諸葛菜草叢記

 "窓前の草を除かず“ 草深き(草叢)中で過ごす日々の記

エンゼルス・トランペット・哀歌

2009-08-30 17:35:06 | 日記・エッセイ・コラム

  ■ キダチチョウセンアサガオ属の花 エンゼル・トランペット(園芸名)  ナス科の植物。原産は、中南米、インドの熱帯地方。2mを超える大株に成長します。黄色い大型の花を咲かせる様は、結構な迫力であります。

  「人間は、天使でもない。獣でもない。不幸なことに、天使のまねをしようとおもうと、獣になってしまう。」(『 パ ン セ 358 』)と、パスカルは、言っています。

  天使のまねをしようと思ったわけでは、決してありません。しかし、「 不幸なことに、獣にされ 」 かかった近所のご老人の、本当にあった話をします。

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    泉谷 善介さんは、此の8月で後期高齢者と名付けられた々の仲間入りをした。しかも、彼は、独居老人です。大きい農家の長男として生まれた善助さんは、紆余曲折の後、現在の境遇に至っておりますが、此のお話とは関係ないので、それは、省略するといたします。

  善介さんは、数年前、知り合いから、エンゼル・トランペットの一株を貰い受けた。めずらしい花の形だったが、それほど興味はもてなかった。、マア、枯らしてしまうのは、可哀そうということで、家の西側にある畑の道路沿いに、植えて置いた。その夏、大株に成長して、沢山の花を付けました。「殖やしたら、おもしろいかも。」 ▼ そこは、善介さん,長年農業で鍛えましたので、植物栽培に関しては、プロであります。毎年殖やし、100本近い株を100mにわたって植えつけました。施肥の具合もよく、2mを超える大きい株に育ち、無数の黄色い、しかも、デカイ花をつけました。満開のエンゼル・トランペットが、道沿いに列をなす様は、まさに、壮観であります。

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  「ワ~! きれいネ~! 鼓笛隊のトランペットにできるかも~♪#」 

  善介さん宅の南、数百メートルに、最近、十軒ばかりの新興住宅が建てられました。エンゼル通り(いつの間にか、誰言うとなく、こう呼ばれています。)は、通学する子供たちの数が増えました。この辺りは、8月26日が、始業式です。登校時の子供たちの声が、響きます。

  【  キン~コン~カンコン!キン~コン~カンコン! こちらは、防災○○でーす。○○警察署からお知らせ致します。児童の下校時間となりました。地域の皆さん~!、子供たちの安全を守るために、ご協力をお願いいたしま~す。 】

  子供たちの下校を知らせる町役場からの一斉放送です。善介さんは、エンゼル・トランペットの大株の根元の雑草を抜いておりました。下校する子供たちの声が、聞こえてきました。善介さんは、朝の子供たちの言葉が、耳に残っております。腰に選定バサミさげて、子供たちが近ずくのを待ちました。

  「 君たちー、良かったら持って帰りナ~。エンゼルの花が終わったら、茎だけにして挿し木して、日影に置いて、水を毎日やれば、来年は、自分ちの庭で咲かせられるヨ・・・~。」

  善介さんは、声は野太いのですが、出来るだけ優しく言いました。照れ気味だったので、やたらに説明が長いのでありますが、3人の女子児童は、まるで聞いておりません。少々図体のデカイ男が、節くれだった手で、花を差し出して、なにやら言っております。それに、いきなり立ちはだっかったと言う感じです。3人とも後ずさりしました。どうしてして良いかわからずに、怖そうに、善介んさんを見つめるばかりです。▼ 年上の男の子が、急ぎ足で近ずいてきました。やおら女の子達の背中を押すようにして、善介さんとの間に立ちました。「 知らない人に、声かけられたら、すぐに・・・・ !」  男の子は、3人を即してその場を立ち去りました。男の子は、何度か振り返りましたが、みんな急ぎ足でした。

  「 マッ~タく~! 近頃のガキどもは、ろくに挨拶も出来ねのかや! タダー花くれてやるちゅうに、!」

  善介さんは、一人取り残されてしまいました。親切をアダにされた気分で、ガッガリです。間が持てず、裏木戸から家に入りました。いやな気分を引きずっております。、ちょうど、のども渇いていたので、缶ビールを一本飲みほすと、そのまま、寝入ってしまいました。

  30分後、青い回転灯を回した町の防犯パトロール・カーが、エンゼル・トランペット通りを、ゆっくりと通過しました。数分後には、警察のパトカーも廻ってきました。バイクに乗って交番のおまわりさんが、やってきました。そして、付近を見て廻りました。情報を取ろうにも通り沿いの家々は、農家で、日中には人気はありません。しかし、【痴漢事件】は、夕刻には、地域内の人たちの知ることになりました。

  家に帰った男の子は、母親に、「花をくれると言って、痴漢が、妹に近ずいてきた・・・。」と、少し興奮ぎみに話した。母親は、「子供が、学校の帰りに、痴漢に遭いました。」と、学校の担当に連絡を入れる。学校は、まず警察へ。地区内の防犯委員、PTE役員へと連絡網は走りました。学校の危機管理のマニアル通りです。▼手回しよく、地区内に防犯体制が、しかれた経緯はこのようでした。エンゼル通りは、【 痴漢特別警戒地区 】になりました。知らないのは、善介さんだけでした。、眼を覚まして、ずっと家の中にいたのですが、補聴器をはずすと、周りの喧騒は、全く聞こえてこないのです。

  ★ 閑話休題的画像の挿入

  ■ マルハルコウ草 (円葉縷紅草)

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  マルバルコウ草は、熱帯アメリカ原産で、エンゼル・トランペットと同じ出自ということになるでしょうか。園芸用として輸入されたようですが、今では、野生化して、荒地化した畑、道端、等いたるとことに見られます。つる性で、繁殖力も旺盛です。、群落を作り、紅色の無数の小花を付け、ひときわ鮮やかです。花言葉は、猜疑心 用心深さ。

  翌日の午後、そろそろ、町の防犯放送が始まるころでした。善介さんは、エンゼル通りとは反対側にある柿木の下草を払っておりました。ルコウ草の蔓も木に巻きつき繁茂しております。▼ バイクが、善介さんのすぐわきに止まりました。交番のおまわりさんです。バインダーに挟んだ書類を見ながら、何やら話しております。善介さんは、補聴器を出して付け、もう一度聞きなおしました。

 「 昨日、向こう側の通学路に痴漢が出た。学校帰りの小学生に、『花をあげる』そう言って、近ずいてきたようだ。怪しげな人を見かけなかったかね?」

 善介さんは、自分の事だと直ぐにわかったので、「 なんだって~!、それは、オレだよ。何が痴漢だ~! 」といったものだ。交番のおまわりさんは、キョトンとした感じで、善介さんを見つめ直しました。青い回転灯のパトロールカーが来て、乗員が降りてきて、話に加わりました。老人会のパトロール係もやってきました。▼ 結局は、全員が顔見知りで、善介さんの話に納得しました。おまわりさんは、「『住民協力の上 痴漢事件は、解決』として書類を本署に提出して置く」といて、バイクを飛ばして帰ってゆきました。

  これで、此のお話は終わりですが、後日・・・・・。

 「 善さん、薄汚れた野良着姿で、子どもに話しかけるから、えらい勘違いされるんだ。ドウセ暇持て余してるんだんだったら、これを着てパトロール奉仕してよ。」  そう言って、老人会のパトロール係の役員さんが、蛍光グリーンのベストと腕章を届けにきました。

   防 犯 パトロール 中  ベストの背には、黒い文字が印刷されております。善介さんは、コザッパリした身なりに着替えて、ベストを付けて、道路の辻へ立ってみました。

  「 こんにちは・・・・!こんにちは~# こんにちは・・! 」

  子どもたちは、2~3人ずつかたまって、元気よく挨拶をして、通ります。「あの時の子供は・・・・・?、」 善介さんは、どの子だったかわかりませんでした。善介さんは、横断中の黄色の小旗を手にして、子供たちを誘導します。子供たちは、安心したように、それぞれの方向に帰ってゆきます。

  「 なんで~?、あんな事になるんだんべ~・・。どうして・・・!?」

  善介さんの立っている道路のすぐ脇には、田んぼっ川が流れております。今は、コンクリートで護岸されていますが、彼の子供の頃は、素掘りのままでした。学校帰りには、鞄を岸の草むらへ放り投げておいて、川へ入り、『エビガニ(アメリカザリガニ)を良く獲ったっけ。』 家に持ち帰り、つぶして鶏の餌にすると、「いい卵を産む。」と親が喜んだ。

  そんな感慨に耽る、善介さんでした。

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鷺 草 賛 歌

2009-08-13 14:57:23 | 日記・エッセイ・コラム

  池神の 力士舞かも 白鷺の 桙啄(ほこく)ひ持ちて 飛びわたるらむ。(万葉集 巻16 3831)

    池神の力士舞は、仏法守護の金剛力士に扮して、白衣をつけた桙をもって、舞う踊りの事である。歌の意は、「白鷺の飛び来たった。ありがたい力士舞の矛を嘴にくわえて、持ってきてくれたのだろう。 (その姿は勇壮に見える) 」と言ったところだろう,(か?)

   ■   サ ギ 草

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   空高く舞う鳥は、神よりの使者である。人は、神への祈る。神は、応えて、それを鳥に託すのだ。鷺という字は、路と鳥から作られている。【 路の字の要素をなしている〈各〉は、人の祈りに応えて神の降下を意味する。=各の口は、人の祈り、祝詞が入れられてた神へ捧げられた函である。夂は、神の降下する脚の形 を表し、各は、古くは、〈いたる〉を意味している。=】(白川静 文字逍遥 参)  ▼路は、神の降り来るミチである。その路を頭に戴く 鷺は、従って、天空の彼方から、神の降臨を手助けする役割を背負った有り難い鳥なのである。

  万葉の白鷺の歌は、本物の鷺よりも、将に、この鷺草の姿かたちを、詠ったにふさわしいように思われてならないのである。