daiozen (大王膳)

強くあらねばなりませぬ… 護るためにはどうしても!

太宰治/僕の月見草

2014年09月08日 | 詩心
(4年前の今日の文章、編集し直して載せました)

お訪ねした先を飾っていた白い月見草
花が闇に輝いていて、それで書こうと思った




太宰治は宿の娘に念を押すようにはっきり言ったんだ

いいかい、これは僕の月見草だからね
釆年また来て見るのだからね
ここへお洗濯の水なんか捨てちやいけないよ
娘さんは、うなづいた


太宰が月見草を選んだ事情を考えた
どうして月見草でなければならなかったか
富士には月見草がよく似合ふ
そう思いたい事情が太宰にはあつた

太宰は富士をどう見たのか
そう思案して私は答えに導かれた
太宰は月見草と待宵草の違いを知らなかったのか
太宰治は待宵草を知らなかったと言ったのは誰か
そこまでは私には分らない
だが「知らなかった」の評価は一人歩きする

彼は「なだらかな稜線の富士の実景は凡庸」という
強敵を迎え撃つほどに骨がある富士ではないか
井伏鱒二の恥しいオナラを世間にばらした太宰だ
恐いもの知らずの太宰らしく歯に衣着せぬ物言いだ

真実は往々事実のなかに隠れる
だが隠れていても真実はどこかに必ず顕れる
月見草の白色が富士に映えるかどうか
そんなこと私は知らない
本物の月見草は白色で間違いない
だが黄色はどうして偽物になるのか
黄色の待宵草を月見草と誤ったのは誰か
待宵草と月見草を見誤ったと評価される太宰

さて宿への帰途のバスで隣りあった老女
彼女はバスの窓から黄色の待宵草を見つける
狭い山道の傍の崖プチに咲く待宵草は良かった
老女にも山道にも似合う待宵草は黄金の価値がある
黄色の待宵草だがその価値は黄金にも匹敵する
太宰はバスの中の時間を気分よく過ごした
その場の状況下で想い浮んだ母親だったろう
老女に太宰は母親の面影をみた

宿に着いた太宰は老女を想いだす
老女に似合う黄金の価値ある待宵草
そんな太宰だから母親の花も育てたい
母親に似合うのはどんな花が好いか
世間の或る人たちは想うだろう
山道の崖っぷちに咲いた黄色の花が好い
だがそれは太宰の感性でなく或る人の感性
太宰の感性を勝手に決めつけてはなるまい

太宰は想う
細い山道の陰に咲く黄色の待宵草は好い
富士が見えるこの場所には何が似合うか
ここには‥そうだ白い月見草が好い
来年から僕の月見草をここに咲かそう
富士にはなによりも月見草が似合う
「ここへお洗濯の水なんか捨てちやいけないよ」
そう宣告するほど想いが詰った月見草

太宰治は待宵草と月見草を間違ったのでなく
待宵草よりも月見草に価値を観たのでもない
山路の断崖の路傍に咲くなら黄色の待宵草
富士がみえるこの場所なら白い月見草だ
月見草の準備をしながらも母を想っただろう
病弱で甘えることが出来なかった母だった
亡き母の面影を偲びつつ畑を作る太宰だ
来年は母と一緒に月見草も富士も見たい
来年こそは成功した姿を母に見せたい
その強い想いがこもった月見草なのです

太宰は「来年」とせず『釆年』とした
采年の心は「真実・実力」が明らかになった時
太宰で云えば一流と評価された時
月見草なら立派に咲いた時
宿の娘に語りかける時は「来年」とした
太宰は月見草を通して決意宣言をしたのです
僕の実力は本物なんだよ
来年は富士と肩を並べる超一流になるよ。


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