茨木のり子
わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがらと崩れていって
とんでもないところから
青空なんかが見えたりした
わたしが一番きれいだったとき
まわりの人達が沢山死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった
わたしが一番きれいだったとき
誰もやさしい贈り物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差だけを残し皆(みな)発っていった
わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った
わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた
わたしが一番きれいだったとき
ラジオからはジャズが溢れた
禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽をむさぼった
わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった
だから決めた できれば長生きすることに
年とってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのように ね
~~~~~~~~~~~~~~~~~
わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがらと崩れていって
とんでもないところから
青空なんかが見えたりした
わたしが一番きれいだったとき
まわりの人達が沢山死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった
わたしが一番きれいだったとき
誰もやさしい贈り物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差だけを残し皆(みな)発っていった
わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った
わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた
わたしが一番きれいだったとき
ラジオからはジャズが溢れた
禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽をむさぼった
わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった
だから決めた できれば長生きすることに
年とってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのように ね
~~~~~~~~~~~~~~~~~
非の打ち所のない人がいいか?
傷を抱える人のほうがいいか?
伴侶に選るならどちらがいい?
そんなこと当然決ってるよね?
生れただけで儲けものなのに
生れただけで上首尾・上出来
生れるって実に不思議なこと
いやいや、色んなことが起る
なまじっか出来が良かったり
みんなに可愛がられたりして
そんな自分を当然と想ってて
そんなものですよね誰だって
白紙の状態の心で生れてきて
思いがけない出来事に驚いて
思いがけない出来事に傷つき
思いがけない出来事に有頂天
自分ではなにも知らない間に
他人が描いたり己で描いたり
白紙の心に一杯描きこまれて
だけどそれが普通と想ってて
それが永遠につづくみたいな
だからこんなものと想ってて
壊れ崩れて初めて気づいても
気づいて遣り直せばいいよね
順調で当りまえの積もりでも
順調は当り前じゃないみたい
順調はむしろ不思議な出来事
傷ついてそんなことも思える
傷のないのが幸せなのでなく
傷ついて知る幸せでしょうか
傷つかなきゃ気づけない幸せ
幸せを知って幸せに生きよう
きれいなだけでは駄目ならば
きれいな心にお洒落しましょ
気づいたときに始まるお洒落
お洒落のきっかけはいつも今
そうなんだ誰も知らなかった
知らないままで死んでいった
不幸を嘆き・悔しがりながら
なぜ不幸なのかも気づかずに
知らなければ幸せは掴めない
頑なな心では幸せは掴めない
心は栗色に染めてはならない
手足は栗色に染まってもいい
背は屈して生きても構わない
真っ黒く焼けた肌も構わない
皺が刻まれた顔でも構わない
心が卑屈にならなければいい
甘い愛に浸りたいときはある
恋に酔い痴れたいときはある
異国を憧れるのもいいと思う
緊張しっ放しは身が持たない
寂しさに流されていてはダメ
快楽に溺れてしまってもダメ
人は頓珍漢になりやすいもの
油断して堕落する人間だけど
そうだよ遅すぎることはない
いくら年とっても遅くはない
美しくなるのに齢は関係ない
そんなこと、今日は覚えたよ
目を閉じて優しい光をみよう
目を閉じて優しい音をきこう
あなたは今がいちばん美しい
本当の美しさ‥感じられる心
幸せなひととき過ごしました
とっても有難うございました。
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