daiozen (大王膳)

強くあらねばなりませぬ… 護るためにはどうしても!

すっぽんに憶えあり

2014年09月07日 | (転載・記事)  総 合
すっぽんに覚えあり編集する
最終更新: teradatorahiko teradatorahiko 2009年05月25日(月) 14:02:36履歴


(大正九年九月号掲載文を読んで)

根津権現の境内を兄に連れられて弟妹が通りかかった。

夜がふけると、その辺りは静かになる。

『フクロウが鳴いてる』と幼い男の子が小声で言った。

中学生の兄が『あれはフクロウなんかじゃない。キツネだ』と言った。

兄の顔はすこしもフザケているように見えなかった。

弟の手を握りながら小学生の姉が『ホォーホォーって聞えたわ』と言うと、

『権現様のキツネは、なんだって出来るさ』と中学生の兄は答えた。

『すっぽんの鳴きまねも出来るさ』と続けたので、みんな感心した。

その時の幼い子が、大学生になって居酒屋に来ていたのだろう。

幼い心は『すっぽんは夜に鳴く』と記憶していたに違いないんだ。



(引用文)
根津権現の境内のある旗亭(きてい)で大学生が数人会していた。 夜がふけて、あたりが静かになったころに、どこかでふくろうの鳴くのが聞こえた。 「ふくろうが鳴くね」と一人が言った。 するともう一人が「なに、ありゃあふくろうじゃない、すっぽんだろう」と言った。 彼の顔のどこにも戯れの影は見えなかった。 しばらく顔を見合わせていた仲間の一人が「だって、君、すっぽんが鳴くのかい」と聞くと 「でもなんだか鳴きそうな顔をしているじゃないか」と答えた。 皆が声を放って笑ったが、その男だけは笑わなかった。 彼はそう信じているのであった。 そのあとでまたよくよく考えてみると、どうもその時にはやはりすっぽんが鳴いたのだろうと思われる。 ……過去と未来を通じて、すっぽんがふくろうのように鳴くことはないという事が科学的に立証されたとしても、 少なくも、その日のその晩の根津権現境内では、たしかにすっぽんが鳴いたのである。 (大正九年九月、渋柿)


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