直近で生シラスを食べた記憶がいつだったのか定かでないくらいだから、相当期間口にしていないことは確かである。
遠ざけていたわけではなく、不漁で口に入らなかったのである。
3月11日の東日本大震災の日が相模湾のシラス漁の解禁日で、今年はその解禁日から不漁が続いているのである。
不漁の年は今年だけでなく、たいがいの場合は5月の連休が過ぎて水温が上昇するにつれてたくさん獲れるようになるのだが、今年ばかりは取れない状態が続いているのだ。
隣の駿河湾でも夏以降はぱったり獲れなくなって、秋に行われているシラス祭りが中止になったほどだそうだ。
例年なら三宅島辺りまで近づく黒潮の流れが、どういうわけか大蛇行をしていて紀伊半島沖合から東にそれたまま列島から遠ざかってしまい、八丈島の南の、さらに青ヶ島の南を流れているのが不漁の最大の理由のようである。
相模湾近くを流れていれば高くなる湾内の水温が、今年ばかりはどうにも上昇しないのだそうだ。
したがって、暖かい海のゆりかごを必要とするシラスにとって、生育しずらい環境になってしまっているのだ。
これも世界的な気候変動をもたらしているマッデン・ジュリアン現象とかいう特異な大気の動きと関係した異常気象の産物なのだろうか。
海上保安庁のホームページに掲示されている「海洋速報」の内の「海流図」を見ると、依然として流れは変わらず、列島に沿って北上してきた黒潮は、よりによって相模湾だけを忌避しているかのような流れ方なのである。
これでは獲れないわけで、流れがこのまま定着してしまうと、これから先も不漁が続くことになってしまう。
そうだとすると晩酌の楽しみが一つ減ってしまうことになり、それは大いに困るのである。
今回口にできたのは運が良かったようで、“金帰月来”の妻が網元に電話したところ「漁に出た船から今連絡があって、漁になったようです」という返事をもらって、その場で予約しておいたのである。
獲れるようになったと言っても、まだ例年のように店にぶらりと出かけて行って買って帰るというほどには獲れていないようだ。
運頼みでは名物の名が廃る。
秋シラスと言うんだそうである。
久しぶりのご対面となったシラスちゃんはとても小さくて繊細な物体の集まりで、一つひとつに目があって、透き通っていて、皿の上で輝いている。
口に入れると甘くとろけるようである。
これぞ生のシラスちゃん! いや、シラスさま!

生のシラスさま!

ハイハイが出来るようになった若が遊びに来て、床磨きにいそしんでくれた