「人生」という大きな時間の前に立たされると、それは ささいな一瞬に過ぎない。
だから、わたしたちは大抵生き延びる。
傷とともに 生き延びるほかないのだ。
「痛み」という踊り場で じっと立ち止まってみる勇気もなく、階段を駆け上っては 迷い降りてきてせわしなく人生をやり過ごす。
すれ違う横顔も、見ないふりをして。
よりよく生きようと 願うことは、ときにわたしを苦しくさせる。
だれの記憶からも消えたい朝も人知れず変化のときを迎えていると言い聞かせ、殻のこころへ帰りつく。
いっそすべて忘れたような顔をして物語の傍観者であれたなら。
それでも わたしの人生から「わたし」という傷を消し去ることはできないのだ。
:ふづき・ゆみ 詩人
心の傷は消し去ることはできないので「死ぬこと以外かすり傷」だと思って癒えるのを待つ。