





尾瀬を訪れるひとは、8月の下旬に入るとめっきり少なくなる。あたり一面閑散として時たま行きかう人に出くわすと、人懐かしい気持ちになる。生活感のないシーンと張り詰めた静寂な空間である。その中で、時折聞こえる鳥のさえずりと、風による木立や葉のこすれる音が不気味に聞こえる。
風は、生き物のように息をしている。あるときは強く吹き、またあるときは弱くなる。そしてぴたっと止まる瞬間もある。花の写真撮影は、その時がシャッターチャンスである。
その感覚を味わうなら、まず寝転んで目を閉じよう。葉のこすれる音がどこからともなく聞こえはじめ、徐々に大きくなり、そして徐々に去っていく。ヨシなどの葉が乾燥しきった秋口は、迫力ある風の息使いに自然の驚異すら覚える。
数十年前、ステレオ効果を売りにした映画館が現れ、私は観に行ったことがあるが、その類ではない。
童話の世界では、風が「ぴゅっー」とふくと何かの予感を連想させる。風は、目に見えないだけにドラマチックである。