日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (21)

2024年12月03日 06時41分50秒 | Weblog

 織田君は、玄関先で珠子さんが用意した冷えた緑茶を美味しそうに口に含むと、一息おいて近況を簡単に話したあと、ころあいをみて「ヨシッ 行くか」と言って立ち上がり、玄関前で黒塗りの大型オートバイにまたがると、理恵子がリュックを背負い出てきて、大助から足の乗せ場や掴まるところを教えられて後部に乗車したが、彼が理恵子の服装等を見て、いかにもドライブに似合う姿なのを意外に思い
 「ヘルメットやJパン姿が案外似合うなぁ~」 「何時、準備したんだ」
と感心した様に言うので、彼女は
 「これ全部、大助君に準備して貰ったのョ」
と答えると、彼は大助にお礼を言って、珠子達に見送られて爆音を残して出発した。

 街中を走行中は、スピードも上げずに慣れた運転で家並みを過ぎて行き、彼女も初めて乗る割りに怖いとも思わなかったが、程なくして多摩堤通りに出ると、交通量も少ないためか、彼はスピードを上げて走りだしたので、彼女は彼の幅広い背中が風よけになり、心地良い涼風が顔を撫でる様で気持ちが良かったが、スピードが早すぎるのが気になり  
 「ネェ~、もうちょっとゆっくり走ってョゥ~」
と声をかけても、彼は聞こえないのか知らん顔をしてそのまま多摩川の上流に向かって運転を続けたが、彼女が背中に顔を寄せて
  「ネェ~ 聞こえているの」  「あまり早過ぎると、わたし 怖いヮ」
と叫ぶと、聞えたらしく少しスピードを落としたので、彼女は運転中の彼に話し掛けるのは迷惑かなと思いつつも、胸に溜まっているモヤモヤをどうしても吐き出したくなって、我慢しきれずに
  「ネェ~ あなた、今までに、こんな風にしてオンナノコを乗せて、遊びに行ったことがあるの?」 「教えてエ~」
と聞いても、彼は返事をしないので、少し声を大きくして同じことを聞いても答えないので
  「聞えているの~」 「一緒に行っていても、わたし、構わないけどサァ~」 「正直に、教えてョ~」
と肩を二、三度強くつっいて尋ねても答えないので諦めてしまい、そのまま走行して多摩川園の前に来ると入園口付近で一担車を止めて、何事も無かったような顔つきで「ここが、多摩川園だよ」と遊園地内の施設等を簡単に説明して、再び、綺麗に舗装された道を尚も上流に向かって走り出し、二子玉川の橋を越え暫くして河川敷にある整備された野球場めがけて降りて行き 「ここで、少し休んでゆこう」と言って車から降りた。

 芝生に腰をおろすと、彼は振り向きもせずに
 「川で身体を拭いてくるよ。一緒に来ないか。川に足を入れただけでも、気分爽快になるよ」
と誘ったので、彼女は言われるままに彼の後について行くと、彼はシャツを脱ぎズボンを捲し上げて川に膝辺りまで入り、タオルで身体を拭き始めた。  
 理恵子も、彼の真似をしてJパンを膝下まで巻くし上げて、恐る恐る川に足を踏み入れると、川の底は玉砂利で流れも緩く水も澄んでいて、ヒンヤリとして体全体が冷えてゆくようだった。
 彼は、一通り体を拭き終えると、彼女の近くに寄って来て 
 「リー(彼女の愛称)、相変わらず足の色が白いなぁ~」 「たまには運動をしているのか」
と脛に手を触れながら呟くので、彼女は無意識に彼の手をよける様に足を少し引いて
 「ウ~ン たまには珠子さんや近くの学校友達とテニスをしているヮ」
と答えた。
 彼に手を引かれ川から上がり、芝生を素足で踏みしめて歩くと柔らかいその感触が、故郷の公園を彼と歩いた当時を想い出させ懐かしかった。

 オートバイを駐車したところに戻ると、彼は両足を前に投げ出す様にして腰をおろしたが、彼女は彼に寄り添う様にして横崩しにして座り、リュックサックからジュース缶を取り出して彼に黙って渡してあげた。 
 彼は大分喉が渇いているとみえ「いやぁ~ これは美味しい。アッ 田舎の近くにあるリンゴ園のジュースだな」と珍しそうに言いつつ飲んで、途中で「リー 僕の飲みかけでもいいか」と差し出したので、彼女は
  「もう一本あるけど、全部飲みきれないので、あなた、帰るとき持って行きなさい」 「わたし、それを戴くヮ」
と返事をして受け取り二口飲んで彼に返した。
 この様にして、二人で一缶のジュースをなんのわだかまりもなく飲みあうのは、高校時代以来で懐かしい想い出が次々と故郷の情景と重ねあわせて甦ってきた。
 彼は、故郷の大川を思い出しているのか、静かにゆったりと流れる川面を見ながら、多摩川も以前は生活用水で汚染されていたが、最近は浄化されて鯉は勿論鮎まで昇ってくるようになったんだ。と、故郷の川と比較しながら話し続け、そのあと対岸を見つめて、この少し先にある白く霞んで見える建物が自分の通う学校で、宿は学校に近い等々力町だよ。と、指で方角をさしながら説明していた。
 理恵子は話を聞きながら、彼は普段どの様にして過ごしているんだろうかと聞きたい思いにかられた。
 彼は彼女の心を見透かすように、更に話を続け、このオートバイはアルバイト先の建築会社のもで、社長が通学やアルバイトの現場に行くときに使いなさいと言って貸してくれたものだが、社長は親切な人で、僕と同じ大学の先輩で勉強も教えてくれ、おおいに助かっているよ。とも話をしていた。

 理恵子は、その都度「そうなの、いいわネ」と返事をしていたが、どうしても聞いておきたいとの思いから、彼の腕に手を絡ませたり、周りの草をむしりながら、時々、彼の横顔をチラッと覗き込んだりしつつ
  「織田君 さっきも聞いたけれど、聞えない振りをして返事をして貰えなかったので、しつこい様で悪いけど、あなた、学校か職場に好きなオンアノコでもいるの?」
  「去年のお盆以来、全然、顔を合わせてくれないので、メールで聞く訳にもいかず、いま、直接、あなたの口から聞きたいの」 
  「ネェ~ 正直に教えてョ」 「もしもョ、仮にいると聞いても、わたし、この場では涙を流すことがあるかも知れないが、声を出して喚く様なことはしませんから」
  「それは、家に帰ったあとは、大泣きするかもしれないけど・・」 
  「両親や他の人には絶対に話はしませんので・・」
と、勇気を出して尋ねると、彼は渋い顔をして
  「どうして、そんなくだらぬことを聞くんだい」 「それは、学校や職場で日常的な話をするくらいの女の人は何人かはいるサァ~」
  「そんなこと、この広い世間では当たり前のことだよ」 「リーだって、普段、話をする男の友達がいるだろぅ」
と答えたので、彼女は
  「奈津子なんて、もう彼氏と新婚夫婦みたいに生活しているワ」 
  「江梨子も、気持ちはすっかり婚約している見たいに堂々と落ち着いて過ごしているヮ」  
  「わたしだけ、一人ぼっちで寂しくなって不安に駆られることがあるヮ」 
  「この間なんて、二人にこもごもと、もっと積極的に行動しなければ駄目ョとか。なんのために、わざわざ東京に出て来のサ。と散々言われちゃって答えに困ったゎ」
と、彼の切角の休日に愚痴を零すことは悪いと承知しながらも、胸にたまっている思いの全てを愚痴って話た。
 織田君は理恵子の話しに興味をしめさず、子供ぽいことをきくなよ。と、言わんばかりに面白くないような顔をしていたが、彼女も理屈は判っているが日々の心の中にたまっている寂しさを抑えきれず、つい口走った自分が情けなくなってしまった。
  
 

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