昼下がりの河辺は、そよ風が心地良く吹き、セイター姿の二人は「いやぁ~、今日は暑いくらいだなぁ」と話し合いながら川岸の砂地を目標もなく、ひたすら歩き続けた。
小島君と江梨子の足跡がくっきりと、漣に洗われた波うち際の綺麗な砂地に整然と残され、遠くの街並みが青く霞んで見えた。 二人は語らずとも素足を通じて感じる温もりで感情を高ぶらせ、待ち望んでいた春が確実に訪れてきたことを肌身で感じた。
暫く歩み続けたあと、江梨子が「ね~ 少し休みましょうよ」と声をかけると小島君も「そうだな~ 俺もそう思っていたところだ」と答えて、乾いた砂地に腰を降ろしたが、しめし合わせた様に、二人とも両手を後ろに回して反り返る様な姿勢で素足を投げ出した。
小島君は腰を降ろすと早速いたずらぽく、足先で江梨子の足首を撫でる様につっくと、江梨子は小島君の顔を覗きこむ様にニヤッと笑い、今度は逆に小島君の足先を軽く蹴飛ばして離すと
「ねぇ~ 私の足ってどんな感じ?」「少しは色気があるかしら」
と、初めて異性の裸足に触れた感じを、彼はどの様に思ったのか興味深げに聞いてみたくなり尋ねたところ、彼も初めてなのか苦笑いしながら
「江梨子。お前の足は以外に柔らかいんだな。 もっと筋肉質だと思っていたが・・」
「それに、顔の色と違い白っぽいのでなんだか可愛い感じだよ」
と答えたので、江梨子は
「チョット~、比較対象が違いすぎるわ。わたし自信はないけれど肌も白いと思うけれどなぁ」
と、足を褒められたついでに余計なことまで説明してしまった。
自分自身も、母親に似て小柄だが、少し陽に焼けた顔を除けば全身の肌色が女性として見劣ることはないと日頃思っているので、自信を持って彼に強く印象付けておきたかった。
そんな話から気持ちが和らいだのか、江梨子は、身体を起こし小島君に対し真面目な顔を付きで、彼の目を見ながら、少し甘える様な話し方で
「ねぇ~ 今日これから、私の家に寄っていって~」
「わたし、両親から、恋人が出来たら必ず連れてくるんだよ」
「親としても、お前が好きになった人を一目見ておきたいんだよ」
と、日頃、言われていることを話したら、小島君は、少し驚いた様に
「チェッ! また 始まったか。珍しく河に誘うなんて、どうもおかしいと思ったわ。断っておくが、俺 お前の恋人なんかでないぜ」
「それは、時々、君の家に遊びに行っているが、今日はなんだか君の家に行く気にならないんだ」
「お昼にお寿司を貰ったときから、なんか変な予感がしたんだ。予感だよ!」
と、一発で拒否されたが、江梨子はそんな返事が返ることは充分に計算していたので、間をおかずに
「あのねぇ~ 親友も恋人も、たいして違いはないと思うがなぁ~」
「わたし、こうして河辺でお話をしていると、普段の小島君と違って、もっと親近感が湧いてきて、君の性格にとっても魅力を感じたわ」
「あんたは わたしのことどう思っているの?」「はっきり言って頂戴。 好きそれとも嫌い?」
「この場で正直に答えてよ~」「若し少しでも好きだと思ってくれるならば、今日はどうしても家に来てょ」
と、小島君に迫ると、彼は予期もしていなかった話の展開に、どの様に答えれば良いのか考えが纏まらず、砂をいじりながら、顔を合わせることなく
「どこが好きっだって言われたって。。。」
と答えたあと
「俺達 まだそんな深い関係ではないと思うが・・」
と言いつつも、目の前にある江梨子の胸が気になり
「お前の白いセーターの二つのこんもりと盛りあがったところを触ってみたいなぁ~」
と笑いながら言うと、江梨子は
「胸は駄目! 第一、セーターが汚れたら、このセーターを狙っている妹の友子にとられてしまうわ」
と、妹にかずけてやんわりと断り、その代わりか小島君に胸が合わさる位に身を寄せて、彼の顔近くで目を閉じたところ、彼も躊躇なく唇を軽く触れて
「これで いいんだろう~」
と、羞恥心を隠すようにブッキラボーに、江梨子の両肩を押しのけるようにして離すと、江梨子は
「いいわ わたし達の神聖な儀式は終わったわ」
「さぁ~ これから家に行きましょう」「母も君との交際を望んでいただけに、娘にもやっと恋人が出来たのかと安堵して大歓迎してくれるわ」
と、一方的に決めて立ちあがるや、スカートの砂を払い、ついでに小島君の尻のあたりをポンポンと軽くたたいて砂を払い落とすと、バックを置いた岩陰の方に向かい、今度は彼の腕に手を絡めて戻った。
余り気の進まぬ様な小島君に対し、家路に向かう途中、江梨子は
「わたしには、将来についてのある計画があるの」「それには、是非君の協力が必要なのよ」
「もしかしたら、君も、わたしと一緒に幸せになれるかもよ」
「わたしの、恋人であるとゆうことを忘れないでね」
と、少し戸惑う小島君を振るい立たせようと念を入れて話しかけながら、頭の中では母親の希望に応えて自分が描く将来の生活設計を、どうしても実現しようと、夢に向かい走りだした。
小島君は心の中で、彼女の母親の紹介で就職の話は有り難いが、彼女のことなので話に面倒な尾ひれがつくかもと、ヤッパリ嫌な予感が的中した。と、不安な気持ちで重い足取りで彼女についていった。
陽も傾きかけ西日を受けて歩く二人のあとを、二つの青い影が追って来た。
こんな現実的な生活意欲旺盛なところが、母親似と、しばしば周囲の人から言われている江梨子なのだ。