、連休前なら空いているとのことであった。
 彼等は、その間に地図を広げて大体の距離を調べていたが、交通量や道路状況を勘案し、道路が空いている夜間運転で行くことにし、途中休憩時間を入れても、目的地まで約15時間位掛かると計算した。
 そして、仕事の関係もあり平日の午後6時出発と決め、2泊3日の旅行とすることにした。

 正月の3が日を過ぎた日の夕方。 健ちゃんの運転で街を出発したが、関越高速は田舎から帰る車で混雑する上り線とは反対に下りの道路は空いていて、途中車窓から見えた、湯沢温泉のスキー場のゲレンデの照明が映し出す夜景が綺麗に眺められた。
 早朝の3時ころ、新潟近郊のICに着いたが、予想に反して雪が少なかったが冷え込みは流石に厳しく、昭ちゃんが用意して来た握り飯と六助がショップから仕入れきた熱いインスタントラーメンで車の中で朝食を済ませてから、各自が毛布を掛けて一眠りすることにした。

 仮眠から目を覚ました6時ころ、六助が
 「此処からは高速を降りて、国道を2時間位走った後は途中からは川沿いに山の中を走るので、5時間位かかるかなぁ~」
と地図を見ながら説明していた。
 走ってみると、成る程、国道とはいえ除雪で圧雪し凍結した道路は道幅も狭く2車線しかないが、幹線道路を外れ、山奥に向かう国道とは名ばかりの、鉄道沿いに曲がりく練った山沿いの道を進むたびに、濃い藍色で緩やかに流れる広い河幅沿いの険しい山道となり、健ちゃんは鉢巻をして眼光鋭く真剣な顔つきで運転していたが、誰もが話しかけることもなく、ひたすら山道を進んだ。
 車窓から眺める河の流れは、時には岩に激しく当たって砕け散り白い波飛沫を飛ばして急流になり、その川に架かる赤い鉄橋を何度も繰り返して渡り、所々に杉林に囲まれた集落が見える以外は一面の白い世界で、その静穏な景色は幻想的なユートピアの様に誰の目にも映り、誰も話すことも無く景観を眺めていた。

 ほぼ予定通り10時ころ、宿である梅華荘に到着すると、玄関前で老いたお婆さんが愛想よく出迎えてくれ
 「ようこそ来てくださいました、こんな雪の季節にはお客様はめったに来ませんので、あなた達、貸切りみたいですわ」
 「春から秋にかけては、山菜採りや渓流釣り、飯豊山への登山客、また、きのこ採りとにぎあいますが・・」
と、話相手を待ちわびて居たかのように、堰を切った様に話し出し、宿周辺の部落の様子を親切に説明してくれた。
 皆が、荷物を降ろして、待合室でお茶をご馳走になったあと部屋の鍵を受け取り、案内されて大学生が合宿で利用する廊下脇の寒そうな土俵のある相撲の練習場を見て、その奥の浴場の説明を受けて二階に上がると、広いキッチンと和室の部屋6室を見て回り、最後に日帰り客用の大広間を見せてもらった。 
 広間の中央には、彼等のために用意された炭火が赤々とした大きい囲炉裏があり、カラオケの機器も用意されていた。
 お婆さんは、囲炉裏の端に座ると、お茶を入れながら集落の歴史を朴訥な喋りで語り始めた。

 
 

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