近鉄系のホテルや旅館でメニュー表示と異なる食材を提供していた問題で、奈良市の旅館「奈良万葉若草の宿三笠」を経営する近鉄子会社「近鉄旅館システムズ」の北田宣之社長が10月31日の記者会見直前、2011年4月にメニューに入った「大和肉鶏の唐揚げ」の食材が当初から別の鶏肉と認識されて使われていたと報告を受けながら、会見で公表しなかったことが分かった。前日に社内調査で発覚し、三笠から社長に報告されていた。
北田社長は2日、三笠を通じて「記者会見では聞かれなかったので答えなかった。隠蔽(いんぺい)する意図はなかった」とコメント。31日の記者会見では10品目に及んだ一連の不適切な表示を「ミス」と強調し、故意に偽装したとの意図を否定していた。
三笠の川越吉晃総支配人の説明によると、「大和肉鶏の唐揚げ」のメニューを決めた前料理長に対して10月30日に電話で実施した社内調査で、奈良県産の大和肉鶏は一度も使われず、京地鶏やブラジル産が使われていたことが判明した。9月に現在の料理長に代わった後も、表示と異なる食材の使用は続いていた。31日に大阪市内であった記者会見の前に、北田社長に内容を報告していたという。
また、質問が出た場合に備えて、前料理長が話した内容を説明するための文書も用意していたが、記者会見でその内容に言及することはなかった。記者会見では、同社が調査した前・現料理長の認識など、偽装の意図についての質問が再三出ていた。
◇和牛偽装の加工肉、メニューに表示せず
近鉄系のホテルや旅館がメニュー表示と異なる食材を提供していた問題で、奈良市の旅館「奈良万葉若草の宿三笠」(ミシュランガイド関西掲載)が子供用献立で「和牛ステーキ」として出していた加工肉が、アレルギー物質の乳や大豆、小麦を含んでいたことが2日分かった。アレルギー物質が含まれていることは、メニューに表示していなかった。
三笠を経営する近鉄子会社「近鉄旅館システムズ」によると、10月から「バンビ御膳」の名称で提供した献立で「和牛ステーキ」と表示した肉は、実際には20グラムの肉2枚を使用して1枚のように加工した「成型肉」だった。業者への発注とメニュー作成を一任されていた料理長は、社内調査に「和牛と思い込んで使っていた」と釈明したという。しかし、納入時の段ボール箱に貼られたラベルには「牛肉加工肉(成型肉)」と記され、「豪州産」「原材料の一部に乳、大豆、小麦を含む」と明示されていた=写真・釣田祐喜撮影。これらの物質が含まれない生肉のステーキと思ってアレルギー体質の人が食べた場合、発作などを起こした恐れもあった。同社は、アレルギー被害についての調査はしていない。
また、会席料理の一品として出していた「和牛朴葉(ほおば)焼き」も、豪州産の成型肉で、アレルギー物質を含んでいた。
成型肉は生肉に脂身などを加えてつなぎ合わせた加工肉。三笠の仕入れ値は1キロあたり約3200円で、使う予定だった和牛より約5000円安い。
食品衛生法は容器包装された加工食品についてアレルギー物質の表示義務を課しているが、飲食店のメニューなどでの表示義務はない。ただ、アレルギー事故などを受け、外食産業でも自主的に表示する動きが出ている。
三笠の修学旅行向けパンフレットの食事メニューには、今回の2品は含まれていない。
食材偽装:「修学旅行の思い出台無し」 奈良・三笠
毎日新聞 2013年11月01日 15時42分
近鉄系のホテルや旅館でメニュー表示と異なる食材を提供していた問題で、奈良市の「奈良万葉若草の宿三笠」は、修学旅行生が多く宿泊する施設だった。利用した学校の関係者からは「修学旅行は生徒の思い出に残る行事なのに……」と憤りの声が聞かれた。
昨年宿泊した神奈川県内の私立中学校の学年主任は「ニュースになるので仕方がないが、できれば旅行の良い思い出のまま、生徒に事実は知られたくない気持ち。修学旅行で奈良を選ぶ理由は寺院や文化遺産があるからだが、食事にも関心がある。食事を覚えている生徒もいるかもしれない」と話した。
昨年と今年に続けて宿泊した東京都内の公立中学校は、東大寺など文化遺産に近い立地や若草山からの夜景などが気に入って三笠を選んだという。男性校長は「料理の内容で宿泊先は選ばないが、公のパンフレットに記載した食材と異なるものを出していたなら信頼を損なう。生徒も問題を知ったら、残念に思うだろう」。三笠に返金を求めるかは、今後検討するという。【釣田祐喜、宮本翔平】
◇奈良市長が苦言
奈良市の仲川げん市長は1日の定例記者会見で「奈良に対する全体的なイメージに影響を与えると思うので残念」と苦言を呈した。
「三笠」の問題とされたメニューの利用客の大半は修学旅行だった。仲川市長は「『子供だまし』という言葉もあるが、子供だからこのレベル(の料理やサービス)で良いという安易な気持ちは慎むべきだ。修学旅行で良い思い出になったなら将来、何度も奈良に来てもらえる。子供だからこそ本物を伝えないといけない」と、おもてなしの重要性を説いた。【宮本翔平】
◇「返金は」苦情殺到
メニューの不適切な表示が発覚した近鉄グループ2社には、利用客などから苦情が殺到し、社員らが対応に追われている。
豪州産の成型肉を「和牛」と表記していた「奈良万葉若草の宿三笠」(奈良市)などを経営する「近鉄旅館システムズ」(同)によると、利用客から「返金の対象になるのか」「信頼していたのに残念だ」などと苦情や問い合わせの電話がひっきりなしにかかってくるという。ビーフカツサンドなどに成型肉を使用していた橿原観光ホテル(奈良県橿原市)では昨日、館内に「おわび」を掲示した。
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